「BMW IX対アウディe-tron S」ラグジュアリーSUVにも押し寄せるBEVの波

全長5m超の巨大電動SUVとはいかなる乗り物なのか「BMW iX対アウディ e-tron Sスポーツバック」徹底比較

意を決してアクセルペダルを深く踏み込むと、瞬間的な加速は気が遠くなりそうなほど強烈な2台。
意を決してアクセルペダルを深く踏み込むと、瞬間的な加速は気が遠くなりそうなほど強烈な2台。
プレミアム電動SUVのカテゴリーが今熱い! 中でも注目は約1000Nmの強大なトルクを発生するスーパー電動SUVのアウディe-tron SスポーツバックとBMW iX M60の2モデルだ。SUV新時代の到来を予感させるスーパー電動SUVを比較してみた。

BMW iX M60×Audi e-tron S Sportback

大柄なボディをものともしない加速

アクセルを素早く深く踏み込むとどのモードでも猛烈な加速を見せるiX M60。

バッテリー電気自動車(以下BEV)については、その是非を問う段階は、少なくとも欧州では既に終わった。そうなると、次は「より速く、強く、カッコよく」を求めるのが人間の性(さが)である。いずれこうなることは予想できたが、時代の流れは予想よりも確実に速い。

今回の2台は、ともに通常モデルよりモーターを高出力化しているのがポイントだ。BEVの走りに最も影響するのはバッテリーだが、そこに手をつけるとコストや重量も跳ね上がるためか、今回のバッテリーは特別なものではない(といっても、当然のごとく、既存ラインナップ中で最大容量が選ばれているが)。

iXでは258psのフロントモーターは全車共通で、上級グレードになるにつれてリヤモーターの出力が上がる。M60は50に対し170ps以上のアップの490psとなり、前後合わせたシステムトータルは最高出力で540ps、最大トルクは大台突破の1015Nm(!)に達する。対するe-tronのSは前後とも高出力化されているが、それ以上に注目は、リヤが左右独立2モーターとなって、積極的なトルクベクタリング制御となることだ。で、システムトータルの動力性能は503ps/973Nmを謳う。

今回の試乗車で比較すると、ボディが大きいiXのほうが逆に100kgほど軽い。実際に乗ってもM60の方が、額面どおりによりパワフルに感じられる。とはいえ、意を決してアクセルペダルを深く踏み込めば、どちちも瞬間的な加速は気が遠くなりそうなほど強烈である。

全身全霊で新しさを表現するiX

今回の2台は価格的にもガチンコだ。M60は基本的にフル装備で、日本ではオプションはとくに用意されない。対してe-tron Sスポーツバックは本体価格こそ少し安めだが、今回の試乗車のように22インチホイールやデジタルドアミラー、マトリクスLEDヘッドライト、シフトパドルなどの必須アイテムを追加すると、M60と価格差は100万円差まで縮小する。このクラスなら誤差の範囲内(?)だろう。

こうして2台を並べると、iXが全身全霊で新しさを表現していることにあらためて感心する。BEVらしく前席は足元まで広々としており、BMWのお約束だったタイトなコクピットはそこにはない。ステアリングホイールまでが六角形モチーフで、パーソナルモード(=標準モード)やスポーツモードにすると、加減速に合わせて風のような「アイコニックサウンド」が響く。

M60はどのモードを選んだところで、アクセルを素早く深く踏み込むとショックもいとわず、猛烈な加速をお見舞いしてくる。特にスポーツモードでの、心臓が止まるか・・・と思わせる瞬発力は、良くも悪くも暴力的というほかない。

サスペンションもM専用というが、体感的には以前乗った50とほとんど変わりないくらいに快適だ。例えばスポーツモードだと乗り心地は確かに少し引き締まるが、「M」という文字から皆さんが想像するより、おそらくはるかにソフトなままである。床下バッテリーとカーボン上屋による低重心設計、理想的な前後重量配分、そして低フリクションのサス設計のおかげか、細かい不整でもバタつかず、ひたりとしなやかに吸いつく正確なハンドリングは見事というほかない。4輪操舵のおかげで、市街地でも意外なほど小回りがきく。それでいて、アクセルを踏みつけてもまるで乱れることなく、綺麗に滑らかに曲がっていくのだ。

上品なパワートレイン制御

デジタルドアミラーや専用シフトセレクターに新しさを感じるe-tron。

対して、e-tronもBEV専用プラットフォームだそうだが、デジタルドアミラーや専用シフトセレクターにこそ新しさを感じるものの、全体的にはオーソドックスな運転環境である。伝統的スポーツカーを思わせるタイトなコクピット空間は、BEVという新種に違和感を抱かせないための意図もあるのだろう。

パワートレイン制御もBMWとは対照的に、今度はアウディの方が新しい、というか上品。ダイナミックモードで一気に踏み込んでも、BMWのような直接的なショックに見舞われることはなく、最初の一瞬は滑らか。しかし、その後に蹴られたかのように弾き出されるのだが。

BMWと比較すると、アウディの乗り心地は上下動が多めで、しっとり感に欠ける気がしないでもない。バッテリーをガッチリと守るフロアの剛性バランスなどにも改善の余地があるかもしれない。e-tronは事実上アウディとして初の専用開発電動車であり、デビューは2018年秋。対して、i3などの経験を踏まえたBMWが満を持して開発したiXは、21年春に世に出たばかり。軽量化を含めた完成度では正直いうとBMWのほうが高く、BEVらしいギミックが豊富なのも、これがBMWにとって第2世代のBEVだからかもしれない。

好対照な味わい

ただ、実際に乗り比べれば、iX派とe-tron派は半々くらいになるのでは・・・と思ったりもする。徹底して滑らか、かつ上品に路面に吸いつくiXに対して、e-tron Sのハンドリングは路面に噛みつくがごとし。さらにリヤ2モーターによって、積極的に踏み込んでの旋回特性もアウディのほうが分かりやすい。ステア操作とアクセル操作がピタリと決まった時の旋回スピードは、ちょっと怖くなるほどだ。

とっつきやすいデザインも含めて、硬派なエンスーの多くはアウディに好感を持つかもしれない。とはいえ、明らかに新しい風を感じさせるのはiX。同じセグメントといえる2台なのに、味わいは好対照。我々外野には、そこが何より嬉しい。

REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)

SPECIFICATIONS

アウディe-tron Sスポーツバック

ボディサイズ:全長4900 全幅1975 全高1615mm
ホイールベース:2930mm
車両重量:2690kg
システム最高出力:370kW(503ps)
システム最大トルク:973Nm(99.2kgm)
総電圧:397V
総電力量:95kWh
トランスミッション:1速固定
駆動方式:AWD
サスペンション:前後ウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
航続距離:415km(WLTCモード)
車両本体価格:1437万円

BMW iX M60

ボディサイズ:全長4955 全幅1965 全高1695mm
ホイールベース:3000mm
車両重量:2600kg
システム最高出力:397kW(540ps)
システム最大トルク:1015Nm(103.5kgm)
総電圧:369V
総電力量:111.5kWh
トランスミッション:1速固定
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
航続距離:615km(WLTCモード)
車両本体価格:1740万円

【問い合わせ】

アウディ コミュニケーションセンター
TEL 0120-598-106
https://www.audi.co.jp/

BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
https://www.bmw.co.jp/

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