トヨタ プリウスに試乗して現在の立ち位置を考察する

実用だけが取り柄を卒業した新型「トヨタ プリウス」の新しい才能とは?

新型プリウスはウェッジシェイプのクーペライクな5ドアハッチ。エンジンフードとフロントガラスの角度のなさ、一直線ぶりはGENROQに掲載されるスーパースポーツと同じだ。
新型プリウスはウェッジシェイプのクーペライクな5ドアハッチ。エンジンフードとフロントガラスの角度のなさ、一直線ぶりはGENROQに掲載されるスーパースポーツと同じだ。
1997年に世界初の量産ハイブリッドカーとして産声を上げたプリウス。言うまでもなく大ヒットを記録し、ハイブリッドカーを牽引してきたモデルだ。そのハイブリッドカーのパイオニアが5代目へと生まれ変わった。3月に追加されるPHVモデルと、ハイブリッドモデルの試乗記をお届けしよう。

Toyota Prius

もはや実用車ではない

サーキットを走らせてわかるのは新型の重心の低さ。先代との乗り比べでは、力強さの差以上に車体の安定感の違いが印象に残った。
サーキットを走らせてわかるのは新型の重心の低さ。先代との乗り比べでは、力強さの差以上に車体の安定感の違いが印象に残った。

トヨタ・プリウスがモデルチェンジした。試乗記を依頼され、GENROQもプリウスに興味をもっているのか! と驚いた。だがこの雑誌の誌面を彩るハイパフォーマンスカーのオーナーたちにも、当然ながら通勤、家族の送迎、近所への買い物といった日常はある。例えばマクラーレン・アルトゥーラじゃ役に立たないケースもあるだろう。だから実用車の代表的存在であるプリウスの情報が載っていたっておかしくはないかと自分を納得させた。

新型プリウス最大のトピックはなんといっても特徴的なスタイリングだろう。ウェッジシェイプのクーペライクな5ドアハッチ。エンジンフードとフロントガラスの角度のなさ、一直線ぶりはGENROQに日常的に掲載されているスーパースポーツと同じだ。初めて見たときにはロータス・エスプリの新型かと思った! この大胆なスタイリングの副作用として、新型の乗降性は実用車として決して褒められたものではない。特に後席は頭をかがめて乗り込むことになる。後席ほどではないが前席もややそんな感じだ。

プリウスというのは、とにかく燃費が良いクルマとして世の中に登場し、2代目あたりから実用車のお手本として存在し続けてきた。プリウスの前にその立場にあったカローラに取って代わりかけた。だがあるタイミングで、やはりカローラこそ実用トヨタ車のど真ん中に君臨すべきクルマであるべきだとトヨタが判断し、カローラにもハイブリッドが追加された。

パワーアップして速さも増した

これによってプリウスは実用ど真ん中の存在である必要がなくなり、初代のように再びハイブリッド技術を中心としたトヨタの先進性を示す存在としての役割を担うようになった。新型のスタイリングはそれを象徴的にあらわしているのだ。カローラのスペシャルティバージョンともいえるかもしれない。BMWの4シリーズ、アウディのスポーツバックみたいなものか。

このほどPHV(プラグインハイブリッド)をクローズドコースで、HEV(ハイブリッド)を一般道で試す機会を得た。まずPHVのEVモードでピットアウト。アクセルを徐々に深く踏み込んでいく。当然エンジン音はせず挙動はEVそのもの。静かで変速もなくスルスルと速度が上がっていく。直線でアクセルを全開にしてみる。エンジンの助けを借りずともかなりの速さを見せた。先代が8.8kWhのバッテリーを搭載するのに対し、新型は13.0kWhと大容量のバッテリーを搭載する。EVのバッテリー容量は航続距離を左右するだけでなく力強さにも影響する。

次にハイブリッドモード、すなわちこのクルマがもつ最大のパワーを発揮するモードだ。0-100km/h加速タイムは6.7秒だが体感的にどうか。直線に差し掛かってアクセルを深く踏み込む。と同時にエンジンが掛かって加速力が増す。速い! バッテリー性能が向上(大容量化)していることに加え、エンジンも排気量が200cc増え、パワーアップしている。その掛け合わせによって大幅に速さを増している。大きな負荷を掛けた状態でも音と振動はよく抑えられていて、アクセルを全開にしても車内は静かだ。

キビキビしたハンドリング

サーキットを走らせてわかるのは新型の重心の低さだ。先代との乗り比べでは、力強さの差以上に車体の安定感の違いが印象に残った。新型は加減速や旋回によって車体が前後左右に倒れ込む量が少なく、はっきりとスポーティだ。

続いてHEV版、つまり普通のプリウスを公道で走らせた。システム最高出力は196PSとPHVよりも27‌PS低いが、バッテリー容量が格段に小さい分、車重が軽いはずなので大きな“体力差”は感じなかった。

一般道での乗り心地は想像していたよりも硬く、路面の継ぎ目を通過するとドンとはっきり乗員に振動が伝わる。ただ衝撃は一発で収束するので不快というわけではない。むしろこの折り目正しい乗り心地や、キビキビとしたハンドリングは、大胆なスタイリングとの整合性が取れている。

新型は実用車の枠を飛び出し、先進的なスペシャリティカーへとリボーンしたのだ。大人5人とそれなりの荷物を飲み込むので実用的ではないということではない。実用一辺倒ではないということだ。

REPORT/塩見 智(Satoshi SHIOMI)
PHOTO/トヨタ自動車
MAGAZINE/GENROQ 2023年4月号

SPECIFICATIONS

トヨタ・プリウスZ

ボディサイズ:全長4600 全幅1780 全高1430mm
ホイールベース:2750mm
車両重量:1420kg
エンジン:直列4気筒DOHC
総排気量:1986cc
最高出力:112kW(152PS)/6000rpm
最大トルク:188Nm(19.2kgm)/4400-5200rpm
モーター最高出力:前83kW(113PS) 後30kW(41PS)
モーター最大トルク:前206Nm(21.0kgm) 後84Nm(8.6kgm)
トランスミッション:電気式無段変速機
駆動方式:FWD/AWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前ベンチレーテッドディスク 後ディスク
タイヤサイズ:前後195/50R19
燃料消費率(WLTC):28.6km/L
車両本体価格:370-392万円

【問い合わせ】
トヨタ自動車お客様相談センター
TEL 0800-700-7700
https://toyota.jp

非公開: スタイリングばかり注目される新型「トヨタ プリウス」の目指した方向性をグローバル視点で考察

これまでとは一線を画するスタイリッシュなスタイリングで登場した新型「トヨタ プリウス」。発表会自体も異例づくしの内容で、現状ではスタイリングと簡単な技術のみが明らかとなっただけだが、はたしてハイブリッド車のトップランナーは、新型に生まれ変わってどういった方向性となったのか? マーケティング戦略面から考察する。

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著者プロフィール

塩見 智 近影

塩見 智

1972年岡山県生まれ。1995年に山陽新聞社入社、2000年に『ベストカー』編集部へ。2004年に二玄社『NAVI』…