鴻海精密工業のコンパクトEVを子会社のシャープがアレンジ
EVと住宅との親和性の高さは、EV黎明期からたびたび指摘されてきた。走行という本来の目的で使われていないときのEVは、大型の蓄電池そのものである。トヨタや日産も住宅メーカーと連携し、災害時におけるEV所有の利点を訴求してきたが、それはいずれも「EVをつくるメーカー」だからこその取り組みであった。だが、いま時代は変わりつつある。
ジャパンモビリティショー2025の展示場の一角に、ひと際目を引くEVが置かれていた。電機メーカーのシャープが出展したコンセプトカー「LDK+」である。車名の由来はリビング・ダイニング・キッチン、すなわち住宅に“プラス”するもうひとつの部屋としてのEVという意味だ。

クルマとは本来、オーナーとともに移動するものであり、帰宅すれば当然のように自宅ガレージに停まっている(※月極駐車場の場合は別として)。それなのに、駐車中に活用されないのはもったいない——そんな発想から生まれたのがこの企画である。では、なぜ家電メーカーのシャープがEVを?
実は、現在のシャープは台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)の子会社なのである。鴻海は近年、EV開発に参入しており、自社EV「Model A」とシャープの家電技術を融合できないかと模索した結果、生まれたのが「LDK+」というわけだ。

では、どの部分が“シャープらしい”のか。答えは車内装備にある。トールワゴンタイプのコンパクトEVの車内には、運転席・助手席の回転機能、プラズマクラスター搭載のエアコントロール(空調システム)、テーブル一体型プロジェクターとロール式スクリーンなどが備わる。車載電源を活かし、駐車中の車内をくつろぎ空間やビジネススペースとして活用しようという提案だ。

意外と知られていないが、シャープは2024年9月、すでにLDK+の第一弾を独自イベント内で発表している。当時は「停車中の使い方提案」にとどまっていたが、今回はその発展形といえる。
もっとも、第二弾も家電テクノロジーの応用が中心であり、アイデアとしてはおもしろいものの、“部屋”という点からすると、現段階でキャンピングカー並みには達していない印象だ。しかし、開発陣はここをゴールとは考えていない。
自動車関係者やユーザーの意見を集め、今後さらにブラッシュアップを重ね、2027年の市場投入を視野に開発を継続している。ショー展示の話題づくりにとどまらない、実現を見据えたプロジェクトである。

プロジェクトを率いるチーフの大津輝章氏はこう語る。
「クルマのデザインも、まだまだ煮詰めなければならないと思っています。車内空間もこれで完成とは考えていません。今後さまざまなご意見を伺いながら、シャープの“本気”を2027年にお見せしたいと思います」
展示ブースのスタッフの熱量からも、その意気込みが伝わってきた。液晶テレビやプラズマクラスター商品で家電業界に革新をもたらしてきたシャープが、果たして自動車業界を驚かせる存在になれるのか。2027年、もしかするとEVに新時代がやってくるかもしれない。