メルセデス・ベンツのベストセラーSUV「GLC」に試乗

ミドルサイズSUVの雄「メルセデス・ベンツGLCクラス」のプレミアム感はどこから生まれるのか試乗で確かめた

先代比で全長が50mm、ホイールベースが15mm伸びた。1890mmという全幅は変わりないが、5mm低くなった全高によって、初代より低重心に見える。
先代比で全長が50mm、ホイールベースが15mm伸びた。1890mmという全幅は変わりないが、5mm低くなった全高によって、初代より低重心に見える。
2015年のデビュー以来、世界で大ヒットを記録したメルセデス・ベンツGLCが初のフルモデルチェンジ。質感の高いインテリアやマイルドハイブリッドならではのスムーズな走りを備えた新型はまたしてもプレミアムミドルサイズSUVクラスにおいて寵児となるに違いない。

Mercedes-Benz GLC 220 d 4Matic

今やメルセデスの大黒柱に

440NmというトルキーなエンジンにISGの相乗効果もあってか、スムーズで力強い。滑らかなアイドルストップの作動で、パワートレイン全体の質感は高い。
440NmというトルキーなエンジンにISGの相乗効果もあってか、スムーズで力強い。滑らかなアイドルストップの作動で、パワートレイン全体の質感は高い。

この新しいDセグメントSUVは、GLCという車名では2世代目となるが、その前身はGLKである。GLKといえば、大ヒットしていたBMWのX3(2003年本国発表)に対抗すべく、その約5年後の08年に発売された。ちなみにアウディQ5やボルボXC60の初代も同時期のデビューで、X3の成功がいかに想定外だったかが伺える。

しかも、GLKは4WDの構造上の都合もあって左ハンドルしか用意されず、急造感が否めなかった。当時のメルセデスは同セグメントの将来性に懐疑的だったのかもしれない。しかし実際はX3に加えてQ5やXC60も大成功して、セダン以上に美味しい市場に急成長したのに、GLKの販売は振るわなかった。

そんな状況を打破すべく、今度は満を持して送り出されたのが初代GLCだったわけだ。GLCは発売後も年を追うごとに存在感をぐんぐん高めて、モデル末期の20年と21年にはメルセデスSUV最多販売を記録。21年にいたってはCクラスをも上回ったというから、今やメルセデスのベストセラーの1台なのだ。

グレードは最新ディーゼルを積む220dのみ

というわけで、新型GLCは見事なまでのキープコンセプトで、デザインも新旧でよく似る。今回もひと足先に登場した5代目CクラスとMRAIIアーキテクチャーを共有する。サイズも先代比で全長が50mm、ホイールベースが15mm伸びたのみ。1890mmという全幅は変わりないが、より安定感のある下半身と強く絞られたキャビン(と5mm低くなった全高)によって、実車は明らかに初代より低重心に見える。

インテリアの基本造形もCクラスのそれと酷似するが、ソフトパッドを使う部位が増えたり、日本仕様はウッドパネルが標準装備となるなど、質感表現はGLCが上である。オフロードモードにするとボンネット下が透けたように見えるカメラ機能は、昨今では珍しいものではない。ただ、こういう細かいところまでスキがないのもそれだけ力のこもったモデルチェンジだからだろう。

将来的には2.0リッターガソリンベースのPHV(GLC400e)あたりの上陸も予想されるGLCだが、今回の日本仕様はひとまず最新2.0リッターディーゼルを積む220dの4マティックのみ。新型GLCは全機種電動化されたのも大きな売りで、220dもエンジンと変速機の間に23‌PS/205Nmのスターター兼発電機(ISG)を仕込んだマイルドハイブリッドである。

パワートレイン全体の質感の高さ

現時点ではグレードも1種類(本体価格820万円)だが、内外装をAMG仕立てにする「AMGラインパッケージ」や本革シートやARナビ、サラウンドシステムなどをセットにした「AMGレザーエクスクルーシブパッケージ」、そして自慢の四輪操舵とエアマチックサスペンションによる「ドライバーズパッケージ」などが用意される。これらをフル装備すると、ビジュアルも走りも一気にアップグレードする(価格も1000万円に限りなく近づく)。

今回の試乗車もそのフルトッピング仕様だったが、その走りはお世辞ぬきにクラストップをうかがうデキだ。440NmというトルキーなエンジンにISGの相乗効果もあってか、スムーズで力強い。ディーゼル音はそれなりに耳へ届くのだが、過給ラグを感じさせないトルク供給とスルリと滑らかなアイドルストップの作動感で、パワートレイン全体の質感が高いのが印象的である。

また、いかにも堅牢なボディ剛性はこの程度(?)のパワーやトルクには余裕しゃくしゃくというほかない。ぴたりと安定した直進性や正確無比なライントレース性からは、ボディだけでなく、サスペンションの位置決めの確かさや横剛性の高さ、フリクションロスの少なさ……といったGLCの基本フィジカル能力の高さを証明するものといっていい。

手首の返しだけでヒラヒラと

先代GLCはモデル末期にはメルセデスSUV最多販売を記録。2021年にいたってはCクラスをも上回り、今やメルセデスのベストセラーの1台だ。
先代GLCはモデル末期にはメルセデスSUV最多販売を記録。2021年にいたってはCクラスをも上回り、今やメルセデスのベストセラーの1台だ。

そしてなにより驚いたのが、この新世代アーキテクチャーの大きな売りである四輪操舵の絶大な効能である。GLCのそれは車速60km/h以下では逆位相、それ以上では同位相に、それぞれ最大4.5度までリヤアクスルがステアされるという。

その結果として、最小回転半径5.1mという小回り性能が、せまい路地や駐車時に便利なのは当然として、交差点やタイトなワインディングなどで、それこそ手首の返しだけ(?)でヒラヒラと操れるのは素直に楽しく、身体負担の少なさも明らか。そして、逆に同位相となっている高速コーナーでの、まるで見えないレールか外壁に沿って走るかのような安定性にはさらに驚く。

同位相には限界性能を引き上げて、ロールも小さくできるという明確な機能的メリットがあり、GLCがアシが柔らかいコンフォートモードでも意外なほど安定性が高く、逆にスポーツモードでも期待以上に快適な調律なのは、四輪操舵の恩恵も大きいと思われる。また、AMGラインパッケージのタイヤが55扁平の19インチという穏やかなサイズなのも、(ビジュアル的に物足りなく思う好事家もおられようが)乗り味的には絶妙なチョイスと申し上げたい。

同じシステムでも背の低いCクラスだと、明らかな性能アップと人工的な操縦性との間で功罪相半ば……といった印象だった四輪操舵も、背の高いGLCでは個人的にはメリットしか感じられなかった。操作性もCクラスより自然な気もする。これがエアマチックとセットで49万円という追加料金なら選ぶ価値はありあまるほどあると思う。いずれにしても、GLCはいきなり完成度も高く、現時点で、この激戦セグメント最推奨株の1台と断言したい。

REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/佐藤亮太(Ryota SATO)
MAGAZINE/GENROQ 2023年5月号

SPECIFICATIONS

メルセデス・ベンツGLC 220 d 4マティック

ボディサイズ:全長4720 全幅1890 全高1640mm
ホイールベース:2888mm
車両重量:1925kg
エンジン:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
総排気量:1993cc
最高出力:145kW(197PS)/3600rpm
最大トルク:440Nm(44.9kgm)/1800-2800rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
車両本体価格:820万円

【問い合わせ】
メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
https://www.mercedes-benz.co.jp/

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著者プロフィール

吉田拓生 近影

吉田拓生

1972年生まれ。趣味系自動車雑誌の編集部に12年在籍し、モータリングライターとして独立。戦前のヴィンテ…