TPIからTBIとなった新型KTM150EXC|次世代型エンデューロモデルの最小排気量であり最軽量!

ステアリング部分を鍛造にした新フレームや、TPI(掃気ポートへ噴射)からTBI(スロットルボディ噴射)となったエンジンなどほぼフルモデルチェンジ。装備で100kgちょっとの最軽量車重なども合わせ、更なる走破性、操安性の向上を図った150ccモデル。本当に乗るのが楽しいエンデューロモデルだ!

REPORT●村岡 力
PHOTO●山田俊輔
ジャンプの着地でも底突き感は無く、グッと踏ん張ってくれる。
KTM・150EXC

KTM・150EXC……1,225,000円(消費税10%込み)

今回試乗した新型KTM150EXCは、フレームひとつ、足まわりひとつとっても注目すべきポイントは多い。ハイドロフォーミング、レーザーカット、ロボット溶接、ステアリングヘッドの接続部を鍛造、メインパイプに接続されないショックマウントなど新しくなったフレームは縦方向とねじれ方向の剛性などを計算して設計、構築された。これによってライダーへのフィードバック、ショック吸収、直進安定性が向上している。ステップの取り付け位置を狭め、ステップその物は大型化して破損を防止しつつコントロール性はアップさせている。

さらに2ピースポリアミド強化アルミのサブフレームは、僅か1.815kgという軽さを実現してハンドリングへの卓越したフィードバックも実現している。

WP製のフロントフォークは、クローズドカートリッジとなりフォーク径は48mm。フォーク全長は旧モデルの928mmから940mmとロング化され、ストロークは292mmから300mmへとなった。高速域での安定したダンピング特性を実現している。
リヤショックもWP製で、こちらは旧モデルの全長415mmから402.7mmへと短縮され、ショックユニットのストロークも105mmから102.7mmへとショートストロークとなり、380gも軽量化している。

足付きはこの手のモデルの中では比較的良い方である。ややこしい場面では高いと感じるだろうけど、何しろ軽い車重なので堪らられる可能性は高い。
ポジションは可もなく不可もなく。しかし、タンクシェードへのフィット感が上がった感じであり跨った瞬間に馴染む。
足着きのアップだが、ここまで両足は着くので大きな問題はないと言えるだろう。ちなみに私は173cmの標準的な日本人の足の長さです。

ライダーのトライアングルを一新しているとのことだが、ポジションの変化は余り感じられない。しかし、タンクカバーへのフィット感は向上し、安定したポジションが取れるように思った。
シート高はモトクロッサーよりは低いと思うが、足着き性は良いとは言えない。それでも173cm85kgの私では両足の半分は接地するので、大きな問題ではない。

2024年モデルからヘッドライトはLEDとなり、光量は何と300%もアップ。夜間レースでの視認性は向上し、ナンバー取得して公道を走る場合の安全性も格段に向上した。

KTM・150EXCと筆者

ヒューズやリレーに代わり、全く新しい独立したOCU(オフロードコントロールユニット)を採用。ユニットはシート下に設置されており、破損しにくく、電気関係でのトラブルが起きた場合は個別に停止されるようになった。

エンジン関係では2018年から採用になったTPI、シリンダーの掃気ポートへ噴射するシステムからTBI(スロットルボディインジェクション)へと変更になった。これはたんにスロットルボディで燃料噴射するものではなく、バタフライバルブの前後に噴射ノズルを備え、低回転ではシリンダー側だけの噴射、高回転になると2箇所のノズルからの噴射するものだ。
京浜と共に開発したもので、ECUと連動して水温、気温、クランクケース内の圧力、回転数、スロットル開度などを常に分析して正しい空燃比を実現するもの。

150ccとはいえ39馬力近くある。ピーキーな特性では無いがパワーバンドに入るとクラッチを使わなくてもフロントが浮いて来る事もある。

始動性はセル一発であるのは変わり無し。スタートすると、以前のモデルよりも力強い加速と感じた。低回転から中回転までのトルクが増えたような、そんな感じなのだ。実際の加速力、速さは分からないものの実感として加速が上がったように感じる。

そして高回転での伸びは、少し頭打ちが早いかなと思ったものの相変わらず回すのが気持ち良いエンジンであるのは変わらない。確か最高出力は39馬力くらいなので、150ccエンジンとしては十分にハイパワー。軽い車体ということもあり、とにかくアクセルを開けるのが楽しくて仕方ない。

ではガレ場や段差、根っこなどハイスピードで走れないような路面ではどうか。そりゃ排気量の大きいエンジンよりはトルクは少ないので余り回転を落としてしまうと半クラッチ操作が忙しくなるのは仕方がない。

それでも十分粘るし、半クラッチの感覚は非常に分かりやすいので後はライダーのテクニック次第。この噴射が変わった新エンジン、扱いやすさもありながらレスポンスはシャープだしとにかく楽しいのだ。

有り余るパワーではアクセル操作も慎重になるし、実際全開なんてほんの短い時間しか出来ない。そりゃエキスパートライダーなら、そしてエンデューロレースで勝ちに行くライダーならいいだろうが、大多数の楽しみたいライダーにはこの150エンジン搭載車を薦めたい。

とにかくアクセルを開けるのが楽しいマシンである。

さて車体回りも大幅にチェンジしているが、そもそもシリーズ最軽量なので取り回しが軽く出来、暴れても押さえが効くしサスペンションは小さなショックでも良く動くしで、狙ったラインをトレースし易いしマディなど滑りやすい路面でも安心感は一番大きいと感じた。

昼間の試乗だが、鬱蒼としたエンデューロコースの一部は結構暗い。それなのにLEDとなったヘッドライトは路面に光が見えるくらいだったので、相当な明るさを持っていると思う。日本では夜間のレースってまず無いけど、ナンバーを取って公道を走る場合には夜でも非常に心強いだろう。

KTMのリヤサスはリンクレスを採用しているが、私はシンプルで軽量だし性能的にも全く気になる事はなく、私は大好きな形式だ。もしかしたら突き詰めると限界に近いシュチュエーションとか、大ジャンプの着地などでは差があるのかもしれないが、私レベルでは何ら問題無しでした。
価格はそりゃ国産オフロード車と比べたら高いけれど、エンジンオイルは分離式だしセル始動だし、遥かに高い走破性と軽さ。今時のKTMは耐久性も高いので経済的に許すなら絶対にこれを薦めたい。150ccという排気量が絶妙に楽しめるから。

ディテール解説

コンパクトで軽い2サイクルエンジン。分離給油でセル始動。燃料噴射のケースリードバルブ。
ちょっと見にくいけど、奥にあるのがスロットルボディで今回からここから噴射するシステムになった。バタフライバルブの前後2箇所に噴射ノズルがある。
LEDバルブとなったヘッドライト。光量は300%アップと非常に明るい。
リンクレスのリヤサスシステム。ボトムリンク式だと岩などにぶつけて壊す可能性があるが、これは全く無くバネ下重量も軽い。
アルミダイキャスト製のスイングアームは、軽くて高剛性であり、適度なしなりも実現している。
ブレーキキャリパーはブレーキテック製の2ポッドスライド式。ディスクはウェーブ型。
黒のプラスティックの部分がスロットルボディ。京浜製の39mm径で、今回からTBIを採用した。
チェーンガイドの作りはスイングアームにピッタリしていて強度がり破損しにくい。
このモデルではマッピング切り替えが無いので、シンプルなハンドルスイッチとなっている。
鍛造となったステアリングヘッド部分と、フレーム内エンジンオイルタンクの給油口。燃料タンクは半透明のポリ製。

主要諸元

●エンジン
トランスミッション:6速
スターター:セルスターター
ストローク:54.5mm
ボア:58mm
クラッチ:Wet multi-disc DS clutch, Brembo hydraulics
排気量:143.99㎤
EMS:Vitesco Technologies EMS
デザイン:単気筒、2ストロークエンジン

●シャシー
重量 (燃料なし):97.8kg
燃料タンク容量 (約):9ℓ
フロントブレーキディスク径:260mm
リアブレーキディスク径:220mm
フロントブレーキ:ディスクブレーキ
リアブレーキ:ディスクブレーキ
チェーン:520 X-Ring
フレームデザイン:セントラルダブルクレードルタイプ 25CrMo4 スチール
フロントサスペンション:WP XACT-USD、Ø 48mm
最低地上高:347mm
リアサスペンション:WP Xplor PDS ショックアブソーバー
シート高:963mm
キャスター角:63.9 °
サスペンションストローク (フロント):300mm
サスペンションストローク (リア):310mm

村岡 力/プロフィール

1956年生。

70年代スタントマンから雑誌業界へ入り、ずっとフリーランスのライター&カメラマン。2輪メインですが4輪もし時々航空関係も。モータースポーツは長年トライアル1本で元国際B級。現在は172cm85kgの重量級。業界ではジッタのアダ名で通ってます。

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村岡 力 近影

村岡 力

1956年生。

70年代スタントマンから雑誌業界へ入り、ずっとフリーランスのライター&カメラマン。2輪…