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貴重な大排気量NAエンジン
本企画の執筆は本当に罪作りだ。普段から中古車検索を欠かさない筆者も、この連載が始まってから一層熱が入ってきた。それゆえ、執筆しながらカーセンサーネットを弄ることしきり。基本欲しいクルマをベースに皆さんへも“オススメ”の体裁をとっているのだけれど、本気で書いているわけだから当然、自分も一台という気持ちが俄然強くなる。ネット検索妄想だけではすまない事態に陥ってしまうのだ。
そういうわけなので一回目のポルシェ996ターボは既に目星をつけてしまったし、前回のM5かM6も面白い企画を思いついてしまい具合のいいタマをマジで探している。この企画、書けば書くほど“楽しい泥沼”にハマり込んでいく。久しぶりにウキウキしているのだけれど!
というわけで前回、“グッサウンカー”(Good Sound Car)の代表としてBMW M謹製のV10エンジンを挙げた。“良い音”(クルマ好きにとっての)を響かせるクルマの登場が今後はもう望めないだろうことも報告したけれど、そう考えると官能フィールを持つ、それも大排気量の自然吸気エンジンの貴重性はますます高まっていくに違いない。まずはそこを重点的に狙っていくという手もあると思う。
マラネッロで生産されるV8エンジン
先日、新型マセラティグラントゥーリズモの国際試乗会に参加した時のこと。ボードメンバー(つまり偉いさんだ)とディナーで隣り合わせになり、ブランドの歴史や未来についていろいろ話をしたのだけれど、「新しいV6ももちろん自信作だけどエンジンサウンドという意味では先代のV8は素晴らしい。将来的には価値がもっと出ると思うよ」なんておっしゃった。同席した外国人ジャーナリストはそれを聞いて、「日本には沢山中古車があるだろう?買いに行こうかな」と本気で言っていた。
確かに新型グラントゥーリズモは、スポーツGTとして先代とは一線を画すパフォーマンスを誇っていた(カタチはそっくりだけど)。けれどもV6ネットゥーノのサウンドは良いけれども控えめだったことは否めないし、なんなら静かなフル電動グレード(フォルゴーレ)さえ存在する。旧型グラントゥーリズモ&グランカブリオの、あの猛々しいサウンドはもはや耳鳴り程度にも聴こえてこなかったというわけだ。
2007年から2019年まで生産されたグラントゥーリズモ(グランカブリオは2009年から)には2機種のV8エンジンが積まれていた。4.2リッターと4.7リッターだ。特筆すべきは自然吸気エンジンであったことはもちろん、全量がマラネッロのエンジン工場で生産されていたことだ(現在のV8ツインターボもそうだが)。
重要なのはトランスミッション
型式名をF136という。フェラーリ用(カリフォルニアや458など)がフラットプレーン式クランクシャフトでドライサンプ仕様だったのに対してマセラティ(とアルファロメオ8C)用はクロスプレーンのウエットサンプ(先々代のグランスポーツを除く)だった。とはいえ、フェラーリとマセラティが共同で開発しマラネッロで生産された同型式のエンジンであったことは間違いない。今後、マセラティがマラネッロ製エンジンを使う可能性がほとんどないことを考えると、この自然吸気V8エンジン自体の将来性にはとても期待できると思う。
さて。性能と言っても所詮はNAなので、今となっては最新のターボエンジンには敵わない。V8はおろかV6ツインターボにも敵わないだろう。だから買うとすれば4.2でも4.7でもどちらでも構わない。
むしろ気にするべきはトランスミッションで、グラントゥーリズモにはシングルクラッチ式2ペダルロボタイズドとトルコンATの両方が存在する(グランカブリオはトルコンのみ)。その上、前者はトランスアクスル方式を採ったから、前後の重要バランスがまるで違うため、乗った感じも結構異なっていた。好みだとはいうものの、ハンドリングにより軽快さを感じたのは前者の方だった。
探せば300万円台から
音を楽しむという観点でも、マニュアル変速に近い前者の方が、変速時のサウンドにキレがある。ダウンシフト時の気持ちよさはトルコンに勝る。とはいえ、扱いやすさでいえば圧倒的にトルコンで、クルマのキャラクター(優雅なGT)にもそちらがお似合いだ。
探せば300万円台から見つかる。マイナーチェンジや仕様の違いでスタイリングのディテールも微妙に異なるが、個人的には初期モデルのスッキリとした顔立ちが一番好ましい。つまり安いタマの方が良いと思っている。