上品なイタ車を日常に、30万円以下で買えるアプリリア。SR125新車試乗記

欧州の日本車? アプリリアは極限の頂点モデルを作ると同時に、スクーターなど小排気量車も作る欧州では珍しいメーカー。国内正規ではSR GT200/125というモデルを提案してくれたばかりだが、バイク館ではそれのGT「ではない」、普通の125バージョンを用意してくれた。

取材協力:バイク館(https://www.bikekan.jp/)

アプリリアSR125……279,000 円(消費税込み)

ロード向け版、そしてリーズナブル!

アプリリアが日本市場に提案してくれたSR-GTは、プレミアムなスクーターかつちょっとオフテイストも入れ込んだ、国産に例えるとホンダPCXのオフテイスト版、ADV160的な位置づけ、といえるだろう。センタートンネルもあり、走りの方にも妥協はない作りでアプリリアファンを引き付けている。
一方でインド市場にはSRの後にGTがつかない、素のスクーターも存在した。車名は同じながらスタイリングも違い、こちらはステップスルー構造でより日々の使い勝手が良さそう。全体的なスタイリングからして、アクティブ感はありつつもSR-GTに比べればよりストリートに向けた、日常使いで活きるモデルと位置付けられそうだ。しかも価格は28万9000円である。これでアプリリアに乗れるなんて!

意外や「ジェントルレーサー」

アプリリアのキャッチコピーは「be a racer」、「レーサーであれ」、なわけだが、このSR125についてはルックスこそなかなかスポーティながら、その性格は意外や優しい。実は兄弟車に160cc版もあるため、125cc版はさらに余裕があるという背景もあるだろう。SOHC3バルブのエンジンはスムーズで静か、インド本国ではユーロ6に相当する規制値もクリアしているというからクリーンでもあるのだ。
始動すると静かで、アクセルを開けるとすぐに駆動が繋がりトルクで引っ張っていってくれる特性。レーシーなアプリリアだけに高回転域で駆動が繋がり、そのまま高回転域で一気に速度を乗せる、シグナスX的な作りかと思いきやまるで逆で驚いた。低回転域からスルスルと進む感覚はむしろPCX的上品さを持っていて、いくらアクセルを開けてもエンジンは6000rpmほどで変速を続け、速度が乗ってこない限りその領域を超えることはないのだ。
アプリリアに抱いていたイメージからすると少し肩透かしというか、面食らうが、逆に日常的に使うならこちらの性格付けの方が疲れずに付き合い続けやすそうであるし、燃費にも期待ができそうだ。エンジンの性格においてbe a racer感はとても薄く、ジェントルな印象となった。

光るアプリリアイズム

エンジンが優しいから、では車体の方ものんびりしているかと言えば、ステップスルー故の付き合いやすさはあるものの、こちらにはbe a racer感が残されていた。海外スクーターによくある、ちょっと腰高なポジションの時点で重心位置が高くスポーティな気持ちになる。前後同じサイズのタイヤを履いているのだが、そのおかげかフロント周りはドッシリとした安定感があり、その安定感ゆえに積極的に切り返したり寝かし込んだりといった操作がしやすかった。フロント周りに加えタイヤも剛性そのものは高めのイメージ、そしてブロック形状ゆえ、そのブロックがたわんであらゆる路面状況でもしっかり掴んでくれる。スポーティさの中にも安心感のある感触だったのだ。
Uターン時に気付かされたのは、車体が意外と長いということ。1365mmというホイールベースは、例えばPCXの1315に比べるとかなり長いと言え、Uターンではハンドル切れ角がしっかり確保されている割には「意外と回転半径が必要だな」という印象。ただこの長さが安定感を生んでいるとも言え、静かなエンジンと共にトコトコと走り続けることも苦にしない。そしてスポーティな気持ちで接したい時はシートの前の方に座り、意識的に前輪に荷重すれば先述したフロントのしっかり感と合わせて楽しくスポーツできるのだった。
さらにスポーツ心をくすぐってくれるのはブレーキの効きだ。フロントのディスクブレーキは本当に良く効きかつコントローラブルでアクティブな走りをさせてくれ、かつ同時にリアとの連動も非常に有効。リアブレーキはドラムタイプながら前後の連動具合がちょうど良く、左側のレバーを引けば素晴らしい配分で前後ブレーキが効き、安心してギュッと止まることができた。ブレーキ性能が安心だとスポーツマインドも盛り上がるというもの。こんなところにもアプリリアイズムを見た。

メットホルダーだけ付けてストリートへGO

スポーティなスクーターは実用性がイマイチ、ということもあるが、その部分はあまり気になることもなかった。確かにフロントポケットはないが、そのぶん膝周りのスペースには余裕があり、大柄なライダーでも窮屈な感覚は少ない。またシート前方に座るスポーツライド時にも膝がつっかえるということがないため楽しみやすい。
シート下は後部が燃料タンク、前部にメットインという構成。半キャプ以上のヘルメットを入れようとするとさすがに厳しいが、ちょっとしたバッグなどをしまっておくには便利なスペースであり、あるとないとでは大違いだしUSBアウトレットや自動点灯のライトも備えるため夜間も便利だろう。
車体がちょっと大柄ということもあり、ライダーの快適性は確保されているし、タンデムシート部もけっこう広く快適そう。ウイング形状のスポイラー(?)はクイッと上を向いているおかげでタンデムグリップとしても機能しやすいし、パッセンジャーの尻をホールドしてくれる安心感もある。加えてセンタースタンドを立てる時に大変重宝した。
一点だけ実用性で注文があるとすれば、ヘルメットをロックできるフックがシート下にないため、ヘルメット盗難が怖いということ。日常のストリートユースで使うなら、汎用のヘルメットホルダーだけはつけた方が良さそうだ。

上品なイタ車を日常に

ルックスは明らかにイタリアンで、apriliaの文字も眩しく所有欲を満たしてくれるSR125。ハンドリングやブレーキ性能にはアプリリアらしいスポーティさを潜ませつつ、それでいてエンジンや変速設定は疲れずに日常的に付き合いやすい作り込みとされているところが面白い。またやや大柄なおかげで(筆者のように)大柄なライダーでも窮屈に感じることなく乗れるのも魅力に思えた。
もちろん、それに加えて価格設定もポイントだ。28万9000円の原二スク、しかもイタリアンブランド。総合的に見てこれはなかなか魅力的ではないか。

 シャープなルックスと誇らしげな「a」マークがイタ車感を盛り上げてくれる。前後14インチのホイールということもありスポーティなルックスではあるものの、車体はわりと大柄でゆったり乗れる懐も備えている。またSR-GTと違ってステップスルーになっていることで乗り降りのしやすさは格段に高く、日常使いでは助かるポイントだ。足つきは、シート高自体はいくらか腰高に感じるものの、スリムで足が下ろしやすく安心感が高かった。(ライダー身長185cm体重72kg)
また乗車姿勢は足を前方に投げ出せないためかしこまった乗り方になりがちな14インチ車ではあるが、フロントカウルにつま先の逃げ部分があり意外と快適だった。またステップボードから少しだけつま先を外に出すとさらにリラックスできることにも気付けた。タンデムステップを出すのが少々難しかったのも気づいたところ。なお、せっかくイタリアンブランドのアプリリアに乗っているのだ。アレイシ・エスパルガロやマーベリック・ビニャーレスになった気分で、こんなパーカーを着て乗るというのも楽しさに思う。

ディテール解説

フロントは120幅の14インチホイールを採用。後輪と同じタイヤサイズであり、剛性の高いしっかりとしたハンドリングを提供。ブレーキは2ピストンキャリパーを備え強力な効きを見せ、また車体はその効きにしっかりと対応している。

3バルブのSOHCエンジンは7000回転で9.9馬力を発揮。アプリリアだけにかなりパフォーマンスに振っているのかと思いきや、意外やその性格はジェントルで、回転数は低く抑えてトルクで引っ張っていく特性だ。

片側のみで、かつプリロード調整などもできないベーシックなサスだが、巻き数が多いおかげか作動性は良好でスポーティなマインドも快適性も良いバランスで満たしてくれた。

ライダー部もパッセンジャー部も広めのシートは、硬めではあるもののフィット感が良く快適。後端が上に向いているスポイラーはタンデムグリップとしても優秀で、かつタンデムシートよりも少し上に出ているためパッセンジャーの尻をホールドしてくれそう。

シート下は後ろ側に燃料タンク、前側にラゲッジスペースという構成。ラゲッジスペースにはライトとUSBアウトレットがあるが、容量自体は浅めで入れられるヘルメットは限られるだろう。シートで挟み込めるヘルメット用のフックが欲しかったところ。

消音性が高いおかげか、それともそもそも低回転域で繋がる変速の設定のおかげか、排気音は静かで住宅街でも気にならない、リアタイヤはフロントと同じ120/70-14というサイズ。リアはドラムブレーキだがこれが良く効き、かつ前後連動の配分も絶妙で、止まれる安心感は絶大だ。

ブーメランみたいなシャープなV字ライトはLEDでとてもスタイリッシュ。カラーはこのブルーの他にレッド/ホワイト/グレーが用意される。塗装のクオリティもなかなか高く、素直にカッコイイと思える仕上げだ。

Xの字が浮かび上がるテールライトもLEDでスタイリッシュ&スポーティ。ウインカーは電球式。掴みやすいスポイラーはセンタースタンドを立てる時にも重宝した。

とてもシンプルな左右スイッチ類。左側はかつてアプリリアは配置が複雑だったが、SR125は国産車同様の配置で何も迷うことはない。右側はセルボタンの横にもう一つボタンがあり、これはメーター内の表示を切り替えるもの。アクセルから手を離さずに操作できるというわけだ。同じ機能のボタンはメーターの所にも備わっている。

フル液晶メーターは温度や時計表示など日常に便利な多彩な情報を同時に見せてくれるだけでなく、燃料計や速度計など瞬時に読み取りやすい設定で好印象。手前にある二つのボタンのうち左側のボタンは右スイッチボックスのセルボタン隣のボタンと同じ機能。

フロントポケットがないぶん膝の周りはスペースが広く、長身ライダーはもちろん、スポーティな気もちでシートの前の方に座る際にも窮屈にならない。ステップスルーのためコンビニ袋などぶら下げやすく、そんなニーズに対応するコンビニフックを装備する。

主要諸元

モデル年:2021年 
排気量:125cc 
タンク容量:6L 
車体サイズ (全長/全幅/全高):1,985mm 806mm - 
タイヤサイズ:F 120 / 70 - 14 R 120 / 70 - 14 
馬力:7.3kW (9.9PS)/  7000 rpm 
製造国:インド 
保証内容:バイク館保証24か月

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著者プロフィール

ノア セレン 近影

ノア セレン

実家のある北関東にUターンしたにもかかわらず、身軽に常磐道を行き来するバイクジャーナリスト。バイクな…