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BEVの重要チェックポイント、ブレーキフィールは?
試乗会に先立って日本でも発表会が行なわれているので、事前にエクステリアとインテリアはチェック済みだ。フロント部は、EVならではのグリルのないフロントシールドデザインや、ボルボのアイデンティティを継承するトールハンマーライトが印象的である。アルミニウム約25%、スチール約17%、プラスチック約17%という数字はエクステリアとインテリアに採用されるリサイクル率を示しているそうで、環境意識の高いBEVオーナーにも訴求しやすく、刺さりやすいだろう。その一方で、素材だけではなく北欧を感じさせる、新しいデザインの提案も多数採用されており、そう意味での意識高い系のカスタマーを振り向かせる工夫がある。詳しくは後述する。
日本に導入されるのは、シングルモーター・エクステンデッドレンジという仕様で、最高出力200kW(272ps)、最大トルク343Nm(35.0kgm)と十分な出力を発揮するモーターがリヤアクスルに搭載される。組み合わされるリチウムイオンバッテリーの容量は、69kWhというタップリとした電力量で航続距離(WLTC)は480kmを謳う。つまり電力使用量は約7km/kWhとなる。パフォーマンススペックは0-100km/h加速5.3秒、最高速は180km/hで、コンパクトながら2065kgとヘビー級の車両重量を考えれば立派だ。
試乗の日、バルセロナは25℃晴れと心地よい天候だった。用意されたシングルモーター仕様に乗り込む前にタイヤをチェックするとグッドイヤー・エフィシェントグリップパフォーマンスSUVの19インチ(245/45R19 102V)を装着していた。ちなみに日本仕様は20インチ(245/40R20 99V)で異なるサイズだった。それと試乗前の注意事項として、今回試乗する車両はまだプロトタイプであるということが伝えられた。だから、今回私が違和感を感じた部分は、素早い改修によってもしかすると、年末以降にデリバリーされる車両では改善されているかもしれない。
室内は、先に登場した大型フル電動SUV「EX90」から導入された最新世代のデザインで、ややスクエアな形状のステアリングと縦型ディスプレイが特徴的である。ステアリング奥にはメーターパネルを備えずに、速度やドライブレンジ、バッテリー残量や走行可能距離などはセンターディスプレイの上部に表示される。タッチパネルによる操作は階層が深くなりがちだが、EX30の縦型のセンターディスプレイは構造がよく整理されており、目的の操作に素早くアクセスできる。
インテリアデザイン・トップであるリサ・リーブズ氏によると、縦型はカップルディスタンスの取れないコンパクトカーにとって有利なのだという。インテリアトリムはサステナブルを意識したリサイクル素材が念頭に置かれている。私の好みはファブリック風の肌触りを持つフラックス・デコラティブパネルで、傷つきにくそうで耐久性にも優れているという。
今回の試乗には、日本への導入はまだ先となるが、ツインモーター・パフォーマンスという強力なグレードも用意されていた。まずは日本に導入される後輪のみ駆動するシングルモーター仕様でに乗り込み、ステアリング裏のコラムに備わるセレクターレバーでDレンジを選び走り出す。上位グレードのツインモーター・パフォーマンスはその名の通り前後アクスルにモーターを搭載し、最高出力428ps、最大トルク543Nmという高性能を誇る。
ツインモーター仕様と比較すると控えめなスペックだが、十分にトルキーでしなやかに加速する。だが、BEVの試乗の際に重要なのは、加速よりもむしろ減速だ。急ブレーキではなく、普段使うような0.3G以下の緩い減速の際に、ペダルから伝わる違和感がないかを知りたい。つまりブレーキペダルを踏んだ時に、パッドとローターで作動する物理的なブレーキとモーターによる回生ブレーキをどの程度、綺麗に協調制御させているかが重要だ。果たしてEX30のブレーキはまったく違和感のない回生ブレーキとの協調制御をしていた。駐車時や渋滞時などの微低速域や、市街地での赤信号、高速道路のランプを降りる際など、様々な速度域で試したが不満はなかった。
回生ブレーキは強めに効かせるワンペダル志向か、ほとんど効かせないコースティング志向を選択できる。だが、XC40やC40などが備える、前走車を認識して回生ブレーキの強弱を自動調整するオート機能は備わらなかった。試乗後にエンジニアに確認すると車両の格(つまり30と40)の違いによるものだと答えていた。ボルボには、追従クルーズコントロール(ACC)が普及していく過程で築いたリードがある。当然このEX30にも気の利いたACCが備わっており、これまで培った高精度センサーと優秀なアルゴリズムを生かさない手はないと思うのだが。
ドアパネルに取り付けられたドアミラーとAピラーの隙間から前方が見えるなど、前方の視界は良好だ。一方でサイドウインドウに対して前方のバルクヘッド上がやや高い印象だ。これはダッシュボード全幅に渡って、ハーマンカードン・プレミアムサウンドオーディオシステムという大型スピーカーを配置しているためかもしれない。だが、ドアに収めることが多い大型スピーカーを大胆にもバルクヘッド上に移動したことによって、ドアポケットの収納力はこれまでのコンパクトカーで見たことのないほどの容量となった。1リットルのペットボトルも気軽に放り込めるほどだ。ちなみにサイドウインドウの開閉スイッチはセンターアームレスト側にレイアウトされている。
収納の話で言うと、リヤのラゲッジルームは318Lと十分な容量を誇り、XC40と同様に床面を下げられるなどのアレンジが可能で使い勝手に優れる。ところで斜め後方の視界は意外と見にくい場面もあった。後方にいくに従いやや跳ね上がるリヤサイドウインドウは、デザインと視界性能はトレードオフの関係だ。
0-100km/h加速3.6秒の驚速ツインモーター仕様は?
今回は日本に導入されるシングルモーター仕様を中心に試乗したが、ツインモーター仕様にも試乗できた。日本への導入はまだ先となるが、ツインモーター・パフォーマンスというグレードは前述の通り最高出力428PS、最大トルク543Nmで、0-100km/h加速は3.6秒というスポーツカーもかくやという性能を誇る。ちなみに最高速度はシングルモーターと同じ180km/hだ。
オルガン式アクセルペダルを踏み込めばシングルモーター比約1.6倍の最高出力と最大トルクを活かして過激な加速を見せる。ツインモーターの快速に気をよくしてワインディングを駆け上がり、駆け降りる。2tを感じさせないトルキーなモーターとバッテリーは、公園のドッグランを活発に走る小型犬のようだ。ツインモーターは20インチタイヤを装着していたが、245という幅は変わらず扁平率のみで調整されているため、乗り心地の面では19インチタイヤの方がハーシュネスが柔らかく快適だと感じた。
インフォテインメント機能にはグーグルが大いに貢献しているのが印象的だった。ナビはもちろん、エアコンの温度調整などさまざまなコマンドが見当はずれな音声認識ではなく入力できた。ただしグーグルナビの問題として、時にナビゲーションの案内が不正確で、異なるルートに誘導されやすかったことも付け加えておこう。
オートパーキング機能は操作がわかりやすく非常に有用に感じた。試乗会場の駐車場で試したところ、360度カメラの俯瞰視点でクルマ側が認識したパーキングスロットを、センターディスプレイの画面上でクリックするだけでスムーズに的確に駐車してくれた。なおこの機能では3km/hほどで駐車するため、後続車が気になる人は空いたパーキングで安全確実に行なうといいだろう。
BEVは高速走行で内燃機関車よりも、走り方で電費(電力使用量)が大きく悪化したり、エネルギー充填に時間がかかる、あるいは充填できるかできないか不確実といった、これまでのエンジン車とは異なる使い方や考え方を強いられるが、それらに対応できるなら大きな価値のあるクルマだ。今回日本に導入されるEX30には、300台限定だが月額9万5000円でサブスクリプションも用意されており、初めてBEVを所有しようかという人の背中を押す有力なきっかけになるだろう。いわゆるサブスクには、登録諸費用や税金、任意保険料なども含まれており、結果的に保険料の高い若年層の不利をカバーする。559万円の最新BEVに9万5000円で(最大2年)乗れるという事実はかなり魅力的に映る人が多いのではなかろうか。
ボルボEX30ウルトラ シングル モーター エクステンデッド レンジ ボディサイズ:全長4235 全幅1835 全高1550mm ホイールベース:2650mm 車両重量:2065kg モーター最高出力:200kW(272ps)/6500-8000rpm モーター最大トルク:343Nm(35.0kgm)/0-4500rpm 駆動方式:RWD 0-100km/h加速:5.3秒 最高速度:180km/h バッテリー容量:69kWh EV航続距離:480km以上 サスペンション形式:前マクファーソン式ストラット 後マルチリンク ブレーキ:前後ディスク タイヤサイズ:前後245/45R19 車両本体価格:559万円