【ポルシェ年代記】豊富なラインナップを持つ空冷993型「911」

“最後の空冷”第4世代993型「911」は如何にして商業的成功を収めたか?【ポルシェ年代記】

993型911
993型911
スポーツカーの代名詞、ポルシェ──。その主張に意を唱える人はいないだろう。これまでに多くのスポーツカーを生み出し、モータースポーツで勝利し、ファンのみならず多くのクルマ好きを楽しませてきたポルシェの歴史を振り返る。今や圧倒的にその価値が向上した最後の空冷モデル993型911だ。

911(Type 993)Carrera 2 / Carrera S / Carrera 4 / Carrera 4S / Carrera RS / Turbo / Turbo S / GT2(1993-1998)

新CEOに就任したヴィーデキング

1980年代後半、深刻な経営危機に瀕していたポルシェだったが、フルタイムAWD、マニュアルモード付きAT、3.6リッターツインプラグ・フラット6など数々の新機軸を打ち出した「964型911」の登場、そして様々な経営整理によって、徐々にだがその危機を脱しつつあった。そんな最中の1992年10月にポルシェの新たなCEOに就任したのがヴェンデリン・ヴィーデキングだ。

トヨタに倣った生産システムの導入など様々な合理化を行ったヴィーデキングは、一方で964に代わる新型911と、さらに先を見据えた新世代911の開発を指示。こうして、まず964の後継車として1993年12月に発表されたのが、第4世代の911となる「993」である。

マルチリンクとなったリヤサスペンション

ここでヴァイザッハの開発陣は、リヤサスペンションに4ドアプロトタイプ「989」用に開発していたマルチリンクサスペンションを投入。前後トレッドも拡大して操縦安定性の向上を図った。またデザイン部門ではハーム・ラガーイの手によってボディデザインを大幅に変更。959やコンセプトカーのパナメリカーナで採用された傾斜したヘッドライト、バンパーラインが上がったテールエンドなどが特徴の新デザインを採用した。

リヤに搭載される空冷フラット6エンジンには、新設計の軽量ピストン、強化コンロッド、油圧タペットなどを採用。リヤサスペンションのマルチリンク化でエキゾーストパイプの左右等長化やマフラーの容量増大が実現したこともあり、3600ccの排気量こそ同じながら最高出力は275PS、最大トルクは300Nmに向上した。

当初はRRの「カレラ2クーペ」と「カブリオレ」のみであったが、1995年にはビスカスカップリング式フルタイム4WDシステムを採用することで、964と比べて30kgと大幅な軽量化を達成した「カレラ4」を追加している。

「カレラRS」や「クラブスポーツ」も

1995年には964型カレラRSのエンジンをボアアップして3764ccへと拡大し、可変吸気システム”バリオラム“や大径の吸排気バルブを採用して最高出力304PS、最大トルク355Nmを発生するフラット6ユニットを搭載した「カレラRS」を発表。レースでの使用を前提に、大型フロントスポイラーと2段リヤウイングを装着した上で、パワーウインドウやドアトリムなどの軽量化を図った結果、カレラ2より100kg軽い1279kgを実現した「クラブスポーツ」も用意した。

1995年には、3.6リッターM64型エンジンにツインターボを装着した「ターボ」も復活。最高出力413PS、最大トルク540Nmという強大なパワーを受け止めるために、駆動方式が911ターボ初のビスカスカップリングを用いたAWD(フロントへのトルク配分は5〜20%に設定)となったのも特徴と言えた。

さらにBPRグローバルGTシリーズのGT2クラスのために、430PSへとチューンされた3.6リッターツインターボを搭載し、ワイドボディ、大型GT2ウイングなどで武装した「911 GT2」が登場。極少数がロードバージョンとして発売されたほか、レース仕様の方は600PSの「GT2レボリューション」、フロントとキャビン部分を流用しミッドシップ化したモンスターの「GT1」と、より過激な進化を続けていくことになる。

一方、1996年モデルからは、スタンダードの993にもバリオカムと大径の吸排気バルブを採用。最高出力が289PS、最大トルクが340Nmへとアップするとともに、燃費の改善や排出ガスも低減も実現した。加えて964以来ラインナップから外れていた「タルガ」も再びラインナップに加わったが、それまでのロールオーバーバースタイルではなく、断熱ガラスを用いた電動グラスルーフを備えたファストバック・クーペへと大きな変化を遂げた。

復活への足掛かり

カレラRS
カレラRS

そのほかウイングレスのターボ用ワイドボディに、ターボ用のブレーキ、足回りを備えた、カレラ4のハイパフォーマンス版というべき「カレラ4S」が登場。ターボにもGT2譲りの430PSを発揮する3.6リッターツインターボを搭載し、低い2段式リヤウイングや、リヤフェンダーのインテークなどを備えた「ターボS」が追加されている。

1997年には993最後のバリエーションとして、ターボ用ワイドボディをまとったRRの「カレラS」が登場した一方で、この年に水冷フラット6を搭載する“次世代の911”である「996」がデビュー。ターボとカレラ4のみ1998年まで生産が続けられたものの、ここで1948年以来続いてきた空冷ポルシェの生産は終了となった。しかしながら993シリーズが商業的な成功を収めたことで、ポルシェは復活への大きな足掛かりを掴むことになった。

今でもファンの多い「964型911」。

“今だに人気の空冷モデル”964型「911」こそポルシェの救世主だった?【ポルシェ年代記】

スポーツカーの代名詞、ポルシェ──。その主張に意を唱える人はいないだろう。これまでに多くのスポーツカーを生み出し、モータースポーツで勝利し、ファンのみならず多くのクルマ好きを楽しませてきたポルシェの歴史を振り返る。今回は今でもファンの多い964型911だ。

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藤原よしお

クルマに関しては、ヒストリックカー、海外プレミアム・ブランド、そしてモータースポーツ(特に戦後から1…