トヨタ2000GT、5速トランスミッションの設計・開発【TOYOTA 2000GT物語Vol.20】

トヨタ初の直列6気筒DOHCエンジンに相応しい5速トランクスミッションは、じつはピックアップトラック「スタウト」の4速トランクスミッションをベースにしていたという。その巧妙な設計をひも解く。
REPORT:COOLARTS

少量生産にどうやって対応するかという難問

コラムシフトの4速トランスミッションが主流だった時代にフロアシフトの5速トランスミッションは垂涎の装備だった。しかし、そのベースがピックアップトラックからの流用だったとは驚く。

TOYOTA 2000GTがデビューした1967年当時、乗用車のトランスミッションといえば、4速コラムシフトが主流。廉価なモデルなどは3速というものも珍しくなかった。そんな時代にTOYOTA 2000GTの開発チームは、スポーティなフロアシフトのオールシンクロ・5速トランスミッションの開発に着手した。

高性能なスポーツカーにはクオリティの高いエンジンが求められるのと同様、そのエンジンの性能を活かすトランスミッションも大切な役目を担う。高速耐久性、適切なギア比の配分はもとより、シフトフィーリングも大切な性能のひとつ。

スポーツカーでは、5速、近年では6速という変速段数の多いトランスミッションも採用されている。しかもDOHC化などでエンジンの性能が上がると、高回転かつハイパワーとなり、その回転が直接伝わるトランスミッションもそれに耐えるように設計しなければならない。

TOYOTA 2000GTもトランスミッション設計において、越えなくてはならない様々な制約があった。少量生産という制約、X型バックボーンフレームの内側にコンパクトに収めなくてはならないというサイズの制約、エキゾーストパイプによるスペースの制約。

さらに、ドライバーズシートとセンターコンソールの低面化、フレーム形状の単純化などが挙げられる。数々の制約に立ち向かい、5速トランスミッションの設計を担当したのは、日本初の4輪ダブルウィッシュボーンのサスペンションを設計したシャシー開発の山崎進一だった。

コストの面から少量生産車に新規の5速トランスミッションを新開発するということは不可能であった。そこで山崎は、「スタウト」というピックアップトラックの4速トランスミッションをベースに新しい5速トランスミッションの設計を企画する。山崎は、スタウトの前身であるトヨペットSBトラックのシャシーまわり、トランスミッションの設計を担当していたのだ。

当時のトラックは、未舗装路を過積載で走ることも多く、トランスミッションにも大きな負荷がかかってしまう。当然、トラブルを起こさないように耐久性を高めた設計が行われていた。耐久性などの性能が保証されていたトランスミッションを、今度は高速走行に対応できるように5速を付け足す形でTOYOTA 2000GT用に手を加えたのだ。実際の設計・製図は佐伯外司が担当した。

サブケースを設けて5速ギアを付け足す

しかし、その設計は困難を極めたという。室内空間を狭くしないためには、X型バックボーンフレームの基本設計段階から問題があった。狭いX型の内側には、トランクスミッションだけでなくエキゾーストパイプも通さなければならないのだ。

そのためにバックボーンフレームを余裕ある大きさにすると、今度はペダル配置など足元のスペースが減ってしまう。その加減を見ながらミリ単位の設計となった。現代のようなCADがない時代である。

効率的な少量生産をするため、クラッチハウジングやミッションケースなどは4分割となり、機械加工がしやすく手間のかからない構造になっている。肝心のギアの配置は、メインケース内に1速から4速を収め、後部のサブケース内に5速とリバースギアを配置。

ギア比は、4速が1.000の直結で、5速が0.844のオーバードライブ。1速から4速のギア比が接近したスポーツカーに相応しいクローズドレシオを採用した。各ギアとシャフトには転がり軸受を使用し、摩擦損失が少なく潤滑油切れによるトラブルがないように配慮され、高回転に対応させている。

このトランスミッションの設計で最も困難だったのは変速方式だったという。トランクスミッション全体をコンパクトにするために、3本のシフトフォークシャフトをメインケース内の左側を通し、アウトプットシャフト左側近くを通っているコントロールシャフトに嵌め合わせするような配置が選ばれた。同時にシフトレバーを操作しやすい位置に配置することが出来た。

この5速トランスの機能的な特徴として、オールシンクロがある。シフト操作をするときに回転速度が違う2つのギアの回転数を同調させるのがシンクロ機構だ。オールシンクロとは、すべてのギアにスムーズなシフト操作を可能にするシンクロ機構が装備されているということ。

1960年代の国産車には、1速ギアにシンクロ機構がないクルマも多かった。とくにトラックはノンシンクロがほとんどで、シフトチェンジの際にはギア鳴りを防止するために「ダブルクラッチ」の操作が必要だった。オールシンクロは、当時としては非常に先進的な機構だった。ちなみに、シンクロ機構はクラウン系に採用されていたものが使われた。

同様に、クラッチにもクラウン系のダイヤフラム式クラッチを採用。だ文フラムスプリングのクラッチカバーは、クラッチディスクが摩耗してもトルク容量が減らず、操作も確実なのだ。クラッチ使用頻度の高い営業用車両でも採用されており、すでに信頼性の高さで実績があった。

TOYOTA 2000GTのトランスミッションの構成部品には、他の車種からの流用が少なくない。しかし、それらはすべて耐久性、信頼性が実証されたもので、高性能車に相応しい容量も備えている。設計者の深い知識と知恵が、既存パーツの適材適所の配置で理にかなった設計を実現させたのだ。(文中敬称略)

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