「ホンダA型」や「カブF型」が電動アシストで復活する? 戦後日本のモータリゼーションを支えた”バイクモーター”はエンジンから電気モーターへ

敗戦後日本のモータリゼーションの一角を支えたのは自転車と、その自転車を補助エンジンでアシストする「バイクモーター」だった。そのバイクモーターがかつてのガソリンエンジンから電気モーターに変わり、電動アシスト自転車として現代のコミューターとして活躍している。そして、電動アシスト自転車と電気バイクモーターは、次のフェーズへと進む。

「SmaChari(スマチャリ)」って何?

ホンダはこのほど社員の独創的なアイデアなどを形にして社会の課題を解決したり、新たな価値観を創造を目指す社内新事業創出プログラム「IGNITION(イグニッション)」から電動自転車向けサービス「SmaChari(スマチャリ)」の展開を発表した。

スマチャリは電動(アシスト)自転車で使える”コネクテッド”サービスで、スマホアプリを通じて自転車の状態や走行状況を表示・記録するだけでなく、ナビやコミュケーションツールとしても使えるシステムだ。
同様のサービスはバイク用ではすでに上級モデルを中心に各社で採用が進んでおり、車体と連動はしないのであれば「HondaGO RIDE」といったスマホアプリも存在するし、自転車用として各種アプリもリリースされている。

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スマチャリの真に画期的なところは、コネクテッド機能を搭載したバイクのように自転車の車体情報をリアルタイムで連動できる点にある。当然、そのためには車体側になんらかのシステムが搭載されてなければいけないのだが、それが今回発表されたワイズロード製の電動アシスト付きクロスバイク「RAIL ACTIVE-e」だ。

コネクテッド電動アシスト自転車「RAIL ACTIVE-e」

「RAIL ACTIVE-e」は幅広い層に人気のクロスバイク「KhodaaBloom」をベースにバッテリーと通信ユニット、アシストモーター等をセットにした電動アシスト自転車で、この電動アシストユニットにスマチャリとのコネクテッドシステムが搭載されている。

RAIL ACTIVE-e
RAIL ACTIVE-e
取り扱い店:Y's Road(ワイズロード)
予定価格:22万円(税込)
発売日:2023年9月
受注開始:2023年5月
車両重量:15kg
モーター定格出力:250W
バッテリー:24V10Ah

ホンダとコラボした大手自転車販売店「ワイズロード」での取り扱いで2023年5月から予約を開始となり、発売は9月を予定しているという。
現段階ではRAIL ACTIVE-eという自転車として販売されるが、将来的にはこのスマチャリと連動するユニット(バッテリー、通信ユニット、アシストモーター)が、RAIL ACTIVE-eだけでなく、いろいろな自転車に装着できるようになる予定だ。つまり、自分の好きな自転車を電動アシスト化できるようになるのである。

脱着式のバッテリー。その根元に通信ユニットを搭載する。
ペダルの直下に電気モーターによるアシストユニットを格納する。
スマチャリとRAIL ACTIVE-の詳細はコチラ!

「バイクモーター」はアシスト自転車の元祖

「バイクモーター」という単語をご存知の方は年配かあるいはバイクの歴史が好きな方であろう。
戦後すぐの困窮の時代に自転車を安価かつ簡便に自転車を動力化できるユニットとして補助動力用エンジン(とその周辺パーツ)が多くのメーカーからリリースされており、これがバイクモーターと呼ばれていた。この時代、バイクはまだまだ高級品であり、取り扱い店も少なかったが、バイクモーターは自転車販売店でも取り扱いが可能だったことから瞬く間に商用や庶民の足として普及した。

ホンダA型

それはまさに、後付けの電気モーターを自転車の補助動力として追加するワイズロードのアシストユニットとそっくりではないか。
RAIL ACTIVE-eとスマチャリの発表の場に「ホンダA型」が合わせて展示されたのは、まさにこの後付け可能な電動アシストユニットが現代のホンダA型に通ずるものがあると、ホンダも考えていたのではないだろうか。

搭載されたエンジンは片持ちクランクシャフトの50.3cc空冷2ストローク単気筒ロータリーバルブ。出力は0.5ps/5000rpmで、最高45km/hを誇った。
重量は約10kg。エンジンの出力はベルトドライブで後輪を駆動。独自のクラッチ兼用手動式ベルト変速装置を備えた。これはホンダが特許を取得したシステムだった。

ホンダA型は創業者・本田宗一郎が家族が遠くまで買い出しに出かける苦労を助けようと発案したもので、戦後すぐの1946年、旧陸軍が放出したミクニ製無線機用小型発電エンジンを補助動力として自転車に搭載した。
このホンダA型は市場で好評をもって迎えられたが、放出されたエンジンは500個だったためエンジンを自社生産して発売したのが1947年で、これが”ホンダ”ブランドの製品の第1号となり、戦後日本の復興を支えるコミューターとして活躍。「バタバタ」の愛称で親しまれ、1951年まで生産・販売されたロングセラーとなった。

Honda Collection Hall 収蔵車両走行ビデオ「ホンダA型」

バイクモーターはガソリンエンジンから電気モーターへ

ホンダA型で基盤を築いたホンダは1952年により軽量なバイクモーターを開発。「カブF型」として販売を開始した。カブF号は補助動力用エンジンをこれまでのフレームセンターからリヤ車軸下方に設置。重心を下げて安定感を高めるとともに、エンジンと駆動輪が近くなることで、ホンダA型にあったような駆動用のベルトがなくなり構造も簡略化された。タンクもリヤ左サイドに配置することでより自転車への装着性を高めている。
レイアウト面で見ればホンダA型はまだバイク的であり、カブF型の方がバイクモーターとして最適化されていると言える。

“白タンクに赤エンジン”で親しまれた「カブF型」。50cc空冷2ストローク単気筒から、1.0ps/3600rpmを発揮。タンク容量は3.2Lで、重量を約6kgに抑えた。
カブF型の試乗記はコチラ!

ホンダA型の”バタバタ”に続き”白タンク・赤エンジン”として親しまれたこのカブF型が”カブ”を称した最初のモデルであり、1958年発売の「スーパーカブ」へと受け継がれ、現在に至るまでホンダを代表するブランドになっている。

1958年に発売された初代「スーパーカブ(C100)」は、日本の二輪業界地図を一変させた。商用バイクはスーパーカブとそのフォロワーに席巻され、コミューターとして初期のスクーターをも駆逐することになった。

この補助動力エンジン=バイクモーターを搭載した自転車こそが今なお免許制度に残る「原動機付き自転車」なのである。
また、ヨーロッパでは、ペダル(Pedal)で走れば自転車、エンジン(Motor)で走ればバイクという乗り物「MoPed(モペッド)」として古くから存在していた。
そして、この電動化の現代。”電気”モーターを補助動力として、アシスト式であれ、切り替え式であれ、「バイクモーター」を搭載する自転車が70年の時を経て現代に甦ったわけだ。

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