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三菱初のストロングHEVシステム搭載
エクスパンダーは、2017年にインドネシアで発売したクロスオーバーMPV。2019年にエクスパンダークロスが追加されている。日本には導入されていないが、ASEAN、中南米、中東などで展開する世界戦略車なのだ。
実は、三菱自動車としては、トライトン、アウトランダーに続く3番目に売れているモデルなのである。
三菱にとって、というか日本メーカーにとってASEANは死活的に重要な市場だ。これまで日本車の牙城だったASEAN市場にも中国メーカーが攻勢をかけている。タイも同様だ。つまり、電気自動車(BEV)の普及がすすんできているのだ。
2022年度、xEV=9.1%が2023年度は18.7%と大きく伸びている。伸びているのは、BEV(1.0%→9.3%)だ。が、HEVも7.8%→9.3%と伸びている。
タイでは、xEVに税制の優遇がある。
タイ 乗用車の物品税
乗用車 | 現状 | 2026年1月〜※※ | 2028年1月〜※※ | 2030年1月〜※※ |
ICE | 20% | 25% | 27% | 29% |
HEV | 4%※ | 6% | 8% | 10% |
PHEV | 4%※ | 5% | 5% | 5% |
BEV | 2%※ | 2% | 2% | 2% |
しかもFTA(自由貿易協定)で、中国からのBEVには関税がかからないのだ。というわけで、日本メーカーにとっては逆風が吹きつつあるタイ市場なのだ。
そこに三菱が投入したのが、エクスパンダー/エクスパンダークロスHEVである。
もともとのエクスパンダー/エクスパンダークロス(1.5L直4エンジン搭載モデル。つまりICE車)は、三菱のインドネシア工場で生産されている。今回、モーターショーでデビューしたHEVは、タイのラムチャバン工場で生産される。
三菱といえば、PHEV(アウトランダーPHEV、エクリプスクロスPHEV)とBEV(eK クロスEV)で、ストロングHEVってあったっけ? と思う人もいるだろう。その通り。今回のエクスパンダー/エクスパンダークロスHEVは、三菱初のストロングHEVシステム搭載モデルなのだ。
どんなシステムか?
どんなハイリッドシステムなのか? ルノー・日産・三菱アライアンスには、すでにe-POWER(日産)E-TECH HYBRID(ルノー)が存在する。今回の三菱のハイブリッドシステムは、そのどちらでもない独自開発のシステムだ。分類分けをすれば「シリーズ・パラレルハイブリッド」で、「e-MOTION」ハイブリッドを名付けられていた(ただし、この名前はタイ国内のみの名称だ)。
簡単に言えば、アウトランダーPHEVがベースで、
エンジンが1.6L直4エンジンに
リヤモーターなし
搭載バッテリーの容量が1.1kWh
に変更したシステムだ。コスト競争力、税制の恩典、もちろん燃費性能のアップという連立方程式を解いた結果のシステムで、ASEANのみならず、おそらく日本でも充分通用するHEVシステムだ。
車両価格は
エクスパンダーHEVが933,000バーツ~
エクスパンダークロスHEVが961,000バーツ~
となっている、1バーツ=約4.1円換算で
エクスパンダーHEVが382万5300円
エクスパンダークロスHEVが394万0100円
国民一人当たりのGDPが日本の約5分の1程度のタイの物価を考えると、日本で1900~2000万円のクルマを買うのに匹敵すると言っていい(感覚的にはもっとかもしれない)。この価格は、中国勢のBEVと同程度。電気代はガソリン代の8分の1(夜間電力なら)だというから、HEVでBEVに太刀打ちするのは難しいのではないか、と思うが、けっしてそうではない。
中国勢の攻勢と各種優遇策で急速にシェアを高めたタイのBEVだが、ここへ来てその勢いに陰りが見えているという。大雨でバッテリーにトラブルがあった、航続距離でやっぱり不安がある……といった声がSNSであがってきている。また、高価な買い物である自動車は、長く保有することが多く、また年間の走行距離も4-5万kmは当たり前のお国柄だ。となると、BEVではなくHEVを選ぶという人が増えるのはある意味当然だろう。
三菱の狙いもそこにある。
長年タイに根付いていた三菱にはブランドへの信頼がある。もちろん、耐久性は折り紙付きだ。3列シート(7名乗り)のMPVでなおかつHEVとなれば、充分に競争力がある、という判断だ。
バンコク国際モーターショーで3400台売れた!
さて、バンコク国際モーターショーの様子である。
このショー(に限らないが)、訪れる来場者は、楽しげであると同時に真剣な眼差しでクルマを見て回る。見るだけではなく、乗り込み(しかも家族全員で)、ハンドルを握り、内装をなで回し、じっくり見るのだ。なぜかといえば、モーターショーは、新しいクルマを買う場所でもあるからだ。
タイの新車販売台数は2023年で約77万6000台だ。今回の会期中に予約販売されたのは、なんと5万3438台だったという。つまり年間販売台数の7%弱がモーターショー会場で売れるのだ。
だから、各自動車メーカーのブース面積の30-40%程度は、いわゆる「商談スペース」となっている。クルマを見て、その場で商談をして、実際に契約するのだから、クルマを見る目も本気モードになるわけだ。
なぜ、モーターショー会場で契約するか、といえば、もちろん「お買い得」だからだ。会期中ならローン金利ゼロ、割引もあるとなれば、購買意欲も増すというものだ。
メーカー側も、タイ中から腕利きのセールスパーソンを集めて、勝負にでる。
その様子を見せてもらった。パブリックデー初日、エクスパンダー/エクスパンダークロスHEVを投入した三菱ブースは、大盛況だった。
ショー全体での5万3438台は昨年の27.5%増。メーカー別で三菱は5位の3,409台の予約販売を得た。順位は、1位トヨタ、2位BYD、3位ホンダ、4位MG(上海汽車)、5位三菱自動車、6位長安汽車、7位AION(広州汽車)、8位長城汽車、9位いすゞ、10位日産という順だ。
BEVをアーリーアダプター需要と税制優遇が続く間、中国勢の攻勢に耐えなければいけない時期あるかもしれないが、三菱の新HEVの実力は必ず認められるはずだ。
BEVと違って航続距離の不安なし、もちろん燃費もいい。価格競争力もある。エクスパンダー/エクスパンダークロスHEVのハイブリッドシステムは、なかなかに魅力的だ。タイのエクスパンダー/エクスパンダークロスだけでなく、ぜひ国内にも投入してほしい。
RVRの次期型、あるいは、2023年にインドネシアでデビューしたXFORCE(エクスフォース)あたりにこのシステムを載せたら、日本でもかなりの人気を集めるはずだ。