日産GT-R NISMOの2024年モデルにワインディングで試乗

2024年モデルの日産GT-R NISMOに乗って痛感した「ワークスチューンの頂点に君臨する理由」

ワークスチューンの頂点に君臨するGT-R NISMOのMY24がついに登場した。MY24は前後のデザインを変更して空力特性を大幅に向上させたほか、旋回性向上のためフロントにメカニカルLSDを採用。箱根のワインディングでの試乗となったが、そのパフォーマンスはまさに異次元であった。(GENROQ 2023年10月号より転載・再構成)

Nissan GT-R NISMO Special edition

今回の進化の手段は?

禁断のフロント機械式LSDを装備。GT-Rはそもそもリヤに機械式のLSDを搭載しているが、フロントに与えたのは市販モデルで初めてのことである。

速さを手にする手法はエンジンパワー、タイヤグリップ、そしてダウンフォースなど数多ある。レーシングカーであればレギュレーションが許す限りそのすべてをアップさせれば良いが、市販車ではその制約がかなり絞り込まれる。

新たに登場したMY24(モデルイヤー)日産GT-R NISMOの姿を見ていると、そのことを痛感させられる。いま売る市販車には通過騒音規制をはじめ、様々な足枷があるが、そこをクリアするためにMY24はベースモデルと同様にマフラーを改めている。すなわち、もうこれ以上のパワーアップを画策している場合ではないというわけだ。

さらにタイヤに関しても通過騒音規制の関係上、これ以上のグリップアップは望めない。そういった理由もあり、NISMO専用となるダンロップSPスポーツマックスGT600DSST NR1(ベースモデルよりも溝面積が少なくブロック剛性が高い)をMY24は変わらずに装着しているわけだ。

ならばどこを進化させるのか? その問題をクリアするにあたり、空力と足まわり、そして市販車としては禁断とも言えるフロントのメカニカルLSDの追加に踏み切ったのだろう。

禁断のフロント機械式LSD

足まわりは電子制御サスペンションのGセンサーを改めた。高周波感度の向上により、微細な変化にも対応できるようになったという。
足まわりは電子制御サスペンションのGセンサーを改めた。高周波感度の向上により、微細な変化にも対応できるようになったという。

フロントマスクはデザインこそ大人しく感じるが、インテーク角度からバンパーコーナー部のエアガイドを改め、明らかにダウンフォースを狙ったものだ。一方のテールエンドもトランクリッド後部からボディサイドにセパレーションエッジまで加えることで、ボディ後部に巻き込む風を最小限にしている。その上でリヤスポイラーは高く後ろに引き伸ばされた。これらトータルでダウンフォースを13%も引き上げることに成功したという。

足まわりは電子制御サスペンションのGセンサーを改めた。高周波感度の向上により、微細な変化にも対応できるようになったらしい。つまりそれは、挙動変化をいち早く捉え、減衰力を変化させることで姿勢を落ち着かせたいということだ。

さらに禁断のメカニカルLSDをフロントに備えたのだ。GT-Rはそもそもリヤに機械式のLSDを搭載しているが、フロントに与えたのは市販モデルで初めてのこと。チューニングパーツとして長年NISMOで販売していた経緯があるからこそ、挑戦できたことなのだろう。基本的には1WAYに近いもので、コーナー進入側では動きを邪魔しないようにセットされている。

このほか、NISMO仕様のみ4WDの制御を変更。フロントへのイニシャルトルクを低めに設定し、高G旋回時のみフロントトルクをアップさせるようにセットした。初期の回頭性を重視ししながらも、アクセルを積極的に踏み込んで立ち上がる時にはフロントLSDを使ってさらなる旋回を得ようということなのだろう。

日常域からフラットな走り

そんなMY24のドライバーズシートに収まると、以前よりもかなりゴツいシートに改められていることが理解できる。CFRP製のバックシェルを持つそれは、閉断面化することでさらなる剛性を確保。乗降性は悪化させずにホールド性を向上させたところはさすがだ。見た目とは違い、各部パッドは適度に身体をサポートしてくれるため、一般道で乗ったとしても不快感はなく仕立てられている。

走り始めると、日常域から以前よりもフラットに走ることに驚く。特にリヤの足がしっかりと伸び、路面を確実に捉えて行くのだ。これは足まわりをノーマルモードに設定しての話。コンフォートモードに入れておけば、さらにしなやかさが増すから驚きだ。なんせ今回の相手はNISMO仕様なのだから。もちろん、以前本誌でご紹介したTスペックと比べれば引き締められた感覚はあるのだが、NISMO仕様でこれほどまでにマナーが良くなるとは思いもしなかった。

結果として事実上のサーキットモードともいえるRモードをワインディングでも使えるほどになった。ハイスピードで高負荷をかける状況においてという注釈は付けなければならないだろうが、以前はRモードでは跳ねてしまいワインディングではまともに使えないと思っていたところが完全に改められたのだ。その際にもリヤのグリップがしっかりと確保されているところが特筆すべきポイント。跳ねるように走るのではなく、路面を舐めるように動くとでも言えば良いだろうか? 速度を重ねれば重ねるほどダウンフォースが高まり、その感覚がより一層増してくる。フロントもリヤも安定感の塊といえる感覚だ。

異次元の世界を実現

肝心の旋回性も損なわれていない。4WD制御とLSD効果により、初期の素直な回頭性がありつつ、操舵を与えながらアクセルオンするとさらにひと曲がりしてくれる感覚があるのだ。以前、NISMOのNアタックパッケージをフル装備したクルマに乗ったことがあるが、その際はもっとLSDを効かせ、グイグイと曲がっていく感覚があったが、MY24はあくまでもカタログモデル。誰もが扱いやすいようにマイルドなLSDの効きに仕立てられている感覚が強い。

いずれにしてもこのテイストはMY22までにはなかった感覚だ。それまではブレーキング側で一気に向きを変えて直線的に立ち上がるようなスタイルが適しているように感じていた。なぜなら、コーナーを最初から最後まで円を描いて旋回すると、なかなかアクセルが開けられない状況があったからだ。

だが、MY24は明らかに違う。まるでライトウエイトスポーツにでも乗っているかのように綺麗な旋回を見せ、アクセルを入れてもファイナルアンダーステアにならない、ニュートラルな姿勢を実現してくれることが素晴らしい。同じように見えてまるで違う次元に到達したと言っても過言じゃない。

これはまさに緊張感からの解放である。確実な安定感の上で、クセのない見事なライントレース性を手にした今度のGT-R NISMOは、結果として速くなっていると思える。ドライバーが不安を覚えず、積極的にアクセルを踏んで行くことができれば、タイムは確実に縮まるのだから。

パワーもタイヤも変えることなく、エアロや足まわり、そして駆動制御を改めることで、異次元の世界を実現したこのクルマは、よくぞやってくれたと賞賛したくなるほどに気持ちの良い走りを展開する。

古き良きGT-Rの世界観

最新のレーステクノロジーをフィードバックしたNISMO専用カーボン製リヤウイングを採用する。スワンネック型のステーが特徴だ。

R35が登場して16年、NISMO仕様が誕生して10年の時が経過した現在。いつまで造り続けるのか、モデルチェンジはしないのか、と揶揄されることも多いが、これほどの熟成を見せつけられると同じクルマをコツコツと仕立てるのも悪いことじゃないと思えてくる。

だからこそ今は少しでも長く販売し続けて欲しい。これからは新たなるレギュレーションとして緊急ブレーキなどの安全装備を搭載しなければ長くは売れないことが予測される。そこをどうクリアするかが見どころだが、今の完成度ならばもう少し投資して生き長らえさせても良いのではないだろうか?

もちろん、冷静に見れば低速時のドライバビリティの薄さ、さらには6速DCTも現代の他のスーパースポーツと比べれば、改善の余地はある。けれども、古き良きGT-Rの世界観が好きな人にとっては、まだまだ魅力的である。投資物件ではなく、本当のGT-R好きに乗って欲しい1台だ。

REPORT/橋本洋平(Yohei HASHIMOTO)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2023年11月号

SPECIFICATIONS

日産GT-R NISMOスペシャルエディション

ボディサイズ:全長4700 全幅1895 全高1370mm
ホイールベース:2780mm
車両重量:1720kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
総排気量:3799cc
最高出力:441kW(600PS)/6800rpm
最大トルク:652Nm(66.5kgm)/3600-5600rpm
トランスミッション:6速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/40ZRF20 後285/35ZRF20
車両本体価格:2915万円

【問い合わせ】
日産自動車お客さま相談センター
TEL 0120-315-232
https://www.nissan.co.jp

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著者プロフィール

橋本 洋平 近影

橋本 洋平

いまはなきジェイズティーポ編集部に所属したことをきっかけに自動車雑誌業界に入り、その後フリーランス…