速さと爽快感を両立したフェラーリ296GTSに初試乗!

フェラーリの最新コンバーチブル「296GTS」は速くて快適でやっぱり無敵のフェラーリだった

地中海に面したフォルテ・デイ・マルミから、ミッレミリアでも知られるアペニン山脈中のフータ峠を越えて、フェラーリ本社のあるマラネッロまでの約200kmを296GTSをドライブした。
地中海に面したフォルテ・デイ・マルミから、ミッレミリアでも知られるアペニン山脈中のフータ峠を越えて、フェラーリ本社のあるマラネッロまでの約200kmを296GTSをドライブした。
新開発のV6エンジンにPHVシステムを加え、次世代フェラーリを象徴する296シリーズに、オープントップボディのスパイダーモデル「296 GTS」がラインナップした。ハードトップの電動システムを備えた296 GTSをリポート。

Ferrari 296 GTS

オープンエアこそフェラーリの醍醐味

力強く張り出したリヤフェンダーと、そこに設けられた大きなエアインテークが魅力的な296GTS。

フェラーリのオープンモデルは、北米と英国でとくに人気が高いそうだ。2022年4月に発表された296GTSも、この2つの主要市場からの要求が大きかったという。

もちろん、日本にも上陸を心待ちにしているファンが少なからずいることだろう。なにしろ「(1963年の)フェラーリ250LMをイメージソースにしました」と、ヘッド・オブ・デザインのフラビオ・マンツォーニ氏が公言しているぐらい。力強く張り出したリヤフェンダーと、そこに設けられた大きなエアインテークが、なんとも魅力的だ。しかも、フルオープンのデザインも凝っている。「閉めていればクーペと遜色ないスタイルで、開ければ別の魅力を感じさせるはずです」とマンツォーニ氏。

確かに、45km/hまでなら14秒で開閉可能のハードトップを降ろすと、乗員の頭部を保護しつつ空気の流れを整流する2つのバルジがあるが、そこにエアロデッキなるパネルが渡されている。これが流麗なスタイルを作り出している。空力には徹底的に凝っていて、車体のいたるところに、効果的な空力デバイスが装着されている。これはもうひとつのデザイン上の特徴。

45km/h以下なら走行中でも14秒で開閉可能

フロントには、ティートレイと呼ばれる整流板。車体下を通る空気の流れをコントロールしてダウンフォースを生む。リヤには電動式スポイラー。やはり高速でのダウンフォースを制御。キャビン背後のトノカバーの形状も、ダウンフォースのために最適化されたデザインという。

「高速走行時のハンドリングとブレーキングのパフォーマンスを最大化」が、フェラーリが説明するダウンフォースへのこだわり。直線での最高速を追求してきた従来の458スペチアーレといったモデルと、296シリーズとの相違点とされる。

私のイタリアでの試乗の出発点は、地中海に面したフォルテ・デイ・マルミ。ミケランジェロも使ったという大理石の一大産地であるここの地から、ミッレミリアでも知られるアペニン山脈中のフータ峠を越えて、フェラーリ本社のあるマラネッロまでの約200kmをひとりで、296GTSをドライブした。

スパイダーでも速さが重要

SF90ストラダーレが先鞭をつけた新コンセプトのコクピットデザインを継承。インパネはエンジン停止中にブラックアウトされる。
SF90ストラダーレが先鞭をつけた新コンセプトのコクピットデザインを継承。インパネはエンジン停止中にブラックアウトされる。

高速道路を使えば、あっというまの距離。しかし、山岳路がコースに組み込まれていたため、296GTSのいろいろなキャラクターが楽しめるロングドライブになった。

車重が1540kgに抑えられた296GTSは、まさに軽快。小径のステアリングホイールを軽く握っているだけで、ドライバーである私の意思にひたすら忠実に走る。極端なことをいえば、あえて意識的に操舵しなくても、私が視線を送ったほうに、瞬時に車両が向きを変える、と感じられるほどだ。

そのことを、フェラーリのエンジニアに告げると、「でしょう」と、我が意を得たりとばかりに笑顔でうなずかれた。ルーフの前後長が短めなぶん、ウインドシールドは長く、乗員の頭の上に届くほど。そのため、風の巻き込みはかなり少ない。秋のイタリアの暖かな日差しだけを味わうドライブだったのも印象的だ。

興味深いのは、フェラーリの開発者は誰も、296GTSを語るとき、快適とかエレガンスといった言葉を使わなかったことだ。むしろ、先発のクーペに対して、重量増は70kgにとどまり、性能的にはほぼ遜色がないことを強調。「ねじり剛性は50%、曲げ剛性は8%、従来のスパイダーモデルより引き上げました」という。速さや高性能といった言葉が、296GTSを語るときに頻出した。

心がとろけそうなV6のフィーリング

「296」の車名は、総排気量2992ccとV6の数字を掛け合わせたもの。これに電動モーターを組み合わせ、システム最高出力は830PSを発揮。
「296」の車名は、総排気量2992ccとV6の数字を掛け合わせたもの。これに電動モーターを組み合わせ、システム最高出力は830PSを発揮。

「これまでのフェラーリのミッドシップのクーペより(ホイールベースが)50mm短縮され、動的俊敏性が高まりました」(広報資料)とされるシャシーに、プラグインハイブリッドの組合せだ。

2992ccのV6は120度と大きめなバンク角をもち、間にターボチャージャーを収める。電気モーターはスタート時や加速時に作動。ドライブモードのデフォルトは「ハイブリッド」。モーター優先モードで距離は約25km、速度は135km/hまでなら電気走行。駆動用バッテリーがなくなると当然エンジンが始動するが、チャージされるとまた電気モーターへと切り替わる。燃費には貢献しそうだけれど、ちょっとせわしないモードだった。

一方、エンジンを常に稼働してバッテリーの効率を維持し、いつでもフルパワーが発揮できる「パフォーマンス」や、バッテリーの再充電を抑えて最大のパフォーマンスを狙う「クオリファイ」といったモードがあるのは、フェラーリ的だ。

次世代フェラーリの最適解

「このV6のスムーズな回転マナーと気持ちよいサウンドゆえ、開発中はピッコロ(小さな)V12と呼んでいました」とエンジニアが言うV6エンジンは3000rpm以上で、心がとろけそうなフィーリングを味わわせてくれる。一方、小さなカーブなどをこなしていくときは、電気モーターがうまくサポートしてくれるので、常に高めの速度を維持していられるのは現代的だ。

マラネッロで新開発の12気筒搭載の「プロサングエ」を発表したとき「まだまだV12を諦めるつもりはない」(チーフプロダクトデベロップメントオフィサーのジャンマリア・フルジェンツィ氏)としたフェラーリ。一方でこんなV6プラグインハイブリッドの見事なスポーツモデルを開発したのだから、感心するしかない。これこそフェラーリの醍醐味だ。

REPORT/小川フミオ(Fumio OGAWA)
PHOTO/Ferrari SpA
MAGAZINE/GENROQ 2023年1月号

SPECIFICATIONS

フェラーリ 296 GTS

ボディサイズ:全長4565 全幅1958 全高1191mm
ホイールベース:2600mm
車両乾燥重量:1540kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ+モーター
エンジン排気量:2992cc
最高出力:663PS
システム総合最高出力:610kW(830PS)/8000rpm
システム総合最大トルク:740Nm(91.8kgm)/6250rpm
高電圧バッテリー容量:7.45kWh
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前245/35ZR20(9.0J) 後305/35ZR20(11J)
最高速度:330km/h以上
0-100km/h加速:2.9秒
車両本体価格(税込):4313万円〜

【問い合わせ】
フェラーリ公式サイト
https://www.ferrari.com/ja-JP

粛々と、着実に電動化を進めるフェラーリ。今回集めた3モデルはミッドシップである点を除けば、異なる点の多いスポーツモデルだ。

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最も魅力的なフェラーリはやはりミッドシップ、と感じている人も多いだろう。現在、フェラーリは3車種のミッドシップマシンを用意する。異なるパワートレインを採用する3台のフェラーリ最新ミッドシップ、それぞれの個性を探ってみよう。

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