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スバルはイスラエルの”希望の星”
これまで、いくつかのスバル車が登場する映画を紹介してきたが、今回はタイトルからスバルが主役であることを感じさせる『ピンク・スバル』を紹介しよう。
2009年に製作されたこの映画はイスラエルが舞台となっているが、監督は本作でデビューを飾った日本人の小川和也さんだ。
舞台となったイスラエルは、日本の自動車メーカーとしては富士重工業(現SUBARU)だけが輸出していた。結果的に、この国のクルマのほとんどがスバル車となり、彼らの”希望の星”となっていた。
しかし、隣接するパレスチナの西岸地区は自動車ディーラーが圧倒的に少なく自動車窃盗が常態化しており、イスラエルで盗まれたクルマが境界線を越え、パレスチナの街で販売されていたそうだ。
そんな自動車窃盗が多く発生するイスラエルとパレスチナの境界近くにある街、タイベが舞台だ。
■STORY
パレスチナとの境界線沿いに位置するイスラエルの街タイベ。アラブ人のズベイル(アクラム・テラーウィ)は数年前に妻を亡くし、妹のアイシャ(ラナ・ズレイク)と2人の子供と実直に暮らしてきた。
そんなズベイルの望みは、妹の幸せな結婚と、20年間貯めたお金で憧れのメタリック・ブラックのスバル車を購入することだった。
結婚式が近づき、妹をマイカーで結婚式場まで運ぶ姿を思い描きながら、ズベイルはスバル・レガシィの新車を購入。納車の日、ズベイルは近隣の人々とお祭り騒ぎで最高の一夜を過ごす。しかし翌朝、スバルは跡形もなく姿を消していた……。
ズベイルの悲嘆に暮れる姿を見た妹アイシャも、とても彼を置いて結婚する気にはなれなかった。ズベイルは家族の幸せを取り戻すために、盗まれたスバルを見つけ出し、奪還することを心に決める。
車泥棒は盗難車を、境界線を越えた解体工場に運ぶ。そうなれば、バラバラにされてしまうのは時間の問題だった。
ズベイルは自動車泥棒で財を築き豪邸に住む”大泥棒”アデルに助けを求める。盗難車の流通を知り尽くすアデルを頼れば、彼のスバルはすぐ見つかるはずだったが……。
登場するクルマは、量販モデルからマニアックカーまで新旧スバルだらけ!
主人公のズベイルは、妻を亡くし2人の幼い子供を養いながら、憧れの「レガシィ」を手にするため20年間働いてきた。妹の結婚を控え、ついに念願のレガシィを購入するが、納車翌日に盗まれてしまうというストーリー展開だ。
前述のとおり、パレスチナはスバル大国と言われるだけあり、スクリーンには三代目レオーネやブラット、トライベッカ、丸目GDインプレッサととにかくスバル車が続々と登場する。
主役はレガシィB4! しかも2.0L DOHC NAエンジンの2.0R!
主人公が購入したレガシィはBL型レガシィB4の後期モデル。注目は国内で人気を誇ったターボモデルの2.0GTではなく、NAエンジンモデルの2.0Rだ。
当時国内の販売主力はターボモデルか、SOHCエンジンを搭載する2.0iの二極化が進んでいたこともあり、2.0L DOHC NAエンジンを搭載する2.0Rはツウ好みのモデルとされていた。
四代目レガシィ登場時から設定されていた2.0Rは後期型となるアプライドモデルD型(2006年モデル)まで存在したが、2007年登場のE型ではスポーティな装いの2.0R spec.Bのみの展開となり、最終型のF型ではカタログから姿を消してしまっている(2008年)。
2.0RはNAエンジンながらハイオク仕様という点も主力から外れてしまった要因のひとつと言えるだろう。EJ20 DOHCエンジンの最高出力はATが180ps(132kW)/6800rpm、MTが190ps(140kW)/7100rpmとトランスミッションにより異なるが、最大トルクは20.0kgm(196Nm)/4400rpmと同一だ。
モデルラインアップの中では比較的地味な存在の2.0Rだが、車重が1300kg台と軽量であることや、吸気側の可変バルブタイミング機構(AVCS)にDOHCエンジンの組み合わせならではの気持ちの良いフィーリングがAWDのBRZとまで言われるほどの隠れ名車だ。
主人公が20年間貯めこんだという車両価格は、国内ではATで241万5000円と最近の国産車と比較するとかなりリーズナブルだが、当時の新車価格としては一般的な金額だ。
しかし、憧れのレガシィを購入するために、20年間お金を貯め続けたという主人公が、納車して一晩で盗まれてしまったことに悲しい気持ちになってしまったのはスバル好きとしては至極当然かもしれない。
スバリストの心に響くひとこと
購入時にディーラーの担当者であるスマダールに「新しい車を買うと新しい事が始まり人生が変わるはず、星のエンブレムがあなたを守ってくれるわ」と言われるシーンがあるのだが、スバルファンとしては実に心に響く一言だ。
ズイベルは父親が車を購入したときのためにと作ってくれた、お手製の六連星エンブレムを装着してくれとお願いする。スマダールはちょっと苦笑いしながらも、納車されたレガシィには手作りエンブレムがちゃんと装着されているあたり、スバルディーラーの融通を聞いてくれる姿勢にちょっと感動したりもしてしまう。
筆者も五代目レガシィと今の愛車のレヴォーグではブラックのボディカラーをチョイスしていることもあり、「黒いレガシィを買うんだ!」と意気込んでいる主人公の姿を見て、共感して、のめりこんでしまった。
五代目レガシィ以降はクリスタルブラック・シリカというカラーだが、ピンク・スバルに登場するレガシィはオブシディアンブラック・パールというパール系の黒で、主人公がほろこんでしまうほどの色であることがうかがえる。
物語の最後には、盗まれたレガシィがピンクにオールペンされているが、後に210系クラウンアスリートに設定されたピンクのボディカラーよりも先に、塗装されていたことに驚かされる。
劇中では「おれのクルマがこの色なら自殺する」とまで言われたが、意外にもちょっとアリかも……と思ってしまったのはクラウンで免疫ができたからかもしれない。
『ピンク・スバル』 ・スタッフ 監督/脚本/編集:小川和也 共同脚本:アクラム・テラウィ エグゼクティブプロデューサー:宮川秀之 プロデューサー:宮川マリオ、田中啓介 撮影:柳田裕男 音楽:松田泰典 ・キャスト アクラム・テラウィ ラナ・ズレイク ジュリアーナ・メッティーニ 川田希 ダン・トレーン 小市慢太郎 ニダル・バダルネ ミハ・ヤナイ サルワ・ナッカラ ほか デジタル配信中 DVD:5280円(税込) 発売・販売元:TOブックス (c) ピンクスバル宣伝配給組合