イスラエルはスバル天国!? レオーネからレガシィ、インプレッサにトライベッカまで『ピンク・スバル』は全編スバル三昧!!【 “いもっち”が語る! 銀幕のスバル vol.4】

スバルマニアを自負する"いもっち"こと井元貴幸がお送りしている、映画&ドラマに登場するスバル車をチェックするこの企画の第4回は、日本人監督によるイスラエルを舞台にした異色作『ピンク・スバル』! まさかタイトルにまで「スバル」を冠した映画が存在するなんて……読者の皆さんはご存知でしたか? この映画、全編通してスバル三昧なスバリスト必見の1本なのです! まだ見ていないのならぜひチェックを!

スバルはイスラエルの”希望の星”

これまで、いくつかのスバル車が登場する映画を紹介してきたが、今回はタイトルからスバルが主役であることを感じさせる『ピンク・スバル』を紹介しよう。
2009年に製作されたこの映画はイスラエルが舞台となっているが、監督は本作でデビューを飾った日本人の小川和也さんだ。

舞台となったイスラエルは、日本の自動車メーカーとしては富士重工業(現SUBARU)だけが輸出していた。結果的に、この国のクルマのほとんどがスバル車となり、彼らの”希望の星”となっていた。
しかし、隣接するパレスチナの西岸地区は自動車ディーラーが圧倒的に少なく自動車窃盗が常態化しており、イスラエルで盗まれたクルマが境界線を越え、パレスチナの街で販売されていたそうだ。
そんな自動車窃盗が多く発生するイスラエルとパレスチナの境界近くにある街、タイベが舞台だ。

イスラエルを舞台に日本人監督が指揮を執り、日本・イタリアで公開されたインターナショナルな作品。イスラエルという国際的にセンシティブな国で日本の自動車メーカーがどのようなポジションを築いたかを窺い知ることができる。2009年に公開され、同年のトリノ国際映画祭のオフィシャルセレクションに選出されたほか、2011年にはゆうばり国際ファンタスティック映画祭で審査員特別賞とシネガーアワード(記者賞)のダブル受賞。さらにフランス文化芸術国際映画祭ノミネート、イタリア南部サレント国際映画祭でもベストフィルム部門にノミネートと、高い評価を受けている。

■STORY
パレスチナとの境界線沿いに位置するイスラエルの街タイベ。アラブ人のズベイル(アクラム・テラーウィ)は数年前に妻を亡くし、妹のアイシャ(ラナ・ズレイク)と2人の子供と実直に暮らしてきた。
そんなズベイルの望みは、妹の幸せな結婚と、20年間貯めたお金で憧れのメタリック・ブラックのスバル車を購入することだった。
結婚式が近づき、妹をマイカーで結婚式場まで運ぶ姿を思い描きながら、ズベイルはスバル・レガシィの新車を購入。納車の日、ズベイルは近隣の人々とお祭り騒ぎで最高の一夜を過ごす。しかし翌朝、スバルは跡形もなく姿を消していた……。

ズベイルの悲嘆に暮れる姿を見た妹アイシャも、とても彼を置いて結婚する気にはなれなかった。ズベイルは家族の幸せを取り戻すために、盗まれたスバルを見つけ出し、奪還することを心に決める。
車泥棒は盗難車を、境界線を越えた解体工場に運ぶ。そうなれば、バラバラにされてしまうのは時間の問題だった。
ズベイルは自動車泥棒で財を築き豪邸に住む”大泥棒”アデルに助けを求める。盗難車の流通を知り尽くすアデルを頼れば、彼のスバルはすぐ見つかるはずだったが……。

登場するクルマは、量販モデルからマニアックカーまで新旧スバルだらけ!

主人公のズベイルは、妻を亡くし2人の幼い子供を養いながら、憧れの「レガシィ」を手にするため20年間働いてきた。妹の結婚を控え、ついに念願のレガシィを購入するが、納車翌日に盗まれてしまうというストーリー展開だ。

劇中でよく見かけるのが三代目レオーネ。80年代後半のスバルの主力車種だけに、当時のイスラエルでほぼ唯一の日本自動車メーカーとして多数が販売されたようだ。
1972年発売のレオーネエステートバンも現役で登場する。スバルがイスラエルでの販売を開始したのが1968年と言われる。1967年に勃発した第三次中東戦争を契機とし、1968年に日欧の自動車メーカーがイスラエルへの出荷を停止。当時、国内市場以外での販売がほとんどなかったスバル(富士重工)は中東諸国との軋轢もなく、(非公式ながら)イスラエルが初の海外進出となったという。

前述のとおり、パレスチナはスバル大国と言われるだけあり、スクリーンには三代目レオーネやブラット、トライベッカ、丸目GDインプレッサととにかくスバル車が続々と登場する。

パッケージ画像は二代目レオーネのピックアップモデル「SUBARU BRAT(スバルブラット)」。北米での需要に応えて初代レオーネから設定された。荷台に座席を設けてアメリカのピックアップトラックへの高関税を回避したエピソードは有名。二代目レオーネベースの劇中車は1990年まで生産され、イスラエルでは「スバル・ピックアップ」として1986年から販売された。
二代目インプレッサであるGD型も登場する。劇中車は丸目ヘッドライトが特徴の前期型で、NAのセダンという日本ではレアなモデルだ。(写真は国内モデルの「WRX NA」)。丸目インプレッサの時代は、すでに他メーカーもイスラエルでの販売を再開してかなり経っており、1970年代〜1980年代のようにスバルが大きなシェアを握っているわけではない。
スバルの海外専売モデルとして2005年から2014年に販売されたクロスオーバーSUVがトライベッカ。当時のスバルがファミリーフェイスとして使用したスプレッドウインググリルが特徴。インテリアも日本車離れしたデザインになっている。
2008年以降は賛否あった前述のグリルはオーソドックスなデザインに。エンジンもメイン市場の北米では3.0L水平対向エンジン(EZ30)はパワー不足と評され3.6Lに拡大(EZ36)。劇中に登場するにはこちらの後期モデルだ。

主役はレガシィB4! しかも2.0L DOHC NAエンジンの2.0R!

主人公が購入したレガシィはBL型レガシィB4の後期モデル。注目は国内で人気を誇ったターボモデルの2.0GTではなく、NAエンジンモデルの2.0Rだ。
当時国内の販売主力はターボモデルか、SOHCエンジンを搭載する2.0iの二極化が進んでいたこともあり、2.0L DOHC NAエンジンを搭載する2.0Rはツウ好みのモデルとされていた。
四代目レガシィ登場時から設定されていた2.0Rは後期型となるアプライドモデルD型(2006年モデル)まで存在したが、2007年登場のE型ではスポーティな装いの2.0R spec.Bのみの展開となり、最終型のF型ではカタログから姿を消してしまっている(2008年)。

四代目レガシィ(BL型)2.0R

2.0RはNAエンジンながらハイオク仕様という点も主力から外れてしまった要因のひとつと言えるだろう。EJ20 DOHCエンジンの最高出力はATが180ps(132kW)/6800rpm、MTが190ps(140kW)/7100rpmとトランスミッションにより異なるが、最大トルクは20.0kgm(196Nm)/4400rpmと同一だ。

四代目レガシィ(BL型)2.0R

モデルラインアップの中では比較的地味な存在の2.0Rだが、車重が1300kg台と軽量であることや、吸気側の可変バルブタイミング機構(AVCS)にDOHCエンジンの組み合わせならではの気持ちの良いフィーリングがAWDのBRZとまで言われるほどの隠れ名車だ。

四代目レガシィ(BL型)2.0Rのインパネまわり
四代目レガシィ(BL型)2.0Rのインテリア

主人公が20年間貯めこんだという車両価格は、国内ではATで241万5000円と最近の国産車と比較するとかなりリーズナブルだが、当時の新車価格としては一般的な金額だ。
しかし、憧れのレガシィを購入するために、20年間お金を貯め続けたという主人公が、納車して一晩で盗まれてしまったことに悲しい気持ちになってしまったのはスバル好きとしては至極当然かもしれない。

スバリストの心に響くひとこと

四代目レガシィ(BL/BP)から装着された六連星エンブレム(2003年)。

購入時にディーラーの担当者であるスマダールに「新しい車を買うと新しい事が始まり人生が変わるはず、星のエンブレムがあなたを守ってくれるわ」と言われるシーンがあるのだが、スバルファンとしては実に心に響く一言だ。
ズイベルは父親が車を購入したときのためにと作ってくれた、お手製の六連星エンブレムを装着してくれとお願いする。スマダールはちょっと苦笑いしながらも、納車されたレガシィには手作りエンブレムがちゃんと装着されているあたり、スバルディーラーの融通を聞いてくれる姿勢にちょっと感動したりもしてしまう。

2006年〜2007年のアプライドモデルD型で設定されたブラック系のカラーが「オブシディアンブラック・パール」。

筆者も五代目レガシィと今の愛車のレヴォーグではブラックのボディカラーをチョイスしていることもあり、「黒いレガシィを買うんだ!」と意気込んでいる主人公の姿を見て、共感して、のめりこんでしまった。
五代目レガシィ以降はクリスタルブラック・シリカというカラーだが、ピンク・スバルに登場するレガシィはオブシディアンブラック・パールというパール系の黒で、主人公がほろこんでしまうほどの色であることがうかがえる。

劇中でピンクにオールペンされたレガシィ。なぜそうなったのかはぜひ作品を見てほしい。意外に似合っている?

物語の最後には、盗まれたレガシィがピンクにオールペンされているが、後に210系クラウンアスリートに設定されたピンクのボディカラーよりも先に、塗装されていたことに驚かされる。
劇中では「おれのクルマがこの色なら自殺する」とまで言われたが、意外にもちょっとアリかも……と思ってしまったのはクラウンで免疫ができたからかもしれない。

ピンクのクラウンが出た! として話題をさらった特別仕様車「アスリートG“ReBORN PINK”」がリリースされたのが2013年。市販車ではないが、ピンク・レガシィは2009年にすでに先駆けていたわけだ。
『ピンク・スバル』
・スタッフ
監督/脚本/編集:小川和也
共同脚本:アクラム・テラウィ
エグゼクティブプロデューサー:宮川秀之
プロデューサー:宮川マリオ、田中啓介
撮影:柳田裕男
音楽:松田泰典

・キャスト
アクラム・テラウィ
ラナ・ズレイク
ジュリアーナ・メッティーニ
川田希
ダン・トレーン
小市慢太郎
ニダル・バダルネ
ミハ・ヤナイ
サルワ・ナッカラ
ほか 

デジタル配信中
DVD:5280円(税込)
発売・販売元:TOブックス
(c) ピンクスバル宣伝配給組合

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著者プロフィール

井元 貴幸 近影

井元 貴幸

母親いわくママと発した次の言葉はパパではなくブーブだったという生まれながらのクルマ好き。中学生の時…