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FERRARI 456
不当に不人気の12気筒フェラーリ
つい先日のこと。とある友人の自宅ガレージを訪問した。世界に一台しかないアレやコレやが広いスペースに無造作に置いてあって壮観のひと言だったのだけれど、それはさておき。出口に最も近いところに停まっていたのが見た目にもコンディションの良さが伺えるフェラーリ456M GTのオートマティックだった。ご本人曰く、「この中では最もよく乗るからねぇ。オートマで気軽に乗れて、ちょうどいいんですよ、今となっては、大きさも性能も何もかも。後期ならさほど心配もないし」。
456といえば長らく「不人気フェラーリ」の烙印を押され不遇をかこってきた。古い跳ね馬の価値が軒並み上昇するなか、多少再評価が進んだ気配もあるけれど、それでもまだ現実的な選択肢として留まっている。12気筒モデルのなかではひょっとすると最も相場は低い。
個人的には昔から大好きなモデルのひとつ。1992年デビューで、僕と“業界ほぼ同期”というのもある。歴史的にいえば、モンテゼーモロ政権の第一弾で、優美なスタイリングをもつFR12気筒フェラーリへの原点回帰でもあった。
極端に2+2が不人気な日本
というわけで件のガレージ訪問を機に僕の456熱が再燃し始めている。ちょうど友人が前期型を売りに出していることもあって俄然、興味が湧いたところだったのだ。
中古車情報を検索してみれば、昔ほどタマ数はない。実をいうと2+2フェラーリの不人気さは、日本市場が突出している。もちろん海外でも2シーターに比べて安いけれど、日本ほど極端ではない。2+2モデルの需要がしっかりとあって底堅い。海外のサーキットイベントなどでは2+2モデルで駆けつけるオーナーも多いのだ。それゆえ、ひょっとすると異常に安かった時代にかなりの数が日本から海外へ流れたかもしれない。
少なくなれば値段も上がる。一時期の倍程度の相場感(前後期とも600万〜900万円)だろうか。2シーターモデルの異常な値上がりに釣られて、古いモデルから順に2+2も値を上げてきた。365とか412だって今や結構な相場(1000万円〜)なのだ。そのうち456だって……。
狙うは前期MTか後期AT
456には大きく分けて4つの選択肢がある。前期か後期か、それぞれに6速MTか4速ATか。相場を決める生産台数で言うと、当然ながら最も多いのは前期MTで1500台ぐらい。後期のMTとATはほぼ同数(700台弱)。前期ATが登場タイミングも遅かったので最も少ない(約500台)。通常は少なければ少ないほど高いけれど、456は別。前期ATが最も安い。
なぜならクオリティに不安があると言われているから。実際、初期にはトラブルも多発したらしい。というわけで最も高いのは、その次に希少でしかも人気の3ペダル、後期MT。こちらはあれば1000万円を超えてくるけど、日本ではほとんど流通しない。
狙うなら前期MTか後期ATで、実際、検索サイトを見ても、そのあたりが主流だ。値段的には1000万円以内に軽く収まる。
多走行車だからダメなわけではない
12気筒エンジンそのものはとても頑丈だ。だからメカニカルな心配は、初期のATを除いてほとんどない。問題はクルマそのものではなくて、「長らく安かったこと」。つまり、安かったからお金もかけずにテキトーに乗られてきた個体が多い。機関系の丈夫さがアダとなって、なんとか動いているだけという個体も散見される。
弱点と言われるリヤサスのセルフレベリングシステムやアルミボディの修復などを含め、「メンテナンス証拠の揃った物件」を根気よく探すほかない。走行距離も短いに越したことはないけれど、とても長い個体だってかえって魅力だ。たくさんのマイレージを稼いできたということは、それだけ手をかけて乗られていた証でもあるから。多走行車を必要以上に毛嫌いする必要はない。
狙うべきは果たして前期MTか後期ATか。クオリティでいえば当然後者に軍配が上がる。実用フェラーリとして、冒頭のオーナーのように気軽に乗って楽しむのであれば後期ATだ。だが、456本来の楽しさを味わいつつ、将来性にも期待するというなら、台数は最も多いけれど「フェラーリ製V12をマニュアルで操る」という、これ以上ない魅力をもつ前期MTだろう。溝を切ったシフトゲートにシフトレバーをコキンコキンと当てるシアワセ……。