2022年最高のレーシングカーはこれだ! トヨタGR86 CNF Concept【2022 今年のクルマこの1台】

トヨタ自動車の28号車 ORC ROOKIE GR86 CNF Concept
2022年、さまざまなクルマが登場した。モータースポーツも専門分野としてカバーするジャーナリスト、世良耕太氏が選んだ、「2022年最高のレーシングカー」は、F1のチャンピオンマシン、レッドブルRB18でもなくWECのトヨタGR010 HYBRIDでもないマシンだった。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)PHOTO:Gazoo Racing

トヨタがCNFでレースを戦う意味

2022年に最も印象に残ったレーシングマシンはF1でもWECに参戦するハイパーカーでもなく、日本のスーパー耐久シリーズに参戦する車両である。GR86 CNF Conceptだ。CNFとはカーボンニュートラル燃料(Carbon Neutral Fuel)のことで、トヨタの説明によれば「モータースポーツの現場で鍛えることで、カーボンニュートラル燃料の課題を発見・改善し、将来的な実用化の可能性を探っていくこと」を参戦の目的にしている。

ご存じのように、GR86はスバルBRZとハードウェアを共用しており、2.4L水平対向4気筒自然吸気ガソリンエンジンを搭載している。そして、後輪駆動だ。実はスバルもGR86 CNF Conceptと同じST-QクラスにTeam SDA Engineering BRZ CNF Conceptを投入しており、トヨタと同様にCNFをモータースポーツの現場で鍛えることで、将来の実用化の可能性を探っている。

2.4LBOXER4を下ろして1.4L直列3気筒直噴ターボを搭載

エンジンの搭載位置がバルクヘッド寄りになっているのが見てわかる。いわゆるフロントミッドシップだ。ベースはGRヤリス向けに専用開発された(のちにGRカローラも搭載)G16E-GTS型の1.6L直列3気筒直噴ターボ。

GR86 CNF Conceptがとくに印象に残っているのは、専用に開発したエンジンを積んでいるからだ。2.4L水平対向4気筒自然吸気エンジンを降ろし、1.4L直列3気筒直噴ターボエンジンを積んでいるのだ。開発担当者は、「開発のかなり早い段階から、エンジンを載せ替えることは決まっていました」と説明した。

「なぜなら、CNFで戦うにしても、我々の手の内にあるエンジンで行ないたいという思いがあったからです。スバルさんが水平対向なら、我々は1.4Lの直列3気筒エンジンを載せて参戦しようじゃないかと」

1.4L直列3気筒直噴ターボとは聞き慣れないエンジンだが、ベースはGRヤリス向けに専用開発された(のちにGRカローラも搭載)G16E-GTS型の1.6L直列3気筒直噴ターボだ。GR86 CNF Conceptに搭載するにあたって排気量を落とした。

1.4Lの排気量はターボ係数の1.7を掛けた際に、量産GR86/スバルBRZが搭載する2.4Lエンジンと同等にするためだ。1.4に1.7を掛けると2.38になる。1.4L化にあたっては、ストロークの短縮で対処した。

ボンネットの低いGR86に背の高い直列エンジンを搭載するため、直列3気筒エンジンは少し傾け、奥に押し込まれている。エンジンコンパートメントはウインドシールド下端付近が高さ方向で最も余裕があるからだ。結果的に、全長が短い3気筒エンジンは、サスペンションタワーより後ろに収まるフロントミッドシップになった。車両運動性能の観点で好都合だ。

直列3気筒エンジンを縦置き搭載するにあたり、ステアリングギヤボックスの位置を大きく変更する必要があった。ベース車では水平対向エンジンの後方にあったステアリングギヤボックスを、GR86 CNF Conceptでは前方に移動させている。その結果、車輪の向きを変えるタイロッドはベース車の「後ろ引き」から、車軸中心よりも前に位置する「前引き」に変わっている。

前引きはエンジン縦置きレイアウトに一般的な方式で、ダイレクトな操舵フィーリングを実現するのに有利とされている。また、ステアリングギヤボックスの搭載位置変更にともない、ブレーキキャリパーの搭載位置が車軸の前から後ろに変更になっている。これもやはり、重量物が重心点寄りの配置になって車両運動性能の向上に寄与する。ホイールから覗くキャリパーが前から後ろになったことで、よりFR車らしい見た目になった。

P1パフォーマンスフューエル(P1 Performance Fuels GmbH)製のCNFは、食料と競合しない「廃棄非食品、木材チップ、廃食用油」などのバイオ原材料をベースに再生可能エネルギーを用いて電解し合成された燃料となる。
同社によれば、まだ製造コストは「かなり高い」というが、将来はコストダウンしていくだろう。

ボンネットフードの中を覗き込むと、縦置き搭載されたコンパクトな3気筒エンジンがバルクヘッド寄りに収まっており、フロントバンパーからだいぶ距離があるのがわかる。4A-GEU(1.6L直4自然吸気)を縦置き搭載したAE86を彷彿とさせる眺めだ。水平対向エンジンがもたらす低重心が持ち味のスバルBRZに対し、GR86 CNF Conceptは重量物を車両重心点に近づけたことによる低ヨー慣性モーメントの特性を生かした走りが持ち味だそう。

CNFの開発もさることながら、直列3気筒ターボエンジンを縦置き搭載した後輪駆動の、背の低いコンパクトなスポーツカーの出現を期待したくなる(期待するなと言っても無理)という意味で、GR86 CNF Conceptの登場は衝撃的だった。

キーワードで検索する

著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…