台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業は通称を「FOXCONN(フォックスコン)」と言い、電子機器の受託製造サービス(EMS)では世界最大級の規模を誇る。アップルのiPhoneをはじめ、多くの世界的メーカーの電子機器を製造してきたことで知られているが、日本では2016年にシャープを傘下におさめた企業として有名かも知れない。近年はその豊富な製造ノウハウを生かし、自動車産業、とくにEV分野への参入を積極的に進め、存在感を急速に高めている。

FOXCONNは自ら自動車ブランドとして販売網を拡大するのではなく、自動車メーカー向けに車両の設計から開発、生産までを一括して提供する“CDMS(Contract Design and Manufacturing Service)”という事業モデルを掲げ、EV業界における新たな存在として注目されている。同社は様々なコンセプトEVを公開しているが、今回初披露されたのは『MODEL A』と『FOXTRON BRIA(MODEL B)』と呼ぶ2台だ。ちなみに『FOXTRON(フォックストロン/鴻華先進科技)』とは、FOXCONNと裕隆集団が2020年に設立したEV開発会社とそのブランド名だ。

MODEL A (TAXI)

MODEL A TAXI

『MODEL A』は多様な用途への展開を前提に設計されたEVで、室内レイアウトやシート構成を柔軟に変更できることが特徴で、ユーザーや事業者のニーズに応じてさまざまな仕様へ展開できる設計となっている。尚、『MODEL A』は日本のエンジニアが開発にあたっていると言う。

MODEL A TAXI

『MODEL A』は一般的な乗用車としてだけでなく、タクシーや商用バン、物流用途など幅広い利用シーンを想定しており、事実、今回出展されていたのはタクシー仕様。サイズ的にもトヨタの『ジャパンタクシー』を彷彿とさせる構成となっていた。広々としたキャビンと前後スペース、AIによるリアルタイム翻訳、スマートバッテリーマネージメント、シンプルで飽きがこないデザインと共に、快適かつ効率的な次世代電動モビリティ体験を実現している。

MODEL A TAXI
MODEL A TAXI

また、『MODEL A』はAIを活用した制御技術やモジュール化された車両構造を採用することで、開発期間の短縮やコスト低減も目指している。こうした考え方は、自動車を一台ずつ開発する従来の手法ではなく、電子機器のように共通プラットフォームを活用して効率的に展開するFOXCONNらしい発想と言えるだろう。

SHARP LDK+ 2025
SHARP LDK+ 2025

ちなみにこの『MODEL A』だが、実は我々が目にするのは初めてではない。2025年10月の『ジャパンモビリティショー2025』でシャープが発表したコンセプトEV、『LDK+』のベース車なのだ。つまり日本では派生車が先に公開されたというわけだ。FOXCONNとシャープの関係を考えれば納得だ。

FOXTRON BRIA(MODEL B)

FOXTRON BRIA(MODEL B)

一方の『FOXTRON BRIA(MODEL B)』は、都市部での利用を想定したコンパクトEV。若い世代向けに開発され、イタリアの名門、ピニンファリーナが担当した流麗で洗練されたスポーティなスタイリングとS-DUCTおよびエアカーテンの空力設計を採用し、空気抵抗係数Cd=0.26と低く抑えられている。

FOXTRON BRIA(MODEL B)

全長約4.3mという扱いやすいボディサイズを採用しながら、空力性能を重視したスタイリングと広い室内空間を両立している。インテリアのデザインは洗練されたテクノロジー感にあふれたものとされ、ADAS Lv2+やDMSなどのスマート機能が統合されている。また、高性能パワートレインを装備し、航続距離は516km。高剛性ボディと多層バッテリー保護により、デザイン性、走行性能、安全性がバランスされている。

FOXTRON BRIA(MODEL B)
FOXTRON BRIA(MODEL B)

加えてFOXCONNが推進するオープンプラットフォーム“MIH”を採用しており、各メーカーが独自ブランドの車両として展開しやすい設計となっている。量産車として市場投入するだけでなく、自動車メーカーへのOEM供給や共同開発のベース車両としても活用されることが期待されている。

FOXCONNはEVを単なる新規事業ではなく、電子機器産業で培った製造技術やサプライチェーン、ソフトウェア技術を生かせる新たな成長分野と位置付けている。実際、2025年5月に三菱自動車と覚書を締結し、供給に向けた検討・開発を進めており、自社ブランドを前面に押し出すのではなく、自動車メーカーのパートナーとしてEV開発を支える存在になることを目指している。

今回の『MODEL A』あるいは『FOXTRON BRIA(MODEL B)』は、その戦略を象徴するモデルであり、従来の自動車メーカーとは異なるアプローチでEV市場に変革をもたらす存在として、今後の展開が大いに注目される。