ターゲットはGLSとSクラス メルセデス・ベンツEQS SUVは3列シートのラグジュアリーBEV

メルセデスAMG EQS 450 4MATIC SUV
メルセデス・ベンツEQS SUVは、メルセデス・ベンツのラグジュアリーSUV電気自動車(BEV)だ。ターゲットはずばり、GLSまたはSクラスのユーザーであり、そうしたラグジュアリーサルーンを嗜好するユーザーである。メルセデス・ベンツに限らず、エンジンで動くラグジュアリーカーからの乗り換えを促そうとしている。「こっちのほうがもっとラグジュアリーですよ」と。どんな仕上がりになっているか?
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

EQSとEQS SUVの違いは?

全長×全幅×全高:5135mm×2035mm×1725mm ホイールベース:3210mm

エンジン車との最大の相違点は言うまでもなく、動力源だ。BEVはリチウムイオンバッテリーに蓄えた電気エネルギーでモーターを駆動し、走る。EQS SUVは床下に総電力量107.8kWhのリチウムイオンバッテリーを積んでいる。永久磁石同期モーターはフロントとリヤに搭載。システム最高出力は265kW(360ps)、システム最大トルクは800Nm。WLTCモードによる航続可能距離は593kmだ。充電は6kWまでの普通充電と150kWまでの急速充電に対応。日本仕様の特別な機能として、車外へ電力を供給できるV2H機能を搭載しているのが特徴だ。

EQS 450 4MATIC SUVがフロントとリヤにモーターを搭載するのに対し、ラグジュアリーサルーンBEVのEQS 450+はリヤモーターのみとなり、最高出力は245kW、最大トルクは568Nmとなる。バッテリーの総電力量は同じで107.8kWh。一充電走行距離は700kmだ。

寸法はどうだろうか。EQS 450+の全長×全幅×全高が5225×1925×1520mmなのに対し、EQS 450 4MATIC SUVのスリーサイズは5135×2035×1725mmで、SUVのほうが90mm短く、110mm幅広で、205mm背が高い。3210mmのホイールベースは共通だ。車重はEQS 450+が2560kgなのに対し、EQS 450 4MATIC SUVは2900kgで340kg重い。

インテリアは、マキアートベージュ/スペースグレー(ナッパレザー)
2列目シート
シートはナッパレザー
3列目シート

ユーティリティ面での最大の違いは、EQS SUVが3列目シートを備えていることだろう。さすがにスペースはミニマムで乗員の体格を選ぶが、専用のエアコン吹き出し口は付いているし、シートヒーターも装備。カップホルダーはもとよりUSBポート(タイプC)まで設置されており、快適性・利便性への配慮が行き届いている。2列目シートの肩口にあるスイッチを操作すると1列目と2列目が連動して前方にスライドし、3列目への乗り降りを助けるイージーエントリー機能が付いている。そのため、乗り降りの段取りに汗をかく必要はない。

3列目シートを立てた状態でも、その後方には195Lのスペースが残る。写真を見ていただければわかるように、機内持ち込みのキャリーバッグ程度なら、横に倒した状態で積み込めるだけのスペースが確保されている。3列目を倒すとご覧のとおり。奥に積み込んだ荷物はどうやって取り出そうと悩みたくなるほどの奥行きが生まれる。

3列シートを使った場合のラゲッジスペース
3列を畳むと広大なラゲッジスペースが出現する。

継ぎ目や段差がなく、開口部も最小限に抑えられた特徴的なフロントマスクのおかげで、EQS SUVはひと目でEQシリーズ、すなわちBEVだとわかる。開口部を極端に小さくしたホイールデザインは空気抵抗低減のためだ。床下を覗くと樹脂性のパネルで覆われてフラットになっており、ここでも空気抵抗低減に気を使っているのがわかる。Cd値(空気抵抗係数)は0.26だ。前後のサスペンションアーム/リンク類はアルミを多用しており、必要な強度/剛性を確保しながら軽量化に気を配っている様子が伝わってくる。

EQS SUVはADS+(減衰力可変ダンパー)とエアサスペンション(コイルスプリングの代替)を組み合わせたAIRMATICを標準装備している。AIRMATICはセルフレベリング機能を備えており、乗員や荷物の重さに関係なく地上高を一定に保つほか、ドライブモードでComfortとSportを選択した場合は110km/hを超えると10mm、または15mm車高を下げて空気抵抗を低減すると同時に走行安定性を向上させる仕掛け。80km/h以下になると元の車高に戻る。60km/h以下ではボタン操作により25mm車高を上げることが可能だ。

試乗車はデジタルインテリアパッケージのオプション(121万円)を装着しており、先進デジタル感が強いMBUXハイパースクリーンを備える。よりスポーティなEQS 580 4MATIC SUV Sports(1999万円)には標準で装備される。コックピットディスプレイ、有機ELメディアディスプレイ、有機ELフロントディスプレイ(助手席)を1枚のガラスで覆ってワイドなスクリーンを構成。最先端の新しいクルマに乗っている感が味わえるのは、多分にこのスクリーンの影響が大きい。

リヤサスペンションはマルチリンク式
フロントサスペンションは4リンク式
リヤには、後輪操舵システムを搭載している。タイヤの切れ角は、なんと最大9度

車重3トンだが、動力性能に不足なし

フロントボンネットを開けても、エアコンユニットしか見えない。

SUVなので着座位置もアイポイントもサルーンに比べて高く、見下ろし感は強い。乗り味は2900kgの車重とAIRMATICの効果が大きいのだろう、まるで空中浮遊しているような感覚だ。道路上を移動しているのは間違いないが、路面の荒れ加減や突起乗り越えは、情報としてわずかに乗員に伝えるのみでいつなんどきも平穏である。

それに極めて静か。遮音・吸音には徹底して取り組んでいるため、快適なドライブを邪魔する音は一切耳に届かない。やや誇張すれば、窓外を流れる風景は、撮影した映像をミュートにして流している感覚だ。ただし、無音ではない。メルセデスは音の演出に関してこだわりあるようで、アクセルペダルの踏み込み量や車速、回生ブレーキの強弱に合わせて電子的な効果音響き、変化する。この効果音はドライブモードでSportを選択するとより強調される。

EQS 450 4MATIC SUVは3tに近い超重量級だが、動力性能に不足はない。発進も中間加速も、モーター特有の反応の良さを示してくれるので、ストレスがない。アクセルペダルを強く踏み込めば「そこまで速くなくても……」と自制心が働いて無意識にアクセルペダルを踏む力が緩むくらいの力強い加速力を披露する。ピッチやロール方向の動きは上手に抑えられているが、それでも重量級であることは意識せずとも感じとれるので、このクルマで無茶な運転をしようとは思わない。その意味で、むしろ安全かもしれない。

最近のメルセデスのクルマの定番で、EQS 450 4MATIC SUVもリア・アクスルステアリング(後輪操舵)を備えている。低車速時は逆相に切れて小回り性を高めているが、EQS 450+が最大4.5度、EQS 53が最大9度なところ、EQS SUVは最大10度も切れる。おかげで最小回転半径は5.1mで、3列シートミニバンの日産セレナ(5.7m)より数字上は小回りが効く。試乗時は幹線道路の交差点でUターンをする場面があったが、前の軽自動車と同じような軌跡を無理なくトレースすることができた。

EQS SUVはただ3列シートが付いているだけでなく、使える装備として備わっており、インテリアは先進的で、リラックスして移動でき、ストレスなく走り、取り回しのいい、ラグジュアリーなBEVである。

ボディカラーはハイテックシルバー
メルセデスAMG EQS 450 4MATIC SUV
全長×全幅×全高:5135mm×2035mm×1725mm
ホイールベース:3210mm
車重:2900kg
サスペンション:F4リンク式/Rマルチリンク式 
駆動方式:4WD
駆動モーター
形式:交流誘導モーター
システム出力
最高出力:360ps(265kW)
最大トルク:800Nm
バッテリー容量:107.8kWh
総電圧:396V
交流電力量消費率(WLTCモード):221Wh/km
一充電走行距離(WLTCモードモード):593km
 市街地モード225Wh/km
 郊外モード218kW/km
 高速道路モード221kW/km
トランスミッション:1速固定式

車両本体価格:1542万円
オプション:AMGラインパッケージ 44万円、ショーファーパッケージ(EQS SUV専用)85万8000円、デジタルインテリアパッケージ121万円、ブラウンマグノリアウッドインテリアトリム(メルセデス・ベンツパターン)11万円、21インチAMG4スポークアルミホイール無償、ダイヤモンドホワイト(メタリック)18万7000円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…