目次
2023年のGWはEVを否定する声が全国にこだまする?
自動車業界は電動化に進んでいます。EUにおいてカーボンニュートラル燃料の活用を前提にエンジン車の販売禁止時期を延期するといった議論もありますが、自動車マーケットの成長著しい中国では完全に電気自動車(BEV)シフトが進んでいます。
とはいえ、BEVの普及には工業製品としてのBEVの完成度やコストに加えて、運用に欠かせない充電インフラの整備という課題があるのも事実でしょう。先日もクルマ好きの面々と話をしているときに「急速充電器1台で48台/日しか充電できないのは、ビジネスとしてどうなのか?」という話題が出てきました。
たしかに、多くの急速充電器では「一回の利用は30分まで」をマナーとするよう推奨しているケースも少なくありません。一日は24時間ですから、カードによる認証、コネクタの差し替えなどのタイムロスを無視したとしても時間あたり2台としてフル稼働で、48台/日までしか充電対応できないことになります。そんなインフラを整備したところで費用対効果が見込めないという意見も理解できるところです。
とくに、2023年のGW(ゴールデンウイーク)はEV普及にともない充電難民が大量発生する? と指摘されることも増えています。日産サクラ、三菱eKクロスEVという軽EVが2022年にヒットしたことで、これまでにない台数のEVがGWに日本中を走り回ることが予想されているためです。
多くのEVが急速充電器に列をなし、30分ギリギリもしくはもっと長い時間充電するようなことが起きてしまうかもしれません。充電待ちの時間が予想よりも長くなってしまうと、計画通りにドライブが楽しめなくなりますし、いわゆる「充電難民」が大量発生する可能性も考えられます。
いずれにしても、EVの普及は時期尚早という批判が巻き起こる可能性は否定できません。
EVの充電は「基礎・経路・目的地」の3つに分類される
ただし、上記の批判はEVを運用することの本質を理解していないために起きる、的外れな意見という見方もできます。
そもそも、エンジン車における燃料の給油とEVの充電は根本的に異なっています。エンジン車であれば、どこかのタイミングで満タンにして燃料計がエンプティに近づくまで走る続けるという使い方ができますが、EVの場合は必要な分だけ充電するという風に考えるべきだといえます。
なぜなら、現在のEVが使っているリチウムイオン電池の特性として満充電まで入れることや、電欠ギリギリで使うことはバッテリーを傷めてしまうからです。EVで長距離を走るとなると、100%充電からスタートして20%を切るくらいまで使ったら急速充電で80%まで復活させて走り続ける…というプランを考えがちですが、バッテリーの負担を考えるそうした使い方はおすすめできません。
国産EVオーナーの間では「ちょい足し充電」といった表現が使われることもありますが、必要なぶんだけを充電することで、バッテリー充電率30~80%の間で使うのが寿命を延ばすとされています。
EVの充電については、「基礎充電・経路充電・目的地充電」という考え方があります。
基礎充電というのは自宅や職場など日常的に使う車庫や駐車場での普通充電を指し、実際のEV運用においてはこの充電が9割を占めるといわれています。
経路充電というのは道中での急速充電で、高速道路SA/PAや道の駅、ショッピングモールなどでの充電が当たります。目的地充電というのは宿施設などでの普通充電を指していると考えればいいでしょう。
実際の生活に当てはめて想像すればわかるように、日常的なEV運用では基礎充電でほとんど事足ります。経路充電や目的地充電は、年間トータルでの充電機会から考えると、1割~2割程度しか使わないはずです。
GWに帰省する場合などのロングドライブでは経路充電が多用されがちなため、たしかに各地の急速充電インフラへの不満が爆発するかもしれません。しかし、それはイレギュラーな話です。
基礎充電を基本として運用する限り、急速充電インフラを整備しすぎても、年間を通して考えると、機械が余ってしまうだけで費用対効果としては無駄が多いと批判されることになってしまうでしょう。
急速充電を無駄なく利用するための工夫とは?
冒頭でも触れたように急速充電器は30分までの利用がマナーとなっています。そこで「いったん充電器につないだら30分間は充電しておかないと損!」と考えているユーザーもいるようです。
しかしバッテリーの性能や状態にもよりますが、一般論としてバッテリー充電率が上がっていくと電気は入りづらい傾向になります。最初の15分は勢いよく充電できていても、後半になると充電ペースが落ちてしまうこともあるというわけです。
現在、充電インフラの利用については1分単位や10分単位の課金制となっています。ですから電気が入りづらい状態のまま充電器につないでいるのはコスパが悪いのです。つまり、充電に関する金銭的負担を考えると、バッテリーが吸い込みやすい領域で急速充電を利用すべきです。
筆者はかつて、高速道路のサービスエリアで90kWの急速充電器につないだEVオーナーが「ぜんぜん入っていかないんだよ」と言っている状況に出くわしたことがありました。ちらりと表示パネルを見てみると、車両の充電率は98%となっていました。バッテリー保護の観点から、この領域になると普通充電とさほど変わらないペースで充電しているはずなので、たしかに「ぜんぜん入っていかない」のでしょう。このペースで充電しているのに時間課金されているのは、あまりにも無駄遣いと感じます。
これは極端な例ですが、充電速度が遅くなっている状態で30分ギリギリまで粘るよりも、ある程度入ったところで見切りをつけて移動したほうがトータルでは時短になります。
計算上、90kWの急速充電器であれば30分で45kWhの充電が可能といえますが、それは机上の空論でしょう。バッテリーサイズによりますが、最初の10分で15kWh入ったとしても、最後の10分ではバッテリーの発熱などからペースダウンしていることが考えられます。10分だけ充電して走りだして、ふたたび10分だけ経路充電するといったドライブプランのほうが充電できる電力量に対して停止している時間が短くなることもあるでしょう。
仮に電費性能が7km/kWhだとすると15kWhの充電で100kmほど走行できます。軽EVであれば10km/kWhですからもっと走れます。
イメージとしては100~150kmごとに「ちょい足し充電」をしていくのがコスパもよく、移動時間も短縮できます。こうした急速充電インフラの利用法が広まっていけば、一台の急速充電器が一日に対応できるEVの数も増えますし、そもそも急速充電で粘ることもなくなるので充電待ちの列ができるということも減っていくのではないでしょうか。