新型スイフト開発秘話!「軽さは正義」1トン以下の車体に1.2L 3気筒エンジン搭載で目指した価値とは?開発責任者にインタビュー

2023年12月6日に正式発表されたスズキのBセグメントハッチバック「スイフト」。全体的には先代の正常進化ながらも、パワートレインやADASを一新するなど、技術面での進化は大きい。開発を指揮した小堀昌雄(こぼりまさお)チーフエンジニアに聞いた。

REPORT:遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO:中野幸次(NAKANO Koji)/スズキ

完全に“仕上がってた”コンセプトモデルがモビリティショーで話題に

スイフトらしさを堅持しつつも新しさを兼ね備えたエクステリア

遠藤 10月25日から11月5日まで開催(注:プレスデーなど含む)された「ジャパンモビリティショー2023」には「スイフトコンセプト」を出品されましたが、実質的には市販モデルそのものでした。来場者からの反応はいかがでしたか?

小堀さん 日本にあまりいなかったので、メールで速報を見ただけですが、モビリティショー担当部署からの報告では、こちらの意図をお客様に伝えることができた印象ですね。最近のお客様は遠い将来よりも直近の商品に興味があるらしく、スペーシアやスイフトに注目が集まりました。スイフトに関しては内外装とも好意的に受け止めたご意見が多かったようです。ただ、こちらの意図がお客様にそぐわなかったというご意見も確かにあします。

SNS上でもスイフトを採り上げてくれた投稿が多く、好意的なご意見と、発売時期に関する疑問が多かったようですね。あとは「『コンセプト』って言ってるけど、これって『コンセプト』って言うの?」と(笑)。

遠藤 実車を見たら余計にそう思いますよね、完全に出来上がっているクルマでしたので(笑)。ところで、お客様に伝わったという意図とは?

小堀さん 現行スイフトに対して新しいスイフトを提案するにあたり、スイフトは走りとデザインが大きな特徴ですが、エクステリアについては一目見てスイフトと分かるけれど、古くてもダメ、変わっていないと思われてもダメ、さりとて新しいと感じてもらわないといけない。これからのお客様に向けてのスイフトだということを伝えたかったので、若い方から「格好良い」「新しさがある」とのご意見をいただけたのは良かったです。

インテリアについては、リラックスできる空間をデザインしようと思っていましたが、それについても皆さんから好意的なご意見をいただけましたね。他社の競合車と比較しても、お客様の期待に充分応えられるものになったと感じました。

ドライバーとクルマとの一体感を重視して作られたインテリア

軽量ボディに1.2Lエンジンを載せたら面白いクルマになる!

遠藤 そんな新型スイフトの開発コンセプトは?

小堀さん 現行スイフトも走りとデザインを強化しましたが、新しいプラットフォームを使って、「他社にない軽量なボディに1.2Lのエンジンを載せたらこんなに面白いクルマになるよ」というのを提案しました。それが皆さんから「こういうクルマはアリだね」と認めていただけましたが、今度はただ走りが良いだけではなく、毎日使って楽しいプロダクトになることを目指して開発しました。

ジャパンモビリティショーでは、デザインに関してはこれまでの「走り」(一辺倒)というデザインではなく、これまでと違って新鮮で「これが好き」というご意見があり、次にクルマを買い換える時は選択肢に入るということでしたので、こちらの意図が伝わったと感じています。

新型スイフトのエクステリアはスポーティなだけではなく親しみやすさも

遠藤 走りとデザインを重視する点のほかパッケージングについても、従来とほぼ変わっていないような印象を受けましたが、その中でデザインは、見れば見るほど、敢えて小さく見せるべく作られたように感じました。

小堀さん 写真で見ると皆さん「小さく思った」ということでしたが、実物を見ると「結構ロー&ワイドなデザインなんですね」というご意見を多くいただいています。

パッケージングそのものは大きく動かしてはいませんが、このサイズはちょうどいいんですね。お客様からは「グローバルで見てもBセグメントの他車はどんどん大きくなっているのでちょっと大きく、Aセグメントでは遠出する時に荷物が載らないし4人乗ると狭い。それに対してスイフトはどちらにも使えて、いい所取りをしている」と。

ですから、そのパッケージングを守りながら、より室内が広く感じられるようなインテリアデザインをしたり、パッケージングやジオメトリーは変えなくとも、よりロー&ワイドな、地面に踏ん張った雰囲気を持つエクステリアデザインにしました。

遠藤 かなり小顔になった印象があるので、その分ボンネットの存在感が大きくなったような気がします。

小堀さん クラムシェルデザインになっていますね。今まではフードを上で見切っていましたが、今回は横で見切ったので、だいぶイメージが変わっているかもしれません。

遠藤 エスクードのようなデザインですね。

小堀さん そうですね。特に先代のエスクードがクラムシェルになっています。

エスクードと同様のクラムシェル型のボンネットが採用されたフロントまわり

遠藤 他社のBセグメントカーは広さやユーティリティに振りがちですが、スイフトが敢えてそうしないのは、ユーザーがそれを求めていないからでしょうか?

小堀さん そういうことを求めているお客様は、スイフトという商品を選ばれないのではないかと。当社にはソリオもありますし、その上のプロダクトもありますので。どちらかというとスイフトは、セカンドカーや街乗り主体だけど、休日に一日くらい遠出するには何の問題もなく使えるというのが、スイフトの立ち位置になっています。

東京や大阪などの大都市を除けば、お客様は日常の通勤でもお使いなんですよね。毎日朝早く起きて、クルマで会社に行って、夜暗くなってからクルマで家に帰るという方が多いんですね。そういうお客様にとって、クルマでの往復は自分の時間を楽しむ、好きな音楽をかけてドライブする時間。それもいいんですが、クルマがもう少し楽しいプロダクトになればいいなと思っています。

新型スイフトのパッケージングイメージ図

1.2Lの3気筒エンジン搭載は効率とバランスを重視した結果

遠藤 技術的にはパワートレインの変更が最も大きいと思いますが、この3気筒のZ12E型、Z系エンジンはこれが初めてですか?

小堀さん はい、新型スイフトが初搭載です。

遠藤 3気筒にしたのはフリクション低減が主目的ですか?

小堀さん はい、エンジンの熱効率を究極まで高めようとすると、やはり3気筒にしなければ、1.2Lの場合はバランスが悪いですね。

遠藤 1.2Lで4気筒ですと、1気筒あたりの容積は小さいですよね。これはNA(自然吸気)の展開は想定されていますか?

小堀さん 今の所は、NAだけを考えています。

遠藤 圧縮比が13.0と高いですが、技術的なポイントは?

小堀さん 一番は異常燃焼、プレイグニッション対策、その制御の作り込みですね。高圧縮化に伴う熱への耐久性が大変だったと、パワートレイン開発者からは聞いています。

Z12E型エンジンの主な効率向上策

遠藤 先代のK12C型は「デュアルジェット」でしたが、今回のZ12Eは?

小堀さん インジェクターはシングルですね。

Z12E型エンジンの高速燃焼化策(上)とインジェクターレイアウト(下)

遠藤 CVTは全くの新設計でしょうか?

小堀さん 新設計というほどでもありませんが、Z12Eに合わせて新しいCVTを今回作りました。

遠藤 3気筒に合わせたサイズになっている……?

小堀さん サイズもそうですが、3気筒特有のアンバランスから来る振動がありますので、それにしっかり耐えられるCVTになっていますね。もちろん軽くもしたかったので……。

遠藤 エンジンの方で大きなトルクが想定されないならば、その分トルク容量を下げられますよね。

小堀さん 3気筒のこのトルクに合わせるならば一番ですね。今まではどうしても大きいエンジンまで見据えたものになっていたので、1.2Lでは多少余裕がありました。

遠藤 今まではトルク容量が150Nmくらいあったものが、これなら120Nmくらいでいい、ということでしょうか?

小堀さん そうですね。

先代より1.9kg軽量化された新開発のCVT

遠藤 マイルドハイブリッド自体は特に変えていませんか?

小堀さん 機能面での差はありませんが、エンジンが変わったので、当然モーターの大きさも違えばレイアウトも違います。今までは4気筒用だったのが3気筒用になり、圧縮比も上がりましたので、そうすると1気筒動かすのに必要なモータートルクも上がります。

遠藤 そのおかげでWLTCモード燃費はマイルドハイブリッド・CVTのFF車で24.5km/Lになりましたね。

小堀さん 今回は新エンジンを搭載するので、燃費はしっかりと作らないといけないというのがありました。

遠藤 燃費に関してはトヨタさんのヤリスが非常に高い水準にあります。ストロングハイブリッドを採用している面も大きいとは思いますが……。

小堀さん 世の中がBEVに動いているこの時代にICE(内燃機関)を出す意味を考えると、それはお求めやすい価格であり、でも安かろう悪かろうではいけない。そこはご納得いただけるパフォーマンスを出そうと。

軽自動車もBEVになり始めていますが、全部が全部BEVになるのは、インフラの面も含めて難しいと思うんですよね。ただ、ガソリン価格も上がっているので、そこはしっかり担保したいと思います。

遠藤 今回はマイルドハイブリッドとMTが初めて組み合わされたということですが……。

小堀さん 日本では初めてですね。海外には先代にもあります。

遠藤 そこは、MT車でも燃費を良くしたいということでしょうか?

小堀さん はい。根源にあるのは「この時代にICEとは?」ということなので。他社がBEVやレンジエクステンダー、ストロングハイブリッドを出す中で、我々スズキがこれから出すクルマに対しICEを載せる、そこに我々がどういう想いを込めるべきかを考えると、スイフトはお客様が日常で使われる、セカンドカーにもなる求めやすい商品であり、かつ軽快感があり扱いやすいクルマである。その中でマイルドハイブリッドは組み合わせる必要があると考えました。

遠藤 マイルドハイブリッドはスペース的にも有利ですよね。

小堀さん はい。重量もさほど増えませんし。

遠藤 電池は今まで通り12Vでしょうか? 48Vではない?

小堀さん はい。12Vの3Aを助手席下に搭載しています。

遠藤 当然新型のスイフトも全世界展開されると思いますが、海外では日本市場にはないパワートレインを搭載する予定はあるのでしょうか?

小堀さん あまり細かいことは言えませんが、Z12Eとマイルドハイブリッドを中心に載せていこうと考えています。

遠藤 インドなど新興国でもマイルドハイブリッドはもう載りはじめているんですよね。

小堀さん インドではマイルドハイブリッド仕様もありますし、日本にないものもありますので。そこは新型でも地域ごとに合わせた設定を検討しています。

マイルドハイブリッドの作動イメージ

遠藤 車重はもしかして先代よりも軽くなっていますか?

小堀さん いえ、先代とほぼ変わっていません。装備は増えていますが、重量は抑えています。

遠藤 パワートレインに関しては、エンジンを3気筒にしたからといって車重が変わるわけではないですよね?

小堀さん もちろん。ピストンが1つ減ったからといって、部品1つあたりのサイズは大きくなっていますので、あまり変わらないですね。重量が下がるネタはあまりないです(笑)。技術者がみんな頑張ったからですね。

今の車重だから感じられる扱いやすさがあると思うんですよね。だからそこはしっかり担保しました。

遠藤 他社さんのクルマと乗り比べると、スズキさんのクルマは体感できるレベルで軽さが違うのが分かります。やはり「軽さは正義」と感じます。

小堀さん ありがとうございます。

遠藤 それに、1tを超えるか超えないかで自動車重量税が変わりますので……。

小堀さん 1t以下に抑えることに加え、燃費でも頑張ったので、免税や減税の対象になっています。お客様のおサイフにも優しいですね(笑)。

ボディ骨格に超高張力鋼板を多用して重量増を抑制

実寸大のクレイを風洞に入れて、何度も煮詰めたボディの空力形状

遠藤 ボディも空力も相当進化した感があります。

小堀さん エンジンだけでは目標の燃費性能をなし得ないので、空力をデザイン段階でしっかり作り込んでいます。現行車もそんなに悪くないんですが、空力優先のデザインではなく、スイフトらしさが最優先ですので、そうしたスタイリングを守りながら空力を良くした結果、競合と比べてもトップレベルにあると思います。

とはいえ空力性能は、少しでも高めるべく、何度もクレイモデルを削り直して、スポイラーの長さも1mm単位で調整しました。無駄に長ければいいわけでもなく、短ければいいわけでもないんですよね。クレイモデルを風洞に入れて、そこに粘土を盛ったり削ったりして、どういう空気の流れになるかを見ながら、床下も含めて一切合切やりました。

新型スイフトの主な空力性能向上策

遠藤 スズキさんはスイフトに限らずAピラーをかなり立てたデザイン・パッケージングにすることが多いと思いますが、そこは新型スイフトでも守っていますか?

小堀さん 遠くから見ても「これはスイフトだね」と言ってもらわないといけないと我々は思っています。ですので俗に言う「鏡餅タイプ」、ベルトラインから下がどっしりしていて、その上に付いているキャビンというのが、スイフトのシルエットになるよう新型でも守っています。Aピラーの傾斜も現行車と同等ですね。

遠藤 そこが広さ“感”と視界に大きく影響する点だと思います。

小堀さん 視界もいいですし、ルーフも高いんですよ。スイフトはグローバルで販売していますので、日本では少ないですが、欧州やインドでは大柄な方が多いので、そういう方が乗っても不自由ないようにするには、その辺りをしっかりしないと、乗り込む際に頭をぶつけてしまいますので。

その一方で、日本やインドでは小柄な女性も運転されるんですね。そういった方でもしっかりドライビングポジションが取れるようにしなけばなりませんので、どちらも両立するように作っています。

遠藤 なるほど。Aピラーが寝ていると、シートを前に出した時に頭がAピラーにかかるんですね。

小堀さん 女性が乗ろうとするとまずシートをリフトアップして、ステアリングを下げて、シートを前に出します。すると顔がガラスに近づいてしまいます。また足元にインパネが寄って、当たりやすくなりますので、そこは最初から駄肉を切って、小柄な女性でも必要充分なスペースを確保しています。乗り比べると、その空間が他車よりしっかり取られているのが分かると思います。

傾斜の少ないAピラーにより死角の少ない視界とドライバーの体格を問わない適切なポジションの取りやすさを両立

遠藤 インパネの形状も工夫されているのですね。そのあたりは事故の際にも怪我の有無に大きく影響する気がします。ADAS「スズキセーフティサポート」に関しては新型スペーシアと同じものと考えてよいのでしょうか?

小堀さん はい。同じシステムです。ただ、載せるクルマのパフォーマンスが違うので、制御のセッティングはクルマごとに変えています。

「スズキセーフティサポート」のシステム構成図

遠藤 EPB(電動パーキングブレーキ)が歴代スイフトで初めて設定されていますが、非装着車は通常のハンドブレーキになるのでしょうか?

小堀さん はい、どちらも用意しています。

上級グレード「ハイブリッドMZ」に標準装備の電動パーキングブレーキとオートブレーキホールド機能スイッチ

遠藤 素晴らしいですね。特にMT車でEPBはかえって扱いにくいので。となると、当然クルマ好きは「スポーツ」を期待してしまいますが……。

小堀さん そこは商品計画に関わることですので、現段階ではご容赦下さい(笑)。

遠藤 ベース車が950kgに抑えられたので、「スポーツ」も何とか1t以内に抑えられるのではと期待が持てそうです。

今回のベース車も、走りが相当楽しく、燃費も良さそうですので、とても楽しみです。ありがとうございました!

中間グレード「ハイブリッドMX」のインテリア。パーキングブレーキはハンドレバー式

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著者プロフィール

遠藤正賢 近影

遠藤正賢

1977年生まれ。神奈川県横浜市出身。2001年早稲田大学商学部卒業後、自動車ディーラー営業、国産新車誌編…