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故障車の緊急移動に限り可能。ただし条件を満たすことが必要
今ほどロードサービスが充実しておらず、しかも頻繁に車両が故障していた大昔。動かなくなった自動車をロープでつなぎ、自動車で引っ張って移動させる(牽引する)という光景は珍しくなかった。また自動車ほどではなかったものの、故障したバイクをロープで固定し、バイクで牽引する姿も時折目撃された。道路交通法では、
1:牽引する車両が故障車であること
2:牽引する車と故障車の間に5m以内の安全な間隔を保つこと
3:丈夫なロープなどで確実につなぎ、ロープに0.3m平方以上の白い布を付けること
4:故障車にはその車両を運転できる免許を持っている人が乗車し、操作すること
上記1~4の条件を満たせば、緊急時に限り自動車・バイクともに牽引が可能だ。
筆者は19歳の時、路上で突如エンジンのかからなくなった愛車のクルマ(中古で購入した故障しまくりの日産スカイラインRS/初期型/パワステなし)を牽引してもらったことがある。当時筆者は車両関係費削減のため、JAFに未加入。さらにレッカー代をケチるため、友人宅に電話をかけ、「ロープでお前のクルマと俺のクルマを接続し、馴染みの修理工場まで引っ張っていってくれ」と助けを求めた。
友人が到着し、友人の親父が所有していたロープを接続。牽引開始直後から、筆者はスリリングな体験をすることになる。
先行車に乗車する友人は、時速20km/h程度に速度を抑えて運転してくれた。交差点での曲がりやすさを優先し、ロープの長さ(前後の間隔)をやや短めに設定。
しかしブレーキに関して問題が発生。自動車はエンジンを切ると、ブレーキの効きが驚くほど悪くなる。先行車が少しでもブレーキをかけた瞬間、こちらも瞬時にブレーキを踏まなければ追突してしまう。友人がこちらの事情を知らずに結構激しいブレーキングをしたおかげで、筆者は道中2度ほど激突しそうになった。
エンジンを切った状態でのブレーキの効きの悪さは腹が立つほど厄介で、後ろで故障者を運転する筆者は、ロープを大きくたるませないように、効かないブレーキを懸命に踏んづけて速度調整。
もしも大きくロープをたるませてしまうと、その反動でロープが目一杯伸び、車両を引っ張り始めた瞬間、「ロープが切れてしまうんじゃないか?」と思えるほど、ガツン! という強い衝撃が走る。筆者は手の平に嫌な汗をかきつつ、懸命にステアリングを握りしめ、足がこむら返りになりそうなほどフットブレーキを踏みしめ、「ウォォォ!」「ギェェェ!」「じぇじぇじぇ!」などと一人で劇画風の悲鳴を連呼し、恐怖におののいていたのである。
バイクでバイクを牽引するときの注意点
話は前後するが、筆者が17歳の時。出先のビリヤード場、もしくは近辺で愛車(ホンダVFR400R)のキーを紛失し、一緒にいた友人のバイク(カワサキGPZ400R)に牽引してもらったことがある。
駐車場に一晩愛車を放置し、友人のバイクに乗せて帰ってもらえばいいという人もいるだろう。しかし駐車場所周辺は治安が悪く、キーを拾った輩に盗まれる可能性が極めて高い。自宅にスペアキーはあるにはあったが、時間は深夜1時。公衆電話で就寝中の家族を叩き起こし、スペアキーを持ってきてもらうことも気が引けた。
筆者は苦肉の策として、ビリヤード店主に事情を話し、ロープと白いウエスを拝借。友人に「悪いがこのロープでお前のバイクとオレのバイクを接続し、オレの自宅まで引っ張っていってくれ」と懇願した。
拝借したロープは、黄色と黒色が交互にねじり込まれた、「立ち入り禁止」の区域等に張られる、長くて丈夫そうな樹脂製。これをGPZ400Rのタンデムステップホルダー両側と、VFR400Rのフロントフォーク両側にバランス良く固定。その間に白いウエスをぶら下げた。
ロープ固定の際に注意したのが、ロープが樹脂製のカウル類にかからないようにすること(割れる可能性がある)。また、ロープを左右均等に、しかも前後のほぼ中心部分に力がかかるようにした。加えてタイヤがロープを巻き込まないよう、できるだけ高い位置に固定。ロープ自体がかなり長かったこと、また切断防止のため、3重か4重に取り回したと記憶する。
ロープには物凄い張力がかかり、バランスを崩しやすく極めて危険
上記、自動車とバイクの牽引距離は、ともに15km前後。両者の危険度と緊張度を10点満点で比べてみると、自動車が2ならば、バイクは10。バイクは先行車との追突に加え、転倒を防がなくてはならないからだ。
自動車の場合、効かないブレーキを瞬時に、タイミング良く、強く踏み込めるかが勝負。バイクはエンジンを切ってもブレーキは効くが、ブレーキのタイミング、ハンドルのホールド、バランスをトータルでキープする必要がある。この中の一つでもしくじれば、かなりの確率で転倒するだろう。
走行中、接続されたロープは小刻みに張る・緩むを繰り返す。特に恐怖を感じたのが、先行車との間が詰まって大きくロープを緩ませてしまい、次にロープが目一杯張られる瞬間。ロープには物凄い張力がかかる模様で、上記の自動車の牽引と同様、かなりの衝撃が走る。
また、この衝撃によってフロントフォークに固定したロープの力が、一瞬左右のどちらかに逃げるのか、両腕でハンドルをしっかりと固定しておかないと、強くハンドルを取られることが多々あった(突風に煽られた時のような感じ)。この急激な挙動の変化は、少しでも気を抜けば即転倒を招くものだった。
バイクの牽引でもうひとつ厄介だったのが、コーナリング時。ボディが大きく重い400ccということも影響するのか、バンクさせながら曲がるのはほぼ不可能。なるべく車体を直立させつつ、ハンドルで曲がらなければ恐怖を感じる。
緩いコーナーならば、何とか先行車と一緒に曲がれる。しかし交差点の右左折などの場合、後続車は先行車につられて内側に引っ張られるため、バランスを崩して転倒しそうになる。そのため、筆者は前を走る友人と相談し、右左折時のみ手前で停止し、押し歩きで曲がった。
牽引ルートは交通量が多く、流れの速い幹線道路を避け、市街地や裏道を選んだ。夜中に時速20km/h程度のスピードで、しかもいつ転倒してもおかしくない状態では、大型トラックもビュンビュン飛ばす幹線道路などはとても怖くて走れない。
このような状況で気力・体力が長時間持つわけもなく、2~3kmごとに休憩及び先行のライダーと都度打ち合わせ。通常走行ならば30分もあれば到着するところ、自宅に着く頃にはうっすらと夜が明けていた。
結論。バイクが故障したらロードサービスを呼んだほうがよい
400ccクラスのバイクを牽引してもらって感じたこと。それはあくまでも近距離向けであり、遠距離は厳しいという点。また、相応のテクニック・反射神経と運動神経・慣れが必要であること。
加えてロープに一定以上の引っ張り強度が必要なこと。走行中、小刻みに張る・緩むを繰り返すロープには、想像以上の張力がかかる。強度の低いビニール紐や布紐などは、一重や二重では引っ張られた瞬間、いとも簡単に切れてしまうだろう。
かつては自動車やバイクに、牽引用ロープを携帯しておく人もいた。しかし昨今は、ロードサービスの定番「JAF」がバイクに対応。また、充実のロードサービスを備えた任意保険も各種ラインナップ。
経験上、バイクの牽引はあまり格好の良いものではない。安全確保のためにも、無駄な恐怖を体験しないためにも、バイクが故障したらロードサービスの利用をおすすめする。