目次
発売8年目にして、いまなお人気の2代目ホンダ・フリード
ホンダ・フリードのライバルの筆頭として挙がるのはトヨタ・シエンタだ。
コンパクトミニバン市場は長らくシエンタとフリードが激戦を繰り広げていたが、2022年にシエンタが3代目へとフルモデルチェンジしたことで形勢に変化が生じた。
外観が一新され、新型プラットフォームの採用であらゆる面が強化された新型シエンタは、発売後3週間で約2万4000台を受注。納車遅れなどもあって2022年の累計販売台数はフリードが順位を守ったが、2023年の累計販売台数はシエンタの13万2332台に対してフリードは7万7562台と大きな差がついた。
一方のフリードは開発テストカーの目撃情報は挙がるものの、新型登場の噂ばかりが先行したままシエンタのフルモデルチェンジからすでに1年以上が経過している。
絶対的な販売台数では大きく水を開けられたフリードだが、新型シエンタ登場以降もフリードは月間販売台数でおおむね10位以内をキープしている事実から、その根強い人気が伺える。
それどころか2024年3月の販売台数はシエンタの9082台に対し、フリードが9532台と僅差で上回った。競争力に劣ると言わざるを得ないフリードが、今でもこれだけ売れるのにはどのような理由があるのだろうか。
新型シエンタにはないフリードの魅力
単純に考えると、新型シエンタに旧型ともいえるフリードが勝る道理はない。とくにハイブリッドモデル同士の比較では、燃費性能に格段の差がある。世代の違いはクルマに大きな格差をもたらすのは周知の事実だ。
では、現在フリードの人気を下支えしているものは何であろうか。フリードにあって、シエンタにない点を比べてみよう。
ひとつはフリードのみが採用する2列目キャプテンシートが挙げられる。乗車定員は6人に限定されてしまうが、ベンチシートに比べて左右独立のパーソナルシートの快適性は格別に高い。
3列目シートの収納方法もフリードとシエンタでは異なる。フリードの3列目シートは左右跳ね上げ格納式であるのに対し、シエンタは荷室がフラットになる床下格納式だ。
フリードの左右跳ね上げ式は荷室容量を圧迫してしまうが、荷室床面の高さを抑えられるメリットがある。シエンタの床下格納は設置や収納にひと手間かかってしまううえ、クッション厚が確保しづらい点も相まって、シエンタの3列目シートはフリードよりも“緊急用”という性格が強く、座り心地も劣ると言わざるを得ない。
その他にも、5人乗りのフリードプラスは極端に低い荷室床面を活用できることから、キャンパーや車中泊ユーザーに加え、自転車のトランスポーターとして指名買いされるケースもあるようだ。
また、ハイブリッドモデル同士の燃費差は大きいが、ガソリンモデルはそれほど差がない点も特徴だ。さらに新型シエンタの4WDはハイブリッドモデルにしか設定されないが、フリードはガソリンモデルでも4WDを選べるという強みがある。加えて、外観や内装デザインの違いも少なからず影響していることだろう。
こういった細かな需要に応えられる点が、フリードの人気が簡単には衰えない理由と言えそうだ。
とはいえ、2024年3月の販売台数がシエンタを上回った背景にあるのは、年度末決算の値引きも大きく影響していることは想像に難くない。
もし、ホンダが在庫車処分を始めているとしたら、新型フリードの登場時期はそれほど遠くないと予想できる。以上のような特徴がどのように変化するかも新型フリードの注目点だ。
新型フリードの登場でコンパクトミニバン市場はどうなる?
コンパクトミニバンとは、維持費を抑えるためエンジン排気量を1.5L以下に抑えつつ、全長4.3m前後の5ナンバーサイズボディに電動スライドドアが備わり、6名以上の乗車が可能なクルマを指す。
この条件に合致するクルマは現状ではフリードとシエンタしかない。
だが、条件をわずかに緩和するだけでライバル候補は一気に増える。乗車定員5名以下ならルノー・カングーやシトロエン・ベルランゴ。全長4m以下のクルマを含めればトヨタ・ルーミーやダイハツ・トール、スズキ・ソリオや三菱・デリカD:2なども候補に挙がる。
もっともライバルに近い存在は日産NV200バネットだ。ただし、NV200バネットには最大で7名が乗車可能な広い室内空間が備わるものの、エンジン排気量は1.6Lであるうえ商用車ベースであるため直接の対抗馬とするにはやや無理がある。
その日産も、以前からコンパクトミニバン市場に参入するという噂が絶えないが、ここへ来てそれが信憑性を帯びてきている。
2024年3月に公開された経営計画のなかで、日産の内田誠社長は「日本市場に5車種の新型車を投入する」と述べた。ライバルがフリードとシエンタの2台しか存在しないコンパクトミニバン市場は日産にとって格好のターゲットであろう。
ただしフリードとシエンタの関係から分かるように、条件が著しく限定されるコンパクトミニバンで人気を奪うには、フリードにもシエンタにもない価値が求められる。
日産が擁するe-POWERなら、コンパクトミニバンに新しい付加価値を与えられるだろう。しかしe-POWERは一般的なハイブリッドカーに比べて大型のバッテリーを搭載する必要があるため、もっとも肝心な利便性と経済性が必ず犠牲になってしまう。
かといって、いたずらにボディを拡大すれば今度は自社のセレナと共食いがはじまる。その点では、自社でMクラスのミニバンを持たず、軽自動車開発で培った省スペースノウハウが活かせるスズキのほうが参入障壁は低いと言えそうだ。
いずれにせよ、今後のコンパクトミニバン市場の動向は、登場が待たれる新型フリードの完成度次第で大きく変わるだろう。