ランボルギーニの自然吸気V12が終焉を迎える今、その原点を振り返る

ポール・マッカートニーも愛したランボルギーニ。V12を積んだ最初期のファイティングブルを振り返る

ランボルギーニ 350GTのフロントビュー
ランボルギーニ初の市販車は、1964年にデビューした350GT(写真右)。搭載する3.5リッターV12エンジンは280ps/6500rpmを発生。最高時速は250km/hを誇った。
2021年夏、アウトモビリ ランボルギーニはアヴェンタドールの最終限定車「LP780-4 Ultimae(ウルティマエ)」を発表した。搭載するのは780psを発揮するV12自然吸気エンジン。アヴェンタドールはこれをもって生産を中止することが明らかにされており、本エンジンが史上最強にして最後のV12NAとなる。V12エンジンと共に始まったランボルギーニの歴史。その原点を、今振り返る。

Lamborghini 350GT & 400GT

ビッザリーニ設計のV12を想定した最初のプロトタイプ

1963年10月のトリノショーに、彫刻のような造形を与えられた1台のプロトタイプが登場した。350GTV。それが、人々の面前に初めて現れたランボルギーニだった。ショーカーの隣りに並んでいたのは、オールアルミ製のV12エンジンを搭載したディスプレイ用のシャシー。しかし、このとき350GTVのエンジンルームに積まれていたのはV12エンジンではなく、フェルッチオがトリノショーのために用意させたカタログや注文書だったという。フランコ・スカリオーネがデザインした低く美しいボンネットの下には、ジオット・ビッザリーニ設計のV12が収まるスペースが無かったのである。

フェルッチオ・ランボルギーニが自動車メーカーをスタートするにあたり、エンジンの設計者に選出したのがジオット・ビッザリーニだった。ピサ大学工学部を卒業後、アルファロメオの実験部門に入社。フェラーリに移籍後はテスタロッサのV12エンジンや、250GTOを開発した凄腕のエンジニアであった。

スパルタンなV12をダラーラやスタンツァーニが実用的ユニットへ

大のレース好きで、F1エンジンを作ることを夢見ていたビッザリーニ。彼は、「10馬力増えるごとに奨励金を出す」という契約のもと、ランボルギーニのV12エンジンの開発に着手した。1963年7月、テストベンチで行われた初の試運転では、9000rpmで360馬力という驚異的なパフォーマンスを実証。しかし、その特性はレーシングカーに近いスパルタンなもので、フェルッチオの考えるGT=グランツーリズモにそぐわしいものではなかった。

3.5リッターV型12気筒エンジンを、より公道走行・大量生産に相応しいキャラクターに改良する──その特命を受けたのが、ジャンパオロ・ダラーラやパオロ・スタンツァーニといった若き才能が率いるサンタアガタ・ボロネーゼのエンジニアリングチームだった。

ランボルギーニ初の市販車、350GTの誕生

彼らはV12の基本的な仕様は維持しつつ、キャブレターはダウンドラフト型からサイドドラフト型へ、潤滑システムもドライサンプからウェットサンプへ変更。最高出力は280ps/6500rpmと、350GTVからはいささか抑え込まれたものの、低・中回転域でも扱いやすい特性を与えた。このユニットを積んだランボルギーニ初の市販車「350GT」は、最高速度250km/hを実現する洗練されたGTとして1964年にデビューを飾ることとなった。

記念すべきランボルギーニ市販第1号車の顧客は、イタリアのモダン・ジャズ・シーンで大人気を誇っていたドラマー、ジャンピエロ・ジュスティ。彼が所有した350GTは、ランボルギーニ最古の市販車として現存する。同個体はクラシックカー部門「ポロストリコ」により完璧にレストアされ、競技会などでその美しい姿を披露している。

1964年5月から生産をスタートした350GTは、新興メーカーであるランボルギーニの名を、瞬く間に世界中の富裕層の耳に届けた。1965年には、350GTの3.5リッターユニットをベースにボアを77mmから82mmへ変更、排気量を拡大した4.0リッター仕様を投入。最高出力は320ps/6500rpmまで高められていた。

ポール・マッカートニーも愛した400GT

ランボルギーニ 400GTのフロントビュー
1966年にデビューしたランボルギーニ 400GT。4.0リッターV12エンジンと、2+2のレイアウトを採用。ヘッドランプは丸形4灯式へと改められた。

1966年のジュネーヴショーでは、4.0リッターV12に2+2のキャビンをもつボディを組み合わせた「400GT」がデビュー。それまでアルミを使用していたボディ外皮は、ボンネットとトランクリッドを除いてスチール製となり、ヘッドランプもシビエ製の楕円形2灯式からヘラー製丸形4灯式へと改められていた。

この「400GT」を10年間所有していたのが、ビートルズのポール・マッカートニー。1968年製の赤の400GT(シャシーナンバー1141)は、1969年1月30日にロンドンのサヴィル・ロウ3番地の屋上で撮影されたビートルズのラストライブをはじめ、数多くのドキュメンタリーに登場している。

V12自然吸気ユニットの生産は終了へ

ランボルギーニ アヴェンタドール LP780-4 ウルティメのフロントビュー
そして、V12は最終章へ。ランボルギーニのフラッグシップ、アヴェンタドールの集大成として登場したのが「アヴェンタドール LP780-4 ウルティマエ」。過去最強の780psを発揮するV12NAをミッドシップしている。

ランボルギーニの歴史とともに進化してきたV12エンジンは、2021年夏に登場した「アヴェンタドール LP780-4 Ultimae(ウルティマエ)」で“ひとたび”の完成形へと辿り着いた。6.5リッターの排気量を持つ60度V型12気筒自然吸気ユニットは、それまで最強だった「SVJ」を10ps上回る780psを発揮。アヴェンタドールに、0-100km/h加速2.8秒、最高速度355km/hのパフォーマンスをもたらした。

2022年をもって、ランボルギーニはV12自然吸気エンジンの生産を終了する。2023年に投入する初の量産ハイブリッドモデルの完成に向けて、エレクトリック・システムを搭載した次世代パフォーマンスカーの開発が目下進められている最中である。トリノで衝撃のデビューを飾ってからちょうど60年、ランボルギーニは次なるセンセーションを世の中に巻き起こしてくれるだろうか。

イタリアのテストコースでスパイショットされた、ランボルギーニ アヴェンタドール後継モデル。

【スクープ!】ランボルギーニ アヴェンタドール後継モデルのテストをキャッチ! パワーユニットを露出した状態で走行

2023年のワールドプレミアに向けて、ランボルギーニのフラッグシップ「アヴェンタドール」後継…

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著者プロフィール

三代やよい 近影

三代やよい

東京生まれ。青山学院女子短期大学英米文学科卒業後、自動車メーカー広報部勤務。編集プロダクション…