「アウディA8」と「メルセデス・ベンツSクラス」ドイツのフラッグシップサルーン2台を比較

「こんなサルーンで送迎されたい」フラッグシップのアウディA8とメルセデス・ベンツSクラスを要人警護目線で比較

アウディA8とメルセデス・ベンツSクラス。流行りのSUV系とは一線を画す伝統的なフラッグシップサルーンのロングホイールベースモデル2台を比較した。
アウディA8とメルセデス・ベンツSクラス。流行りのSUV系とは一線を画す伝統的なフラッグシップサルーンのロングホイールベースモデル2台を比較した。
ロングボディのラグジュアリーサルーンを語る上で外せないのがこの2台だ。5320mmという同じ全長のボディを持つアウディA8LとメルセデスS580ロング。48Vマイルドハイブリッドを搭載する2台のラグジュアリーサルーンとしての資質に迫った。

Audi A8L 60 TFSI quattro
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Mercedes-Benz S 580 4Matic Long

ラグジュアリーの頂

いずれもVIPを迎えるに相応しい後席を備えたロングホイールベースのフラッグシップモデルだ。

要人の警護を依頼され、そのためのクルマを選ぶ。今回の2台を比較検討するとすれば、シチュエーションはそんなところだろうか。

アウディA8L60TFSIクワトロとメルセデス・ベンツS580 4マティックロング。いずれもメイクスを代表するフラッグシップサルーンであり、VIPを迎えるに相応しい後席を備えたロングホイールベースモデルだ。それ以外にも両者にはV8+48Vマイルドハイブリッド、AWD、アクティブサス、後輪操舵などなど“これでもか!”というくらいの共通項がある。

これほど拮抗した対決でも、クルマ好きに選ばせれば「そうは言ってもオレはアウディ派」とか、予め結果が決まっているのかもしれない。だがどちらが「要人警護」に向くのか? というテーマがあればバイアスを抜きにした冷静なチェックが必要になるはずである。

現行モデルのアウディA8は2018年にデビューし、昨年春にマイナーチェンジが施されている。前後ライト類やシングルフレームグリルの形状といった外観の変更が目立つが、もちろん室内の意匠やインフォテインメント関係もリファインされている。4.0リッターV8MHEVユニットとロングホイールベースボディを組み合わせたA8Lはマイチェン後も継続してラインナップされている。

勤勉実直を地で行くA8L 60

一方のメルセデス・ベンツS580のロングは2021年秋に追加されている。新型Sクラスとして2021年初頭に導入されたS500は3.0リッター直6MHEVユニットを搭載していたが、今回のS580ロングは4.0リッターV8MHEVを核に据えている。

先に挙げた2台の共通項の中でも特に興味深い点があるとすれば先進的な装備であるアクティブサスの仕上がりではないだろうか?

アウディは現行A8のデビューから1年遅れて「プレディクティブ・アクティブサスペンション」をオプション(84万円)として追加している。レーザースキャナーで前方の路面を把握し、サスペンションの硬度を変化させるという仕組み。車高や姿勢を電動スタビによって瞬時に変えられるという。

一方メルセデスの「Eアクティブボディコントロール」は既にGLEでデビューしているシステムで、Sクラスでは95.2万円のオプションとなる。前方の路面を監視し、凹凸に備えるという大まかな方法論は両者とも似ている。だがアウディが電動であるのに対し、メルセデスのそれは電気の力で油圧のアクチュエーターを制御し車高やサスペンションの硬さをコントロールしている。

サービス精神が旺盛なS580

はじめにステアリングを握ったのはアウディの方。デビュー当初に試乗した現行A8L(アクティブサスなし)のハンドリングはまったく芳しい印象がなかった。フワフワとしたアシのせいで乗り心地はいいのだが、操舵に対する反応が1テンポ遅れる感じで、狙ったラインにクルマを持っていけなかったのだ。

だが今回はまるで印象が違っていた。コンフォート+モードでも巨体を感じさせないほど動きがリニアで、後輪操舵も存在こそ感じられるが違和感はない。A8Lがいつのタイミングで熟成されたのかはわからないし、アクティブサスの貢献の度合いも不明だが、A8Lはカチッとした見た目に相応しい、打てば響くクルマに変わっていたのである。

一方、V8エンジンを搭載した初の現行Sクラス、S580ロングの第一印象は「パワフル!」。でもゆったりとしたペースで走らせると、プレミアム感とか華やいだ雰囲気といったものがじわじわと伝わってくる。勤勉実直で冗談を言わない官僚のようなA8Lと比べるとSクラスはサービス精神旺盛。アンビエントライトがピンクっぽかったこともあり、妙に艶っぽいのだ。

それでもアクティブサスによる乗り心地の部分だけを抽出して比べてみると、両者とも不思議なくらいにフラットな姿勢が保たれ「大差なし」という点が面白い。A8Lが履いているグッドイヤーが少しざらつき、S580ロングのアシが柔らかめというくらいの差しかないのだ。

各々のスローガンそのもの

両者にはV8+48Vマイルドハイブリッド、AWD、アクティブサス、後輪操舵などなど“これでもか!”というくらいの共通項があるフラッグシップサルーンだ。

ドライブしていて楽しく、豊かな気分になれるのは間違いなくメルセデスの方。だが要人警護というテーマと照らし合わせた場合、メルセデスの華やかな部分はアドバンテージにならない。要人警護のクルマは広大なリヤシートがあればいいというわけではない。乗り心地の良さはもちろん重要だが、有事の際に派手なカーチェイスを受けて立つくらいのハンドリング性能も持ち合わせていなければならないのだ。

A8Lの最高出力は460PS、対するS580ロングは503PSなのだが、メルセデスのパワフルさは数値以上。直線的にトルクが立ち上がっていくA8Lに対し、S580ロングのV8は若干のターボラグの後でパンッと弾けるように加速する。ここでもドライバーを楽しませてくれるラグジュアリーさが前面に押し出されたメルセデスに対し、少し地味だが頼りになりそうなA8Lという図式は変わらない。

これはまさに「官能的純粋」対「技術による先進」という各々が掲げているスローガンそのものなのかもしれない。流行りのSUV系とは一線を画す伝統的なフラッグシップモデルだからこそ、ブランドの個性が最も色濃く感じられるのだろう。

筆者の個人的な好みはメルセデス寄りなのだが、要人警護という任務を考えれば官能に浸っている場合ではない。ダークスーツとサングラスで固め、アウディA8Lで冷徹にぶっ飛ばす。これで決まりだ。

REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2023年1月号

SPECIFICATIONS

アウディA8L 60 TFSIクワトロ

ボディサイズ:全長5320 全幅1945 全高1485mm
ホイールベース:3130mm
車両重量:2160kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3996cc
最高出力:338kW(460PS)/5500rpm
最大トルク:660Nm(67.3kgm)/1800-4500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
車両本体価格:1800万円

メルセデス・ベンツS580 4マティック ロング

ボディサイズ:全長5320 全幅1930 全高1505mm
ホイールベース:3215mm
車両重量:2250kg ※
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:370kW(503PS)/5500rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/2000-4500rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
車両本体価格:1978万円
※AMGラインパッケージ装着車

【問い合わせ】

アウディ コミュニケーションセンター
TEL 0120-598-106
https://www.audi.co.jp/

メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
https://www.mercedes-benz.co.jp/

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著者プロフィール

吉田拓生 近影

吉田拓生

1972年生まれ。趣味系自動車雑誌の編集部に12年在籍し、モータリングライターとして独立。戦前のヴィンテ…