フェラーリ デイトナ SP3が採用した最新テクノロジーとは?

フェラーリの最新限定モデル「デイトナ SP3」デビュー! テクノロジー編 【動画】

1967年のデイトナ24時間表彰台独占へのオマージュ、限定モデル「フェラーリ デイトナ SP3」を発表
512 Sや712 Can-Am、312 Pとなどのフェラーリ製スポーツプロトタイプをオマージュしながらも、現代的なスタイリングをフェーリのデザインチームが完成させた。
2021年の「フェラーリ・フィナーリ・モンディアーリ」を開催中のムジェロ・サーキットにおいて、フェラーリ モンツァ SP1、SP2に続く「Icona」シリーズに加わる限定モデル「デイトナ SP3」が初披露された。デイトナ SP3は、1960年代に活躍したスポーツプロトタイプへのオマージュが込められたデザインが採用されている。ここではデイトナ SP3のテクノロジーを解説。

Ferrari Daytona SP3

最高出力840cvの6.5リッターV12「F140HC」自然吸気ユニットを搭載

1967年のデイトナ24時間表彰台独占へのオマージュ、限定モデル「フェラーリ デイトナ SP3」を発表
812 コンペティツィオーネに搭載されている6.5リッターV型12気筒「F140HB」自然吸気ユニットをベースに、「F140HC」は最高出力840cvにまでパワーアップされた。

市場で最も刺激的な 6.5リッターV型12気筒をデイトナ SP3に搭載するため、フェラーリは812コンペティツィオーネのエンジンがベースとなった。搭載位置はリヤミッドに移し、吸排気レイアウトと流体力学上の効率性を最適化した。この結果「F140HC」エンジンはフェラーリがこれまでに作り上げた中で最もパワフルな内燃機関となり、驚異の最高出力840cvを発生することになった。

812 コンペティツィオーネに搭載する先行エンジン「F140HB」と同じく、シリンダーバンク角は65度、排気量は 6.5リッターでアップグレードも引き継いでいる。あらゆる開発によってパワートレインのパフォーマンスは強化され、このカテゴリーの新たなベンチマークとなるだろう。官能性をたたえたサウンドは、的を絞った吸排気ラインの開発から生まれている。また、7速ギヤボックスも専用のマネージメントを開発したことで、いっそう素早いシフトと抜群の操作感を実現している。

9500rpmという最高回転数と、そこまで素早く高まり続けるトルクカーブによって、パッセンジャーは無尽蔵のパワーと加速を味わえるはずだ。特にエンジンの重量と慣性の削減に惜しみない注意が注がれ、スチールより40%も軽量なチタン製コンロッドを採用。また、ピストンピンにはダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)コーティングを施し、摩擦係数を下げることで パフォーマンスや燃費を向上させた。また、クランクシャフトもバランス取りを行ったほか、3%軽量化されている。

バルブを開閉するのはF1から派生したスライディング・フィンガーフォロワーで、質量を削減し、よりハイパフォーマンスなバルブプロフィールを利用するために開発。スライディング・フィンガーフォロワーにもDLCコーティングが施されている。その役割は、カムシャフト(DLCコーティング済み)の動きを油圧式タペットをピボットにして動くバルブに伝達することにある。

驚異的なパワーを実現するべく再設計された吸気システム

吸気システムは根本的に再設計。経路全長を短縮するため、マニホールドとプレナムチャバーはさらにコンパクト化。高回転域でさらに強大なパワーを発揮する。一方、トルクカーブをすべての回転域で最適化しているのが、可変ジオメトリー吸気ダクト。このシステムは吸気ダクトアッセンブリーの長さを絶え間なく変更し、エンジンの点火間隔に適合させることで、シリンダーへの動的な充填を最大化する。

アクチュエーターを制御するのは、ECUによってクローズドループ制御される専用の油圧システム。これがエンジンの負荷に応じて吸気ダクトの長さを調整する。最適化されたカムプロフィールに加え、可変バルブタイミングシステムによって前例のない等高ピーク圧のシステムが生まれることになった。これは、低・中回転域のトルクを犠牲とせずに高回転域でパワーを得るために必要だったという。こうして連続的かつ急速な加速感と、それが最高回転数で驚異的なパワーに達する感覚を実現している。

ガソリン直噴システム(噴射圧350bar)では、マネージメント戦略がさらに進化。燃料ポンプ2個とレール4本の構成に変わり、レールの圧力センサーからのフィードバックをクローズドループの圧力制御システムと電子制御インジェクターで使用する。燃料噴射のタイミングと各インジェクションの噴射量をキャリブレーションし、噴射圧を引き上げることで、汚染物質の排出と粒子状物質の生成を、812 スーパーファストとの比較で30%も削減できた。

イグニッション・システムを常時モニターするECU(ION 3.1)は、イオン電流を測定して点火タイミングを制御するイオン感応システムを備える。また、シングルスパークとマルチスパークの機能を兼ね備え、混合気のマルチイグニッションが必要な際にも、スムーズでクリーンなパワーデリバリーを実現。ECUは燃焼室内の燃焼も制御して、エンジンが常にピークの熱効率で稼働する。これには、タンクに搭載する燃料のオクタン価を判別できる洗練されたストラテジーが貢献している。

パワーアップに対応したエアロダイナミクス

1967年のデイトナ24時間表彰台独占へのオマージュ、限定モデル「フェラーリ デイトナ SP3」を発表
大幅にパワーアップした「F140HC」エンジンに対応すべく、冷却システムにフレッシュエアを効率的に導く、エアロダイナミクスの構築が必要不可欠となった。

デイトナ SP3の開発目標は、フェラーリ史上最高レベルのパッシブな空力効率を誇るモデルとなるべく、空力ソリューションを導入することにあった。そのため細部にまで徹底的な注意を払い、熱を効率的に放散する冷却装置を設計する必要があったという。

「F140HC」エンジンの出力向上にともなって放散すべき熱出力に加え、冷却のための放射質量も増大。必要な空力ソリューションをフロントエンドに導入するためには、何よりもまず冷却効率の集中的な開発が必要だった。こうして冷却ファンハウジングや高温の空気を逃がすアンダーボディの開口部、吸気ダクトなどが綿密に設計され、フロントラジエーターのサイズ拡大を避けられるよう、すべてが最適化されている。

サイドボディのデザインにも多くの研究が費やさた。これに恩恵をもたらしたのが、ギヤボックスとエンジンオイルの冷却装置を中央寄りに配置したこと。このソリューションによってドアへの流路を設ける道が開け、ラジエーターのインテークダクトをシャシー前方へ移動できた。その結果、フロントフェンダーがインテークダクトの理想的な場所となってフレッシュエアを取り込むことが可能になり、ラジエーターの冷却にとっても非常に効率的となった。

空力的機能とデザインの高度な融合は、エンジンカバーにも表れている。その中央にはバックボーン構造があり、フレッシュエアをエンジンのインテークへ送り込むだけでなく、エンジンベイから高温の空気を排出する出口にもなっている。エンジンのエアインテークはバックボーンデザインの基部に配置。エアフィルターまでの距離を短縮してロスを最小化している。バックボーンセクションとリヤの一体型ボディワークとを区切る縦長のスロットは、エンジンの熱を放散し、フレッシュエアを採り入れる。これが可能なのはリヤバンパーのブレード間に位置する排気口と相互作用が起きることが理由に挙げられている。

可変エアロを採用せずに高度なエアロダイナミクスを達成

熱マネージメントで採用したレイアウトによって、エアロダイナミクスチームが活用できる空間が生まれ、全体の効率を最大化することが可能になった。これは、立体と面の完璧な融合に力を注ぐことで達成。また、可動エアロソリューションを用いずに、アッパーボディとの相乗効果で機能する新コンセプトをアンダーボディに導入したことも貢献している。

デイトナ SP3のフロントは、フォルムと機能がとけ合って見事な調和を見せている。中央のラジエーターグリル両側にあるインテークはブレーキダクトに通じているほか、ここから導かれたエアをボンネット両側の出口から排出。フロントのダウンフォース発生に貢献するブロウン・ダクトを形成する。

ヘッドライト下にある2基のエアロフリックもダウンフォースを増強。バンパー隅の内側に上下に並ぶウイングレットは気流をホイールアーチ内へ導いて内向きの流れを作り出し、これがサイドボディを流れるエアフローを整えてタイヤの後流が作り出す乱気流を抑制してドラッグを低減する。

サイドボディの気流をマネージメントしてドラッグを低減するエレメントは、フロントバンパーのブロウン形状だけではない。ホイールのスポークの形状とサイドボディ自体の垂直なデザインも貢献している。前者はタイヤハウス内の空気の排出を促進してサイドボディを流れる気流に添うように後流を整え、後者の広い面は整流板として働いてフロントタイヤで発生する後流を車体表面に近づけ、後流の横幅を狭めることでドラッグを低減。また、整流板のデザインは空気の通り道を隠しており、フロントのタイヤハウス内の空気を導いてリヤタイヤの前に排出する。

アンダーボディはフロア全体の働きを向上させるように開発され、局所的なボルテックス生成に特化した一連のパーツを導入。重要なのは、アンダーボディを下げると吸着力のピークが路面に近づき、グラウンドエフェクトを活用するパーツの効率性が高まること。フロントタイヤの前に装着する2組のカーブしたパーツは気流に対する角度を利用して力強い安定したボルテックスを生成する。このボルテックスは、アンダーボディとフロントタイヤに作用してダウンフォースを発生し、ドラッグを低減する効果を持つ。

他のボルテックスジェネレーターは、フロントアンダーボディを実質的に密封するように最適化し配置された。ホイールアーチ内の開口部に接するシャシーの縁にはアウター・ボルテックスジェネレーターが導入され、F1のバージボードと同じ効果を発揮する。これが作り出すボルテックスがアンダーボディをフロントタイヤの後流の影響から守る壁となり、フロア中央部で発生する効率性の高い気流への干渉を抑える。

リヤアンダーボディに採用されたフロアチムニー

ダウンフォースを得る上で最も重要な開発エリアとなったのがリヤスポイラーだ。エンジニアはフロントとリヤのダウンフォースのバランスを取るため、エンジンインテークの移動とテールライトの新デザインによって生まれたチャンスをフルに活かした。このふたつのソリューションによって車幅いっぱいまでスポイラーを拡大することが可能になり、横幅が広がっただけでなくリップも後方に延長され、ドラッグを増やさずにダウンフォースを増強することにつながった。

デイトナ SP3の決定的な特徴ともいえる最も革新的なソリューションが、リヤアンダーボディにあるフロアチムニーで、リヤフェンダーに組み込まれた2基のルーバーまで垂直のダクトでつないでいる。フェンダーの湾曲で生まれる自然な吸引力がダクトを通過する気流を最大化し、アンダーボディとアッパーボディの気流を流体力学的に結びつける。

このソリューションには直接的なメリットが3つある。まずフロントアンダーボディ下の気流を増加させ、アンダーボディの閉塞を低減することでダウンフォースを増加。エアロバランスがフロント寄りになるため、ターンインが向上する。ふたつ目にフロアのインテーク形状によって生じた気流を局所的に加速させ、非常に強力な吸引力を生み出し、リヤのダウンフォースをアップさせる。最後にリヤフェンダー上のルーバーからの気流が増えるため、リヤスポイラーにも恩恵がもたらされている。

開発の最後のエリアは、ディフューザーを垂直・水平の両面で拡大すること。これは、エキゾーストパイプの位置を中央の高い位置にしたことで可能になった。こうして開いた中央の空間は、ダブルディフューザーに似たソリューションに活用され、ディフューザーによって気流は2層に分かれて広げることができる。これがリヤに印象的な表情を与え、テールの中に浮かんでいるように見えるブリッジ形状を生み出している。

このコンセプトでは、気流中央部の強いエネルギーを利用して中央の「ブリッジ」構造の内部と外部に空気を効率的に送り込む。すると、中央の流路の外を通過する気流が内部の気流の勢いを強め、ディフューザー全体の効率を高める効果となる。

デイトナ SP3のウインドスクリーンはラップアラウンド型が採用され、着脱可能なハードトップの先端までガラスが延びている。上部シールに組み込まれたノルダーは、ハードトップを外した走行時に気流の向きをヘッダーレールの上へと正確に導く。

ロールフープの中央部はリヤボディワークのバットレスやエンジンカバーの形状に合わせて凹面を形成。これはリヤのヘッダーレールへと方向を変えられた後流が、再び左右のシートの間に入り込む可能性を最小限にするため。サイドウインドウ後方の気流はヘッドレスト後方のリヤトリムに導かれ、ウインドストップで保護された中央のくぼみにあるスロットへと流れてコクピットの外に排出される仕組みだ。

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