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長期間潜航を可能とした「たいげい」型潜水艦
今回就役した「じんげい」は、「たいげい」型潜水艦の3番艦である。漢字で書けば「迅鯨」となるだろう。「たいげい」型は、「そうりゅう」型に続く国産の通常動力型潜水艦として、2022年より毎年1隻のペースで就役している。「たいげい」型の最大の特徴は、リチウムイオン電池の搭載だろう。現在、リチウムイオン電池を潜水艦で実用化しているは世界で日本のみであり、他国の通常動力型潜水艦をしのぐ長期間潜航を実現している。
あらためて、潜水艦の動力について説明しよう。一般的な通常動力型潜水艦は、ディーゼルエンジンで発電機を駆動させるディーゼル・エレクトリック方式を動力に採用している。ディーゼルエンジンを動かすには空気が必要なため、さらに蓄電池を搭載し、水中ではそこに蓄えた電力を主に使用している。
この蓄電池には、これまで鉛蓄電池が使用されてきたが、日本はリチウムイオン電池を実用化した。リチウムイオン電池は、容積あたりの蓄電量が鉛蓄電池の2倍以上とも言われる大容量と高出力を有し、水中活動時間を大幅に延長するとともに、水中航行能力を向上させた。
ひとつ前の「そうりゅう」型では、ディーゼルエンジンに加えて、空気を必要としない「AIP(非大気依存推進)」である「スターリングエンジン」を搭載し、水中活動時間の延長を図った。しかし、スターリングエンジンは大きさのわりに出力が不充分であったことから、全12隻中の最終2艦(11、12番艦)では、スターリングエンジンと鉛蓄電池を撤去し、リチウムイオン電池を搭載している(11番艦「おうりゅう」は、世界初のリチウムイオン電池搭載潜水艦である)。
そうりゅう」型にそっくりの外見ながら性能は大きく向上
「たいげい」型は「そうりゅう」型の発展型であり、シルエットは非常に似ている。全長・全幅は「そうりゅう」型と変わらないが、深さ(船体の縦方向の長さ)は0.1mほど大きくなり、基準排水量は「そうりゅう」型の2900トンから100トン増えて3000トンとなった。
「たいげい」型の船体構造で注目したいのが、「浮き甲板」の採用だ。これは内部の甲板を、外側の船殻(耐圧殻)から緩衝構造を介して“浮かせる”構造であり、外からの衝撃が内部に伝わりにくく、また内部で発した音が外に漏れにくい。「そうりゅう」型も静粛性に優れた艦として知られているが、「たいげい」型はそれを上回る静粛性を有すると言われている。
また、時代を反映して「たいげい」型では女性自衛官も勤務できるよう、最大6人を受け入れることができる女性用寝室区画の確保や、通路やシャワー室への仕切り(カーテン)の設置がなされている。
搭載兵装としては、これまでの89式魚雷よりセンサー性能が大きく向上した18式魚雷をはじめて搭載するほか、巡航ミサイルであるUGM-84LハープーンBlock.2が搭載できる。対艦ミサイルとして知られるハープーンだが、Block.2型は対地攻撃能力が追加され、射程も大幅に延長されるなど、攻撃能力が大きく向上している。
第11潜水隊の新編と「試験潜水艦」
さて、「じんげい」の就役にあたっては海上自衛隊の組織にも興味深い変化があった。「じんげい」が横須賀の第2潜水隊群第4潜水隊に配備される一方で、もともと第4潜水隊に所属していた「たいげい」型1番艦「たいげい」が、新編された第11潜水隊に移り、「試験潜水艦」となったのである。
第11潜水隊は、潜水艦乗員の教育支援や潜水艦装備の研究支援にあたっていた第1練習潜水隊が改称した部隊であり、最新鋭艦である「たいげい」を試験業務の専用艦とすることで、技術研究の効率を向上させる狙いがあるとみられる。これにより日本の潜水艦技術がますます高まることが期待される。