陸上自衛隊が誇る縁の下の力持ち的な名車、『トミカ』に出動!

悪路なんかドンとこい! 被災地支援などでおなじみ陸自の万能選手! トミカ × リアルカー オールカタログ / No.96 自衛隊 高機動車

発売から50年以上、半世紀を超えて支持される国産ダイキャストミニカーのスタンダードである『トミカ』と、自動車メディアとして戦前からの長い歴史を持つ『モーターファン』とのコラボレーションでお届けするトミカと実車の連載オールカタログ。あの『トミカ』の実車はどんなクルマ?
No.96 自衛隊 高機動車 (サスペンション可動/幌脱着・希望小売価格550円・税込)
No.96 自衛隊 高機動車の幌パーツをはずした状態。

『トミカ』のNo.96は『自衛隊 高機動車』です。日本の国土を守る自衛隊では、1950年に公布された警察予備隊令により活動を開始した、自衛隊の前身である警察予備隊のころから人や荷物の輸送にアメリカから貸し出された、あるいは購入したジープやジープ型の4輪駆動(以下、4WD)車を使用してきました。この時、自衛隊で使用することを想定して作られた国産のジープ型4WD車のひとつ、トヨタで作られたものが後のランドクルーザーになります。このランドクルーザーの前身となったジープ型4WD車は残念ながら自衛隊には採用されませんでしたが、ランドクルーザーは現在も、日本だけではなく世界各地の様々な場所で活躍していることはご存じの通りです。

さて、自衛隊は年々とその救援活動などの内容や規模が拡大して行きましたが、発足してから40年以上、不整地でも難なく使用できる運搬・輸送車両は依然としてジープ型の比較的小型の車両がほとんどでした。そこで自然と、4WDで不整地では高い走破性を備えつつ、道路でも普通乗用車なみに小回りが効き、大容量の物資や今まで以上の人員が運べ、あらゆる場面で機動力に優れた運搬車両が欲しいという声が大きくなってきました。こうして主に陸上自衛隊の要求をくみながらトヨタが開発にあたって作られたのが高機動車です。なお、製造はトヨタグループの日野自動車が担当しています。高機動車は1993年から陸上自衛隊に実験配備が始まり、以後、年々と配備台数が増加して行きました。

災害派遣で出動する高機動車 実車フロントビュー。(PHOTO:陸上自衛隊)
高機動車 実車フロントビュー。幌をオープンにした状態。前列は運転手と車長の2名が座り、後部座席には8名が乗車できるが、詰めれば10名まで座れるという。(PHOTO:陸上自衛隊)
高機動車 実車リヤビュー。(PHOTO:陸上自衛隊)

高機動車は人の輸送にも物資の輸送にも便利に使える、マイクロバスとトラックの両方の性格をあわせ持った車両です。車体はプレスフレームで、エンジンを中央寄りの前方に配置したフロントミッドシップ・レイアウトを採り、前後のサスペンションはダブルウィッシュボーン式です。駆動機構はセンターデフロック付きのフルタイム4WDで、前後ともに電動デフロックとトルセン式LSD(リミテッド・スリップ・デフ)を採用しています。

また、車輪のハブに減速ギヤを組み込んだハブリダクションが採用されているのも特徴の一つ。ハブリダクションはギヤ中心間の距離だけ車軸の位置が高くできるので、デフまわりの最低地上高を大きくできるため、大型のタイヤと相まって大きな地上高を確保、悪路の走行性能を向上させています、さらに、リヤには逆位相の四輪操舵(以下、4WS)システムが組み込まれており、大柄な車体のわりに最小回転半径5.6mという驚異的な小回り性を実現しています。ちなみに、この旋回半径は3代目ヴィッツの“RS”グレードと同じです。この小回り性の高さは狭い路地や入り組んだ道の多い日本の道路事情にはピッタリで、市街地や都市部での災害派遣などに対応できる能力と言えます。

高機動車は陸上自衛隊の大型輸送ヘリコプターCH-47Jでも輸送可能だ。これにより被災地への救援などに迅速に駆けつけることができる。(PHOTO:陸上自衛隊)

最大積載時の総重量は約4トンで、航空自衛隊のCH-130Hなどの輸送機や陸上自衛隊のCH-47J大型輸送ヘリによる航空輸送や、輸送ヘリの機外に吊り下げての空輸も可能になっています。装備されている大きなタイヤは、タイヤが傷ついて空気圧が低下しても一定距離を走行できるランフラットタイヤで、空気圧調整装置も搭載されています。

車体は自動車用鋼板とFRP(繊維強化プラスチック)から構成されており、通常は屋根代わりの布製の幌を取り付けて使用されています。乗車した人員を素早く乗り降りさせたい演習の時などでは、幌や側面ドアを取り外して使用されることが多いようです。

高機動車のエンジンは当初はトヨタ15B型エンジンを搭載したが、後に日野N04C型エンジンも搭載した。画像は民間仕様のトヨタ「メガクルーザー」のもので15B型エンジンを搭載。
コクピットは極めてシンプル。一部の車両にはエアコンやリクライニングシートが装備されている。また、ETCを装着した車両もあり、CD付きラジオがオプション設定されている。画像は民間仕様のトヨタ「メガクルーザー」のもの。高機動車にはセンターコンソールボックスは無い。

エンジンは当初はトヨタ製のB型と呼ばれるディーゼルエンジン・シリーズのうちの15B型、その直接噴射式 インタークーラーターボ付きの15B-FT型が搭載されました。このエンジンの大元はトヨタグループのダイハツと共同開発されたもので、1969年からトヨタ系のダイナやトヨエースのような中型トラックやコースターのようなマイクロバスなどの主力エンジンとして広く用いられている、信頼と実績に富んだものです。その後、厳しさを増した排気ガス規制に対応し、改良型である電子制御直接噴射式インタークーラーターボ付きの15B-FTE型へ更新。出力も150psから170psに向上して、より環境に優しく、より強力なものになりました。

高機動車は自衛隊の専用車両なので一般の人には買えませんが、この高機動車をもとに、ほぼ同じ内容で民生仕様としたトヨタの『メガクルーザー』という車両が作られ、1996年から2001年まで製造販売されました。なお、『メガクルーザー』は一部のグレードでは車両重量が3500kgを越えてしまい準中型自動車に分類されてしまうことから、それら一部のグレード車を運転するためには準中型免許以上の免許が必要になります(2017年3月12日より前に取得したものならば普通免許でも可)。この『メガクルーザー』はほとんどが一般ユーザーではなく、警察や消防、あるいはJAFといった機関で購入されて使用されています。面白いところでは、高機動車は陸上自衛隊の専用車両であることから、日本の空を守る航空自衛隊では、この市販車両である『メガクルーザー』を購入して採用しています。ちなみに『メガクルーザー』も以前、『トミカ』として発売されていました。

豪雪の中を救援活動に出発する高機動車。雪上でも高い機動力を誇る。(PHOTO:陸上自衛隊)

高機動車は大変便利な車両なので、これをベースとした救急車やレーダー車、無線車など、多くの派生車が開発されており、様々な装備を搭載あるいは架装されて幅広い現場で活躍しています。なお、高機動車は「HMV(ハイ・モビリティ・ビークル)」という略称と、「疾風(はやて)」という愛称を持っています。また、自衛隊の中では「高機(こうき)」という日本語略称で呼ばれたりするそうです。

車いすマラソンへの陸上自衛隊による支援業務の一環として、取材車両として活動中の高機動車。このほか選手の生活用車いすの運搬などにも活躍した。(PHOTO:陸上自衛隊)

『トミカ』の『No.96 自衛隊 高機動車』は、この車両の特徴を余すところなくとらえています。また、幌パーツの脱着が可能なため、幌をはずした違ったスタイルを楽しむこともできます。災害被災地などで活躍する頼もしくも異色な1台を、コレクションに加えてみてはいかがでしょう?

■自衛隊 高機動車 BXD10型 主要諸元

全長×全幅×全高(mm):4910×2150×2240

ホイールベース(mm):3395

トレッド(前/後・mm) :1795/1775

車両重量(kg):2640

エンジン形式:型 4.1ℓ トヨタ15B-FT-E型 直列4気筒OHCインタークーラー付きディーゼルターボ

排気量(cc):4104

最高出力:125kW(170ps)/3000rpm

最大トルク:421.7Nm(43.0kgm)/1600rpm

トランスミッション:ロックアップ機構付き4速AT

サスペンション(前後):ダブルウィッシュボーン

ブレーキ(前後) :ベンチレーテッドディスク

タイヤ:(前後):37×12.50R17.5-8PR LT

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