ホンダ、独自AIの「人と協調するマイクロモビリティ」実証実験で「楽しい未来」が見えてきた

ホンダの研究開発会社である本田技術研究所(以下、ホンダ)は、人とわかりあえる独自の協調人工知能「Honda CI」を搭載したホンダCIマイクロモビリティの技術実証実験を茨城県常総市の「アグリサイエンスバレー常総」で開始する。

ホンダの独自AIである協調人工知能「Honda CI(Cooperative Intelligence)

左が4人乗りのCiKoMa(サイコマ)、右がWaPOCHI(ワポチ)

ホンダが開発する独自のAIである協調人工知能「Honda CI(Cooperative Intelligence)は、「地図レス協調運転技術」と「意図理解・コミュニケーション技術」のふたつのコア技術に持つAIだ。

高精度地図が不要なため、いまある町に大規模なインフラの整備をすることなしに、カメラとHonda CIの組み合わせで周辺環境を認識し自動走行ができる。街全体をスマートシティ化するアプローチは別のコンセプトだ。

今回、Honda CIを搭載したマイクロモビリティの技術実証実験を行なった常総市は、2022年7月にホンダと「AIまちづくりヘ向けた技術実証実験に関する協定」を締結している。

実験の舞台となるアグリサイエンスバレー常総を訪れて、その規模に驚いた。道の駅、大型の蔦屋書店などの民間商業施設、公園、観光農園などが入る巨大施設だ。平日の昼間にもかかわらずかなりの人出ある活気のある施設である。この施設内に、ホンダはAIなどの研究開発を行なう拠点を設けている。

今回、報道陣に公開されたのは、Honda CIを組み込んだマイクロモビリティ(CIマイクロモビリティ)のCiKoMA(サイコマ)とWaPOCHI(ワポチ)である。

筆者は2022年11月に常総市で行なわれたHonda CIマイクロモビリティのコア技術の公開の取材をしている。その際もCoKoMaとWaPOCHIの説明を受け、実際に動いているところも見せてもらっている。そのときは、こちら側の理解力が低いこともあって、なんとなく「絵に描いた餅」感があったが、わずか1年ちょっとでどちらも格段に進歩していた。

CiKoMaもWaPOCHIも、その姿形に目を奪われがちだが、重要なのは「脳みそ」部分である。

WaPOCHI開発責任者の小室美紗氏に、この1年間のHonda CIの進化度合いを訊くと「格段に進化しています。WaPOCHIは現在、3台あるのですが、1年前にお見せした初代WaPOCHIはすでに退役しています」と答えてくれた。

CiKoMaも1年前はひとり乗りのモデル(実験用で実際には人は乗れなかった)で「意図理解・コミュケーション」の機能を搭載していた。4人乗りのCiKoMaにはまだそれは載っていなかったし、2人乗りのモデルは、ホンダMC-β(ホンダが開発した超小型電気自動車)をベースにしたものだった。

それが今回は、実証実験に供される4人乗りのCiKoMaには、「地図レス協調運転」と「意図理解・コミュニケーション」のHonda CIのコア部分が搭載されていた(ただし車体そのものはホンダ製ではないゴルフカートを依然として使っている)。今回お披露目された2人乗りのCiKoMaはMC-βではなく新開発の「Honda CI-MEV(シーアイ・エムイーブイ)へと進化していた。

CiKoMa(サイコマ)が実現する「いつでも・どこでも・どこへでも」

2024年2月より、アグリサイエンスバレー常総のなかにある「道の駅常総」から観光農園「グランベリー大地」までの約850mの区間でCiKoMaの自動走行の技術実証実験が始まった。

体験してみた。まずは、専用携帯デバイス(といっても、市販のスマートフォンで、アプリやUIはホンダが開発)に向かって、「迎えに来て」と発話すると、CiKoMaが「はい。わかりました」と応える。目前に止まったCiKoMaに乗り込む。技術実証実験の第1ステップでは、前席に安全監視員が2名乗り込んでいるから、後席に乗ることになる。そこからは、「イチゴ農園へ行きたい」といえば(発話する際はスマホのマイクスイッチをONにし、発話が終わったらOFFにする)「わかりました」となるし、「やっぱり手前のコーヒーショップに止めて」と言えば、「はい、車両を止めます」とじつにスムーズな対話ができる。

今回の実験は、「歩車共存エリア」で行なわれるので、周囲・前方に人がいたり、駐車場に出入りする一般車両に遭遇する機会がある。そこは、カメラ+AIで周囲を状況を読み取り、人を避けたり、後ろで待ったり、車両の出入りの前に一旦停止したりする。

人のジェスチャーも読み取るので、CiKoMaの呼び出したポイントよりも数十メートル前に出て、腕を大きく振ると、そこで止まってくれる。

CiKoMaの実証実験の予定。

第2ステップ(2024年中)では完全監視員1名+遠隔安全監視(つまり3名乗れるようになる)、第3ステップ(2025年中)では遠隔安全監視のみになるので、4名が乗れるようになる計画だ。

二人乗りのHonda CI-MEV 新開発だ。

2024年夏には、二人乗りのHonda CI-MEVも常総市内での技術実証実験に投入予定だという。

2030年実現を目指すのはどんな世界か、プロジェクトの責任者である安井祐司氏(本田技術研究所先進技術研究所知能化領域エグゼクティブチーフエンジニア)に尋ねると

プロジェクトの責任者、安井祐司氏(本田技術研究所先進技術研究所知能化領域エグゼクティブチーフエンジニア)

「全域、どこでも2030年に自動走行でCiKoMaで動くというところまではいかないと思います。ただ、実現できているといいなと思っているのでは、常総市だけではなくて、ある町に住んでいるひとたちがある範囲で、どこでもCiKoMaが無人で迎えに来てくれて、乗り付けられる。自動車走れる。そういうことが実現できれば、町の活性化にもお役に立てるのではないかと思います。私たちの開発はそこで終わるわけではありません。この先も進化していきます」

現在の実証実験は、「歩車共存エリア」で行なわれている。

WaPOCHI(ワポチ) 徒歩移動をサポートするマイクロモビリティロボット

WaPOCHI。すでに第二世代に進化している。

WaPOCHIは、ユーザーの特徴を記憶・認識して荷物を載せてユーザーに追従、あるいは先導してくれる電動マイクロモビリティロボットだ。

日本人の平均寿命は延びているが、健康寿命と平均寿命の間には約10年間のギャップがあるという。人生のラスト10年間を過ごすのは難しいのだが、1日に8000-9000歩歩く高齢者の健康寿命は長い、というデータがある。

一方でCiKoMaにも共通することだが、タクシーでの平均移動距離は1回3.3kmだという。地方でも4.6kmだというから、そう長い距離ではない。「一般の人が移動するときのワントリップは5km以下が大半」だという。また、300m~500mの移動距離のためだけにクルマを使うという人も多い。

そこに目を付けたのが、WaPOCHIだ。人に寄り添って先導する、追従してくれるWaPOCHIがいれば、ユーザーは荷物を載せ、自分のペースで歩くことができる。

ユーザーの服や髪の色、背格好などの特長を画像で認識し、ペットのように付いてくる(だからPOCHIなのだ)。先導走行機能では、ユーザーの振るまいから進路を予測することで適切な距離を保ちながら行きたい方向に自動で走行してくれる。人混みでの使用も想定してしるから、上手に周囲の障害物(子どもやペットも含む)を避けて動く。

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人混みのなかでもWaPOCHIは機能する。

今回のCiKoMaとWaPOCHIは、極低速~低速のモビリティをHonda CIによって知能化・自動化していくものだ。ホンダはHonda SENSING Eliteで自動運転レベル3を実現している。速度域低~高までの技術が揃えば、全速度域での高度な自動運転が可能になる。そこにHonda CIが載れば、かなり面白い未来が見えてくる。

Honda CIマイクロモビリティが目指すのは、いまある町に先端技術を加えることで活性化していくレトロフィット型のアプローチだ。レトロフィットだから大規模なインフラ整備は必要ない。これから予想だれる高齢化、人手不足といった社会課題に答えながらラストワンマイルの移動手段としてマイクロモビリティのニーズは高まるだろう。Honda CIマイクロモビリティの技術実証実験で、新たな課題やアイデアが浮かび上がることを期待したい。

技術実証実験では、一般の方もCiKoMaやWaPOCHIを体験できる。ぜひ、茨城県のアグリサイエンスバレー常総に立ち寄ってみてほしい。

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著者プロフィール

鈴木慎一 近影

鈴木慎一

Motor-Fan.jp 統括編集長神奈川県横須賀市出身 早稲田大学法学部卒業後、出版社に入社。…