目次
5.0L V8自然吸気エンジンは絶滅危惧種といえる希少性

2022年は、ホンダ・シビック・タイプRでキマリかなと思っていた。低速域から分厚いトルクを生み出し、ピーキーではなくMTでもイージードライブもスポーツ走行もサラッとこなす。だが、RC F譲りの5.0L V8 NAエンジンを積むレクサス「IS500“F SPORT Performance First Edition”」に乗った瞬間に気持ちはIS500でほぼ固まった。
なぜ「ほぼ」かというと、一気に決め手にならなかったのは、古くさいかもしれないが、MTがないこと。8速ATの8-Speed SPDSは、LSやLCが積む10速ATほどウルトラスムーズではなくても、クラッチペダルの踏み損、と思わせるほどのダイレクト感やスムーズさは十分に備えている。一方で、2035年のオール電化(100%バッテリーEV化)を掲げるレクサスにあって、ヤマハ発動機と共同開発した大排気量NAの後継エンジンは、おそらくもう出てこないだろう。

アクセルを踏み込むと、低回転域から淀みなくパワーを紡ぎ出す。
エンジンスターターを押すと、ブオンと咆哮して始動する。RC Fと同じ481PS/7100rpm、535Nm/4800rpmを誇る心臓部は、低回転域からよどみなく超スムーズにパワーを紡ぎ出していく。ターボの過給ラグが抑えられようが、黒子に徹するモーターアシスト制御に進化しようが、これぞリニアと言いたいほど超滑らかに回っていく。しかもどの回転域から踏んでも出来のいい8ATは、ブリッピングも駆使しながら自在に自然な加速感、減速感を引き出せる。
また、エンジン音をスピーカーから流すようなギミックもなく、加速フィールとエンジンサウンドの調和が見事に取れているのも心地良い。先述したように、8速ATは、パドルシフトによるマニュアル感覚の操作フィールも含め、何ら不足を抱かせない。これだけ気持ちが良く気分を高揚させてくれるNAエンジンは、レクサスに限らず絶滅危惧種といえる状態の現在、MTと組み合わせた仕様を乗ってみたいと感じたのが、冒頭で触れたように一気に決め手にならかった最大の理由だ。

とはいえ、ないものねだりをしても仕方がないし、MTがないというだけで「今年のクルマこの1台」から外す理由にもならない。そして、IS500の美点は、パワートレーンだけではない。後席を含めた乗り心地も上々なのには驚かされた。RC Fはもっと尖った乗り味であるのに対し、日常使いもスマートにこなすジェントルさを備えている。
路面にある多様なギャップをいなしてくれるサスペンションの仕事ぶりだけでなく、ボディの剛性感も際立っている。シビック・タイプRも超秀逸なパワートレーンに、スポーツセダンとしてはかなり上等な乗り心地を実現しているが、IS500は、4代目GS、初代RCなどと同じ、10年選手級の「Nプラットフォーム」の改良版であることが信じられないほど剛性感も高く、コーナーでボディがねじれる感覚などは微塵も察知できない。

また、スポーツモードを「+SPORT」にしても後席も含めて、十分に快適といえるテイストに収まっているのは、毎日乗れるスポーツセダンとして仕上げられている証だろう。ヤマハ発動機製のパフォーマンスダンパーをフロントだけでなく、リヤにも追加し、減衰はもちろん剛性にも効いているというボディも含め、車両本体価格900万円はバーゲンプライスといえるかもしれない。まさに熟成の極みに達している。
なお、“F SPORT Performance First Edition”は、500台の抽選販売に対して、6000件を軽く超えるオーダーがあったそうだ。カタログモデルのIS500 “F SPORT Performance”は、2022年11月1日から商談が開始されている。納期はこのご時世だけにそれなりに長くなるだろうが、気になる方は早めにオーダーしておきたい。そんなレクサスの渾身作に仕上がっている。