マニュアルスポーツカー比較試乗「ポルシェ対BMW対ロータス」

【ポルシェ対BMW対ロータス】初夢に見たいマニュアルスポーツカー比較試乗「2024年はMT車の年」

今回取り上げるポルシェ911カレラT、BMW M2、ロータス エミーラは、各々エンジン搭載位置が異なれど、共にMTを設定し後輪をドライブする。
今回取り上げるポルシェ911カレラT、BMW M2、ロータス エミーラは、各々エンジン搭載位置が異なれど、共にMTを設定し後輪をドライブする。
だいぶ限定的になってしまったものの、ポルシェはいまだ日本仕様車にMTを設定、スポーツカー好きの声に応えている。そこで本パートでは、911TのMTを軸に今が旬の輸入MTスポーツをピックアップ。比較を通じてそれぞれの姿を明らかにする。奇しくも車両レイアウトもエンジン形式もまったく異なる3台となったが、果たしてそのドライビングプレジャーとは──。(GENROQ 2024年2月号より転載・再構成)

Porsche 911 Carrera T
Lotus EMIRA
BMW M2 Coupe

2ペダルATの方がどう考えても合理的とはいえ

全車400PS程度の2WD。気持ちよくMTを活かせるパフォーマンス的にちょうどいいところかもしれない。
全車400PS程度の2WD。気持ちよくMTを活かせるパフォーマンス的にちょうどいいところかもしれない。

クラッチワークやギヤチェンジを楽しみながらドライビングを究めるMTのスポーツカー。ひと昔前までは当たり前だったこの選択肢がひとつ、またひとつと減り続けている。悲しい話ではあるものの、その理由を聞くとぐうの音も出ない。今やほとんどのスポーツカーにおいて間違いなく速く、多段化によるワイドレシオで高効率と、2ペダルATの方がどう考えても合理的な選択肢となっている。当初はクラッチ式ATがその座を占めたが、近年ではスリップロスを極限まで減らしたトルコン式ATでも3ペダルMTより高効率という実績もある。ZFの8HPなどはその典型だろう。

さりとて、我々の大半は誰よりも速いことが是とされる職業ドライバーではない。クルマ道楽者としてみれば、タイムをコンマ1秒でも削り取る醍醐味もさることながら、そのプロセスがいかに満ち足りたものであるかの方が俄然大切だ。或いは内燃機との対話を徹底的に慈しみたいという向きもあるだろう。そういう好事家のために、今もMTは存在しているのだと思う。

今回取り上げる3つのモデルは、各々エンジン搭載位置が異なれど、共にMTを設定し後輪をドライブする。それだけでなく、力感や速さなども同じようなところにある。裏返せば、自動車メーカーとしても、2WDで気持ちよくMTを活かせるパフォーマンス的なピークという見方をしているのではないか。

意外とクラシックを大切にしているのが特徴

この中で最も古典的かつポピュラーなスポーツカーレイアウトを採っているクルマといえばM2だ。

搭載するエンジンは50年代以降、FRスポーツカーの範とされてきた直列6気筒。ユニットを縦置きするがゆえ長くなるノーズを後軸に近いところで座って振り回す。手元に近いところにミッションが置かれるおかげもあって、シフトフィールもダイレクトでリンケージを介したリモート感とは無縁だ。ジャガーやアストンマーティンといった名門の当時の名車は、概してそういう成り立ちである。そしてBMWはその世界観をZ4で受け継いでもいるわけだ。昨今は7シリーズやXMのようなイノベーティブが目につくが、意外やクラシックを大切にしているのもBMWの特徴だったりする。

M2はグランドツーリングカーとしての素養も備える2ドアクーペゆえ、プロポーションやパッケージはごくベーシックだ。トランク容量はたっぷり採られるほか、なんとあらば後席に人を座らせても窮屈ではないほどの空間は備わっている。長さ方向を除くディメンジョンは極めてM4に近く、さながらM4 SWBといった趣だ。それを僅か20‌PSパワーを落としただけという

460PS/550NmのS58型ユニットで走らせるのだから、速くないわけがない。巧妙な電子制御のおかげでM謹製の6気筒を気持ちよく歌わせることが出来るが、それらをカットすればドリフトも朝飯前の強烈にホットなマシンへと変貌する。

かねてからBMWのMTのシフトフィールは、ことスポーティネスについては賛否が割れるものだったように思う。ストロークは長くリンケージ感は柔らかめ、ゴムの塊に割り箸を突っ込んでいるような感触は個人的にはあまり嬉しいものではない。ポルシェも含めてドイツ車は概してMTの変速感がゆるふわだ。これは国民的嗜好かと思うこともある。

が、M2はストロークが詰められリンケージは硬質に、抜き差しのタッチも改善が加わっている。変わるきっかけとしてGRスープラを共同開発した際にトヨタ側との意見交換が刺激になったのかなとも推するが、ともあれいい傾向だと思う。

M2を選ぶ上でひとつポイントとなるのは右ハンドルの運転環境だ。ペダルオフセットはやや右寄りで、オプションのトラックパッケージに含まれるカーボンバケットシートは座面大腿間のサポートがクラッチワークで邪魔になることが多い。標準シートであればスポーツカーとしてもGTとしても、MTならではの愉しみに浸れると思う。

トヨタ製かと訝しがるほど性格が激変したV6ユニット

エミーラはロータスが供する最後の内燃機搭載スポーツカーと目されている。察するに、BEVで新世界を拓くという目標の一環として、96年に登場したエリーゼからの流れを汲むロータスらしいエンジニアリングの集大成として企画されたケジメの1台なのだろう。

搭載エンジンはトヨタ製の2GR-FE型をベースにチューニングを施しスーパーチャージャーを組み合わせたV6、メルセデスAMG製のM139型に専用セッティングのECUを搭載する直4ターボがあるが、MTが選択できるのはV6のみだ。

いずれも横置きとなるため、シフトレバーとミッションとの間には複雑にリンクを介することになるが、エミーラは敢えてシフトレバー側の軸受部を剥き出しにしてそのリンクを見せるように作り込んである。2010年代のエリーゼから始まった仕立てだが、MT好きにとってはたまらない演出だろう。スケルトンゆえ操作時にはカチャカチャと音も鳴るが、イニシャルがそれほど静かではないこともあり気になるほどではない。ひと昔前のフェラーリやランボルギーニは金属製のシフトゲートにレバーをカチンカチンと沿わせて変速していた、そういうのと同種のライブ感を感じる向きもあるだろう。

エキシージやエヴォーラにも搭載されてきたV6ユニットは、これのどこが2GR-FEなのよと訝しがるほど性格が激変、レスポンスは十分にスポーティだ。スーパーチャージャーの使い方もこなれたもので、低中回転域ではフラットにトルクを盛りながら、6000rpm向こうの高回転域にきっちりパワーを繋げていく。恐らくM139を搭載した4気筒モデルは軽快に速いだろうが、個人的にはエミーラにはV6の方が見合うのではないかと思う。

エミーラは乗降性や乗り心地、積載力など、場面ごとで望外にGT的な多用途性をみせてくれる。そこにV6のサウンドや回転フィールといった基本的な質感は相性がいい。更にここにMTが加われば、運転する楽しみは倍加する。さすがに遠隔式がゆえトラベルは左右方向に緩く、たとえばヒューランドのように無駄な動きひとつなくカチカチとギヤが嵌る感はないが、そもそもの金属質なタッチや力をかけずともスッと吸い込まれていく変速感など、クルマ好きならその艶めかしさにニンマリさせられるはずだ。

力強い蹴り出しや濃密なトラクションをMTで

911のMTがPDKベースの7速となったのは991世代からの話だ。ただしその左右方向のトラベルのタイトさからシフトミスが頻発するような操作感はスポーツカーとしての911ファンを落胆させた。その声に応えるかたちでここ2世代のGT3には6速MTの選択肢もあるが、クルマ自体、そのパフォーマンスをMTで引き出すことが難儀な話という激烈な高みに至ってしまった。

適切な車格で実用性や快適性を兼ね備えた、毎日乗れるスポーツカーという911伝統のコンセプトをMTで味わいたい。そんな向きに用意されたのがカレラTだ。

搭載される7速MTは相変わらず左右トラベルは短いが、3〜6速間の繋がり感が明確化されたことでフィーリングは随分と改善された。7速は高速巡航用と割り切れば扱いにくさはほとんど感じないだろう。

カレラTはスポーツシャシー&LSDに加えてリヤガラスの薄板化やリヤシートの撤去(無償オプションで装着も可能)など軽量化も施すことで走りのフィーリングを高めたグレードだ。搭載エンジンはカレラと同じ3.0リッターツインターボのフラット6、出力も同じ385PS。今回の中では最も低いが、車検証記載値で1470kgの車重に表さずとも軽量化の効果はしっかり走りに現れていて、カレラより確実にタイトでダイレクトなドライブフィールが味わえる。

力強い蹴り出しや濃密なトラクションをMTでコントロール出来る、911ならではの幸せなひと時はやはり代わるものがない。この豊かさを毎日我慢することなく味わえるという、アルティメイト側にはない素の911の佳さがカレラTにはギュッと凝縮されている。今や右ハンドルのペダルレイアウトによる違和感も無視できる程度にまで改善された。今回の3台は終の内燃機、終のMTとしても各々魅力に満ちているが、やはり総合力という点で、カレラTがいち押しとなるのは致し方ない。

REPORT/渡辺敏史(Toshifumi WATANABE)
PHOTO/神村 聖(Satoshi KAMIMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2024年 2月号

SPECIFICATIONS

ポルシェ911カレラT

ボディサイズ:全長4530 全幅1852 全高1293mm
ホイールベース:2450mm
車両重量:1470kg
エンジンタイプ:水平対向6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2981cc
最高出力:283kW(385PS)/6500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/1950-5000rpm
トランスミッション:7速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前245/35ZR20 後305/30ZR21
最高速度:291km/h
0-100km/h加速:4.5秒
車両本体価格:1640万円

ロータス・エミーラ V6ファーストエディション

ボディサイズ:全長4413 全幅1895 全高1226mm
ホイールベース:2575mm
車両重量:1405kg
エンジンタイプ:V型6気筒DOHCスーパーチャージャー
総排気量:3456cc
最高出力:298kW(405PS)/6800rpm
最大トルク:420Nm(42.8kgm)/2700-6700rpm
トランスミッション:6速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前245/35R20 後295/30R20
最高速度:288km/h
0-100km/h加速:4.3秒
車両本体価格:1573万円

BMW M2クーペ

ボディサイズ:全長4580 全幅1885 全高1410mm
ホイールベース:2745mm
車両重量:1710kg
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2992cc
最高出力:338kW(460PS)/6250rpm
最大トルク:550Nm(56.1kgm)/2650-5870rpm
トランスミッション:6速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35R19 後285/30R20
最高速度:285km/h
0-100km/h加速:4.3秒
車両本体価格:972万円

【問い合わせ】
BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
https://www.bmw.co.jp/

ロータスコール
TEL 0120-371-222
https://www.lotus-cars.jp

今回は新型M2の6速MTモデルと8速ATモデルの同時に試乗した。

「8速ATと6速MTどっちがいいの?」新型「BMW M2」を比較試乗してわかった根本的な立ち位置

BMWが誇る後輪駆動のコンパクトスポーツ「M2」が新型へスイッチした。いかにもエンスージアスト好みのサイズに460PSを発揮する3.0リッター直6ターボを搭載。大柄のスーパースポーツ全盛の今、M2の存在はすこぶる貴重なものとなるだろう。(GENROQ 2023年8月号より転載・再構成)

わずか1470kgという、モデル最軽量を実現した「ポルシェ 911カレラT」。

ツーリングを意味する「T」を掲げた「ポルシェ 911カレラT」は運転が楽しいライトウェイト仕様【動画】

ポルシェジャパンは、911ファミリーのライトウェイト仕様、新型「911カレラT」を発表。日本における予約受注を10月19日から、全国のポルシェ正規販売店にて開始した。価格は7速MT/8速PDKともに1640万円となっている。

コンパクトなボディに1.5トンを切る重量、405PSを発揮する3.5リットルのV6スーパーチャージャーにMTを組み合わせるなど、ロータスらしいライトウエイトスポーツカーが「エミーラ」だ。

「ロータス最後のエンジン車!」本格ミッドスポーツの「エミーラ」をチェック!【動画】

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著者プロフィール

渡辺敏史 近影

渡辺敏史