アファルターバッハが放つ新型SLを渡辺慎太郎が試乗レポート

新型メルセデス・ベンツ SLの実力は如何に。AMG流最新オープンスポーツに渡辺慎太郎が最速試乗!

メルセデスAMG SL 65 4マティックプラスのフロントビュー
メルセデス・ベンツのアイコン的存在として世代を重ねてきたオープンモデル、SL。2021年10月に敢行したフルモデルチェンジにより、「2+2レイアウト」や「後輪操舵」「4WDシステム」「ソフトトップ」といった新機軸が盛り込まれた。
メルセデス・ベンツの伝統的オープントップモデル、SLが2021年10月28日にフルモデルチェンジした。最新型は高性能車部門“AMG”専属のモデルとなり、先進の4輪駆動システムや小ぶりな後席スペースを設けた2+2レイアウトを採用するなど、SLにとっての「初」を多く盛り込んだ意欲作だ。その最新SLに、自動車ジャーナリスト・渡辺慎太郎が米LAで試乗。アファルターバッハ流のオープンスポーツの仕上がりを検証した。

Mercedes-AMG SL

「SLの原点はレーシングカー」というけれど

メルセデス AMG SL 55 4マティックプラスのサイドビュー
メルセデスAMG SL 55 4マティックプラスのサイドビュー。歴代SLの“ほとんど”は2シーターを貫き続けてきたSLだが(1989年のR129では、欧州仕様にのみ後席がオプション設定されていた)、新型ではすべてのモデルが2+2のレイアウトを採用した。日本導入は2022年中だが、仕様は現時点(2022年1月)では未定。

他の人がどう思ったかはよく分からないけれど、メルセデス・ベンツの新型SL発表のニュースを聞いて個人的にもっとも驚いたのは、それがAMGブランドの属性になっていたことだった。

確かにSLというクルマの起源をさかのぼれば、その発端は市販予定のないプロトタイプのレーシングカー(W194)だった。これが「カレラ・パナメリカーナ・メヒコ」と呼ばれるレースで優勝、アメリカ市場で必ず売れると確信したアメリカのディーラーがドイツ本社を説得し市販モデルの開発が実現し、後に“ガルウイング”の愛称で親しまれた300 SL(W198)と、その廉価版的ポジションの190 SL(R121)が1954年のニューヨークショーでデビューした。

自分の中のSLは“スポーティ”よりも“エレガント”

メルセデス AMG SL 65 4マティックプラスのリヤビュー。ルーフ閉
メルセデスAMG SL 65 4マティックプラスのリヤビュー。メタルトップを採用してきた従来のSLと異なり、新型モデルはあえてクラシカルなソフトトップを装着。コンパクトに収納できるZフォールド構造で、トノーカバーが不要の設計になっている。

「SL」はドイツ語で「Sport Leicht(軽量スポーツカー)」の略だとも言われているし、リアルスポーツカーとして原点回帰してそれをメルセデスのスポーツカーブランドとも言えるAMGで販売するというのは、ストーリーとして筋が通っている。そう言われればその通りなのだけれど、それでもなんだかモヤモヤして合点がいかないと思うのは、歴代のSLをひとくくりにしてその乗り味を考えたとき、スポーティとエレガントを天秤にかけたらエレガントのほうに大きく傾くと確信しているからだ。

自分が過去に所有していたW113(パゴダ)なんか、デザイン的にも性能的にもスポーツの「ス」の字も感じられないクルマだった。でもメルセデスらしからぬ繊細なスタイリングとゆったりした乗り味に大いに魅了された。これまでのようにメルセデス版があってのAMGならまだ理解できるものの、AMGしかないSLなんてどうなんだろうと自分なんかは思ってしまったのである。

なぜAMG専属モデルになったのか

メルセデス AMG SL 65 4マティックプラスのコクピット
メルセデスAMG SL 65 4マティックプラスのコクピット。フロントウインドウ周りのフレームには高強度の熱間成形スチールを使用し、万一の際はリヤシート背後に格納されたロールバーシステムと共に乗員を守る保護部材となるよう設計している。

新型SLの商品企画の背景には、ここ数年のSLとAMGを取り巻く事情や都合があったと想像している。AMGは勢いがあって自社開発のAMG GTを投入、トランスアクスル形式の専用プラットフォームにクーペとコンバーチブルのボディを乗せた。このコンバーチブルが、SLとのカニバリズムを引き起こすのではないかという懸念があった。

一方のメルセデスは、先代のR231をもってSLの歴史の幕をいったん閉じようとしていたと言われている。実際、R231は登場以来、どちらかかと言えば“ほったらかし”の状態で大きな改良や刷新は行われず、むしろ2016年のマイナーチェンジではフロントフェイスがAMG風になってしまい、ますますAMG GTとの差別化が曖昧になる始末であった。

これまで数多くのメルセデス首脳陣にインタビューしてきたけれど、そのほとんどの方は「1番好きなメルセデスは?」という問いに「SL」と即答した。そんなメルセデスのアイコン的存在のモデルへ終止符を打つことに社内でも抵抗があったことは容易に想像がつく。

しかし感傷的な精神論ではなくビジネスライクに考えれば、2ドア2シーターのオープンモデルは莫大な利益を生むほど売れない。だったらいっそAMG GTロードスターとSLを1台に集約すればいいのではないか。そういう結論に帰結したというストーリーのほうが、個人的にはずっとしっくりくる。まだAMG GTはクーペもロードスターも販売されているが、おそらく少なくともロードスターは近々にカタログから落ちると予想している。

ボディシェルは新型SLのためにイチから設計

メルセデス AMG SL 55 4マティックプラスのコクピット
メルセデスAMG SL 55 4マティックプラスのコクピット。現行メルセデスに共通の“横だおしタブレット型”ではなく、あえてクラシカルなフード付きデザインとしているのは、オープン走行時の太陽光反射を考慮したものでもあるという。

前置きが長くなってしまったお詫びではないけれど、結論から言えば新型SLの出来にはほとんどケチの付けようがなかった。妙妙たるオープンロードスターである。

プラットフォームはこのクルマのために新設されている。AMG GTのようなトランスアクスル形式ではなく、エンジンとトランスミッションを結合してフロントに置く一般的なパワートレインレイアウトである。わざわざ新設した理由のひとつは、新型SLが2シーターではなく2+2で後席を装備するからだろう。

モノコックではなくスペースフレーム構造とし、主要部分はアルミだがマグネシウムやCFRPやスチールを適材適所に配置。ボディのねじり剛性は先代比で18%向上、横方向の剛性は同じくスペースフレーム構造のAMG GTロードスター比で50%増、前後方向で40%増となったという。ホワイトボディの重量は約270kg。剛性と軽量化を狙ったアーキテクチュアである。なお、先代SLやAMG GTからの流用部分はまったくないと公表されている。

911 ターボ カブリオレ以上の剛性感

メルセデス AMG SL 65 4マティックプラスのルーフ開閉シークエンス
幌屋根の採用により伝統的なロードスターらしい趣が生まれているのはもちろん、上屋を軽く仕上げられるため重心高も下がり、ハンドリングにも好影響をもたらしているという。

ルーフはバリオルーフからソフトトップに変更された。重量、収納スペース、重心高、そして2+2にしたことなどがその理由。60km/h以下であれば走行中でも開閉可能で、操作はセンターコンソールのスイッチパネルかメディアディスプレイから行う。

当面はSL 63 4MATIC+(585ps/800Nm)とSL 55 4MATIC+(476ps/700Nm)の2本立てで、いずれも4.0リッターのV8ツインターボエンジンを搭載する。両車のパワースペックの違いは、ブースト圧とソフトウェアの変更によるもの。車名からも分かるように駆動形式は4WDのみで、これはSL史上初めてである。トランスミッションは湿式多板クラッチを用いたAMGスピードシフトMCT 9Gが組み合わされる。

屋根を開け放ったSL 55から試乗を始めたが、すぐにそのボディ剛性の高さに舌を巻いた。大きくキャビン部が開いているとは思えない、まるでクーペのようなピンと張り詰めた剛性感を感じる。あのポルシェでさえ、911 ターボのカブリオレなんかはボディがエンジンパワーに負けている感触が伝わってくるけれど、SLでは皆無である。

SL 55は乗り心地・操縦性いずれも文句なし

メルセデス AMG SL 65 4マティックプラスのエンジンコンパートメント
メルセデスAMG SL 65 4マティックプラスのエンジンコンパートメント。新型SLは、AMG GT系と共有するAMG製4.0リッターV型8気筒ツインターボ(M177型)を搭載。オイルパンを新設計しインタークーラーを再配置、アクティブ・クランクケース・ベンチレーションシステムを採用するなど、SL専用の設計とした。

ステアリング系の剛性感の高さも特筆すべきで、おそらくステアリングシャフトが取り付けられているダッシュボード内の“梁”がすでに強靱なのだろう。路面のアンジュレーションが激しかったり大きめの入力がタイヤから入ってくる局面においても、ボディや各部はびくともしなかった。

これだけ頑丈なボディがあればサスペンションは本来の仕事をまっとうできる。前後ともダブルウィッシュボーンをベースにしたマルチリンク式で、AMGライドコントロールと呼ばれる電子制御式ダンパーと金属ばねの組み合わせがSL 55の標準のセットとなる。

スクォートやダイブといった、加減速時の荷重移動に起因するばね上の動きを抑制する制御も付いているようだが、突っ張った感じや減衰が速すぎて身体が上下に揺すられるようなこともなく乗り心地はきわめて快適だった。参考までに標準サイズのタイヤは19インチで、試乗車には21インチが付いていた。この乗り心地を実現していながら、操縦性はスポーツカーと呼べる領域のもので、俊敏性や正確性は申し分ない。

ピッチからロール、そしてヨーが発生するまでのコーナリングの過程がとてもスムーズに繋がっていてとにかく気持ちがいい。後輪操舵が標準装備だけれど、出しゃばらない塩梅のセッティングは見事である。ドライバーの入力に対して自然にクルマが動いている感覚である。

SL 65は本格派のスポーツカー志向

メルセデス AMG SL 65 4マティックプラスのリヤビュー
メルセデスAMG SL 65 4マティックプラスのリヤビュー。新型SLには、追ってAMG専用の高性能ハイブリッド機構「E PERFORMANCE」を搭載する電動化モデルも投入される予定である。

一方のSL 63にはAMGアクティブライドコントロールが装着されている。簡単に言えば油圧制御で能動的にアンチロールバーのばねレートを変更するシステムで、ロールを抑え込むことによってより安定的かつ旋回速度の向上が期待できる。実際そうなっていて、SL 55よりも本格的スポーツカー臭が伝わってくるものの、SL 55の自然な感じに対して“制御されている感じ”があるのも事実であり、個人的にはSL 55の乗り味のほうに好感が持てた。

動力性能についてはいずれも公道では持て余すほどのパワーを有している。700Nmと800Nmの強力な最大トルクを有効活用するには、これまでのFRに固執するよりも前後輪に振り分けた方が効率的かつ効果的であり、4MATIC+のみとした潔さは支持できる。前後トルク配分は随時可変だが、運転している限りでは基本的に後輪へ多く配分されているようで、コーナリング最後の再加速などで前輪にもトラクションをしっかりかけるセッティングと感じられた。

このように新型SLは、クルマとしてはほぼ非の打ち所がない完成度であると言えるけれど、SLとしてどうかと問われるとやっぱりちょっと考えてしまう。SL 55にはこれまでのSLのエレガントな雰囲気の片鱗がかすかに残っていたが、SL 63は「フルモデルチェンジしたAMG GTです!」と言われたほうが腑に落ちると思った。今後、E PERFORMANCEハイブリッドをはじめ、いくつかの仕様の発表が控えているようだから、SLに対する個人的期待はまだ捨てないでおこうと思う。

REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)
PHOTO/Daimler AG

【SPECIFICATIONS】
メルセデスAMG SL 63 4マティック+(欧州仕様)
ボディサイズ:全長4705 全幅1915 全高1353mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1970kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
ボア×ストローク:83.0×92.0mm
総排気量:3982cc
最高出力:430kW(585hp)/5500-6500rpm
最大トルク:800Nm/2500-5000rpm
トランスミッション:9速AT(AMG SPEEDSHIFT MCT)
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
タイヤサイズ(リム幅):前265/40ZR20(9.5J) 後295/35ZR20(11J)
最高速度:315km/h
0-100km/h加速:3.6秒

メルセデスAMG SL 55 4マティック+(欧州仕様)
ボディサイズ:全長4705 全幅1915 全高1353mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1970kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
ボア×ストローク:83.0×92.0mm
総排気量:3982cc
最高出力:350kW(476hp)/5500-6500rpm
最大トルク:700Nm/2250-4500rpm
トランスミッション:9速AT(AMG SPEEDSHIFT MCT)
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
タイヤサイズ(リム幅):前255/44ZR19(9.5J) 後285/40ZR19(11J)※テスト車は前後21インチホイールを装着
最高速度:295km/h
0-100km/h加速:3.9秒

【問い合わせ】
メルセデスコール
TEL 0120-190-610

【関連リンク】
・メルセデス・ベンツ公式サイト
https://www.mercedes-benz.co.jp/

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著者プロフィール

渡辺慎太郎 近影

渡辺慎太郎

1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、1989年に『ルボラン』の編集者として自動車メディアの世界へ。199…