穏やかで速い!にはワケがある。トヨタ・クラウンクロスオーバーRSのデュアルブーストの仕組みを解き明かす

トヨタ・クラウンクロスオーバーRS Advanced
新型トヨタ・クラウンクロスオーバーのスポーティグレード「RS」には、新しいハイブリッドシステムが搭載されている。その名も「デュアルブースト」。走りのクラウンのパワートレーンはどうなっているのか? 詳しく解説しよう。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

RSのパワートレーン デュアルブーストとは?

ボディカラーはプレシャスメタル。タイヤはF&Rともに225/45R21という特殊なサイズだ。

新型トヨタ・クラウンのパワートレーンは2種類ある。どちらもハイブリッドで、どちらも4WDだ。標準グレード的な位置づけは「2.5Lハイブリッド車」で、A25A-FXS型の2.5L直列4気筒自然吸気エンジンに、かつてはTHSと呼んでいたシリーズパラレル式の「2.5Lハイブリッドシステム」を搭載している。駆動用と発電用のふたつのモーターを持ち、動力分割機構を介して両モーターを最適に制御するシステムだ。有り体にいうと、カムリが搭載するハイブリッドシステムと同種である(エンジンのスペックとリヤモーターの諸元は異なる)。

新型クラウンには2種類のハイブリッドシステムがある。2.5Lは従来のTHSⅡ(名称を改め「シリーズパラレルハイブリッド」と呼ぶ)と新しいデュアルブーストハイブリッドだ。
この図ではエンジンとモーターの間、モーターと6ATの間にクラッチがあるように見えるが、実際はフロントモーターの内側に、エンジン切り離しと発進用のふたつの湿式多板クラッチを収めている。

RSのグレード名称が示唆するように、「2.4Lターボハイブリッド車」はスポーティグレードの位置づけだ。新開発した「2.4Lターボ デュアルブーストハイブリッドシステム」を搭載している。エンジンはT24A-FTS型の2.4L直列4気筒ターボだ。2021年10月に発表され、2022年1月に発売されたレクサスNXで初搭載された新開発のエンジンである。ハイブリッドシステムと組み合わせるにあたっては、フロントモーターを活用することにより(詳細は後述)、オルタネーターとスターターを廃止した。

全長×全幅×全高:4930mm×1840mm×1540mm ホイールベース:2850mm 車重:1930kg 前軸軸重1100kg 後軸軸重 830kg トレッド:F1605mm/R1615mm 最低地上高:145mm

ボンネットを開けるとエンジンが横置きされていることがわかる。
エンジンカバーを外すとこう見える。
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
エンジン型式:T23A-FTS
排気量:2393cc
ボア×ストローク:87.5mm×99.5mm
圧縮比:-
最高出力:272ps(200kW)/6000rpm
最大トルク:460Nm/2000-3000rpm
過給機:ターボチャージャー
燃料供給:DI+PFI(D-4ST)
使用燃料:プレミアム
燃料タンク容量:55ℓ
ターボチャージャーはトヨタ内製のようだ。

デュアルブーストハイブリッドシステムと組み合わせるT24A-FTSの最高出力は200kW(272ps)/6000rpm、最大トルクは460Nm/2000-3000rpmである。制御の改良により、NXが搭載する仕様に対し最大トルクを30Nm高めたのが特徴だ。

「フロントユニット」と呼ぶハイブリッドトランスミッションも新開発で、クラウンが初出しとなる。いわゆるパラレル式で、シリーズパラレル式の動力分割機構の替わりに6速ATを組み合わせ、モーターは1基だ。発進デバイスはAT(遊星歯車を使った自動変速機)に一般的なトルクコンバーターではなく湿式多板クラッチを使う。これとは別に、エンジン切り離し用のクラッチも備えており、こちらも湿式多板だ。

フロントユニットはBluE Nexusとアイシン、デンソーの3社が共同で開発した。BluE Nexus(ブルーイーネクサス)はアイシンとデンソー、トヨタの電動化における強みを結集した電動駆動モジュールの開発・販売会社だ。出資比率はアイシンとデンソーが各45%、トヨタが10%である。今回のフロントユニットの場合は、BluE Nexusがトヨタから開発を受託し、アイシンがモーターとトランスミッションの開発を担当。デンソーがインバーターを開発し、アイシンでアッシーにしてトヨタに納める。

これが車両前方から見てエンジンの右側に付くハイブリッドトランスミッション。通常トルクコンバーターが収められている部分にフロントモーター(+2組のクラッチ)がある。ふ
フロントモーターの内側。クラッチが見える。
別角度から。右側が発進クラッチ、左側がエンジン切り離しクラッチ。

フロントユニットを車載状態で前から見ると、横置きに搭載するエンジンの右横にモーターがあり、その右に6速ATが配置されている。特徴的なのは、最高出力61kW、最大トルク292Nmを発生するフロントモーターの内側に、エンジン切り離しと発進のふたつの湿式多板クラッチを収めていることだ。全長を短縮するためである。発進クラッチはスリップ制御を行なうため熱的に厳しいし、耐久性の観点から過酷な使い方に耐える構造にした。摩擦材の面積や厚みも大きいし、枚数も多く、エンジン切り離しクラッチの4枚に対し、発進クラッチは5枚だ。

リヤに搭載するモーターはbZ4X用の転用で、最高出力は59kW、最大トルクは169Nmである。バッテリーはエネルギーの出し入れ性に優れたバイポーラ型のニッケル水素電池を採用した。システム電圧は230Vで、2.5Lハイブリッドシステムのような昇圧は行なっていない。「THSはモーターの回転数を1万数千rpmで回します。回転数が高い場合は昇圧して高い電圧をかけたほうがパワーは出しやすい。今回のフロントモーターはエンジンと同じ回転数でしか回らない(最高6500rpm程度)。それなら、昇圧なしでもパワーは取り出せると判断しました」と、開発に携わる技術者は説明した。

デュアルブーストの「デュアル」はターボによるブーストと、フロントとリヤのモーターによるブーストのふたつのブーストに由来する。システム最高出力は257kW(349ps)だ。こだわりは、トルクフルな加速。自然吸気エンジンを組み合わせたハイブリッドシステムの場合、強い加速を求めてアクセルペダルを踏み込むと、エンジン回転が一気に上昇する。そうしないとドライバーの要求に応えるトルクを発生することができないからだ。エンジンの回転が高まるまでトルクが出ないので、応答遅れ(ラグ)が生じる。

デュアルブーストハイブリッドシステムはターボエンジンを組み合わせるため、回転数を高めなくても過給圧の制御により太いトルクを発生することができる。過給効果が薄まるエンジン回転の高い領域では、モーターのアシストでトルクの落ち込みをカバー。このような制御の結果、レスポンスが良くリニアで、静かに、力強い走りが味わえるというわけだ。

ドライでもうれしい4WD

後輪用eAxle
リヤモーター 1YM型交流同期モーター 最高出力80.2ps(59kW)最大トルク169Nm

4WDは「ドライ路でもうれしさがわかる」ことを基本的な考え方に据え、開発した。言い換えれば、「旋回内輪の前後接地荷重配分比を元に、タイヤ横力も考慮して、前後駆動力配分を決定する」ということになる。例えば、左に旋回していくとクルマは右側にロールし、旋回内輪側にあたる左側前後輪の接地荷重が抜ける。そのときに発生している旋回内側前後輪のタイヤ横力を推定し、前輪と後輪のタイヤを等しく負担させて使うべく前後の駆動力配分を決める。駆動力を後輪に配分できる強みを生かし、前輪は曲がることに集中させる考え方だ。

ハイブリッドシステムの走行モードは複数ある。発進は基本的に、モーターのみのEV走行だ。フロントだけでなくリヤのモーターも駆動する。「モーターで発進するなら発進クラッチは不要では?」と思うかもしれないが、バッテリーの状態(残量や温度などが危機的な場合)によってはモーター発進できない状況がある。その場合はエンジンで発進する必要があり、エンジン側とトランスミッション側の差回転を吸収する装置として発進クラッチが必要なのだ(ハイブリッド走行時もエンジン回転数とトランスミッション側回転数の差を吸収するために発進クラッチをスリップさせることがある)。

ある程度車速が上がると、エンジンが始動し、エンジン+モーターのハイブリッド走行になる。4WDで走行するシーンを増やしたいが、バッテリーだけに頼ってモーターを駆動するとあっという間に残量が減ってしまう。そこで、フロントのモーターはエンジン出力の一部を使って連れ回して発電し、発電した電力でリヤのモーターを駆動する制御を行なう。減速(アクセルオフ)時は、フロントとリヤのモーターを発電機として作動させ、回収した電気エネルギーをバッテリーに蓄える(いわゆる「回生」だ)。

実際ドライブしたらどんなフィーリング?

もっともスポーティな「SPORT S+」にしても、ジェントル。もっとガラッと性格が変わってやんちゃでもいい。

デュアルブーストと聞いてどれだけパワフルなんだろうと期待して試乗したが、拍子抜けするほどにジェントルだった。とても、システム最高出力が257kW(349ps)あり、エンジンの最大トルクが460Nmもあるクルマには思えない。非力で物足りないという意味ではない。大きな力を無駄なく、スムーズに路面に伝えて加速し、思いどおりに曲がるため、力の大きさを意識させないのだ。

音にしても加速にしても、ロールやピッチにしても「急」と表現したくなるような動きは出てこないし、ショックなど皆無だ。意識して高い回転数まで引っ張ると、ラフなエンジンサウンドで「2.5Lハイブリッドシステムとは違うね」と感じさせてくれるが、通常は高回転まで引っ張る必要がない。伊豆や箱根のワインディングロードをいいペースで走り回っても、デュアルブーストハイブリッドシステムは落ち着き払ったままだ。息を上げる素振りを見せず、高い心肺能力を見せつけるのみである。

ドライブモードセレクトをNORMALからSPORT S(パワートレーンの制御が切り替わり、エンジン回転を引っ張り気味になる)、SPORT S+(EPSやDRS=後輪操舵、ダンパーの制御も切り替わる)に切り替えても、穏やかな印象に変わりはない。もうちょっとやんちゃな一面を見せてくれてもいいのにとグチりたくなるほど、穏やかだ。充分速いのに。

トヨタ クラウン クロスオーバー RS Advanced
全長×全幅×全高:4930mm×1840mm×1540mm
ホイールベース:2850mm
車重:1930kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rダブルウィッシュボーン式
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
エンジン型式:T23A-FTS
排気量:2393cc
ボア×ストローク:87.5mm×99.5mm
圧縮比:-
最高出力:272ps(200kW)/6000rpm
最大トルク:460Nm/2000-3000rpm
過給機:ターボチャージャー
燃料供給:DI+PFI(D-4ST)
使用燃料:プレミアム
燃料タンク容量:55ℓ
トランスミッション:6AT+モーター(Direct Shift-6AT)
モーター:
フロント 1ZM型交流同期モーター
 最高出力82.9ps(61kW)
 最大トルク292Nm
リヤモーター 1YM型交流同期モーター
 最高出力80.2ps(59kW)
 最大トルク169Nm


駆動方式:4WD(E-FOUR)
WLTCモード燃費:15.7km/ℓ
 市街地モード12.6km/ℓ
 郊外モード15.8km/ℓ
 高速道路モード17.6km/ℓ
車両価格:640万円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…