「R」が20周年ならゴルフは50周年……そのスポーティグレードはやっぱりGTI!フォルクスワーゲンゴルフGTIの走りを再検証!! ゴルフRとの違いは?

フォルクスワーゲン(VW)のスポーツイメージの旗手は強力なターボエンジンにトルクベクタリング4WDを組み合わせた「R」シリーズ。すでに登場から20年が経過した同シリーズだが、「R」が登場するまでそのポジションを担ってきたのが「GTI」だ。しかし、走りのトップグレードの地位を「R」に譲った今でも、「GTI」のイメージとブランドは揺るぎない。では、「R」と「GTI」では何がどのように違うのか?あるいはその走りの哲学、テイストに相通ずるものがあるのか?「R」シリーズに続いて山田弘樹が読み解いていく。
REPORT:山田弘樹(YAMADA Kouki) PHOTO:MotorFan.jp/VW

ゴルフRとゴルフGTI……その違いは?

Rシリーズが登場して20年以上の歳月が経ったわけだが、それまでフォルクスワーゲンの絶対的なアイコンは「GTI」だった。いや、今でもその人気は高く、「現実的なハイパフォーマンスモデル」の担い手として、その威厳は保たれている。

ゴルフGTI

ではRとGTIの違いは、何なのか?
それは端的に言えば、パワーの違いと言えるだろう。数字だけを見れば現在は、300ps以下がGTIで、300ps以上がRという区分になる。

ゴルフRの「R」20周年記念車「20Years」。

歴史を紐解けばゴルフGTIは直列4気筒エンジンを搭載したゴルフであり、いっぽうで第3世代には2.8Lの狭角V型6気筒エンジンを搭載した「VR6」が登場した。このVR6は次世代に同じく狭角の3.2V型6気筒へと発展し、250 psの高出力に対して4MOTIONを組み合わせた「R32」へと進化。Rのイニシャルからもわかる通り、グランツーリスモ的な性格が、よりレーシングな方向性へと路線変更された。

第3世代に追加された「VR6」。「R」との違いはFFであること。 (PHOTO:VW)
第4世代から「 R32」を設定。4WDを採用した。(PHOTO:VW)

そしてこのV6エンジンがダウンサイジングの流れからゴルフGTIと同じ「EA888」に統一され、「ゴルフR」が誕生して現在に至るという経緯だ。
つまり第3世代まではホットハッチとして君臨したゴルフGTIも、第4世代からはその座をRシリーズに受け渡したことになる。

RはR、GTIはGTI……それぞれ独自の道で進化

しかしこれによってゴルフGTIは、より大きな自由を得たと思う。なぜなら性能を先鋭化させる必要がなくなった代わりに、素晴らしいドライバビリティを両立できるようになったからだ。

事実連綿と磨き上げられたトータルパフォーマンスの高さは、第7世代目にしてひとつの頂点に達した。内外装は当然のことながら、乗り心地とハンドリングを高い次元でバランスさせ、ゴルフGTIはCセグメントの絶対王者になった。
そんなゴルフ GTIは2019年に第8世代へと進化したわけだが、しかし筆者はこれが日本上陸を果たしたとき、正直「その良さが失われてしまった」と感じた。前述した最大のセリングポイントである、ドライバビリティが悪化したからだ。

2012年に登場し、世界的に高い評価を受けた第7世代。
第8世代へのモデルチェンジは2019年。

その理由は、極めてシンプル。この時期フォルクスワーゲンは、極端に低燃費性能を追い求めていた。時代は電動化に向かっており、フォルクスワーゲン自身もディーゼルゲートでの失敗を払拭するべく、CO2排出量の削減にはかなりセンシティブだったはずである。
よってエンジンこそゴルフGTIは2.0L直列4気筒「EA888」を踏襲したが、標準モデルは「eTSI」として、初めて48Vのマイルドハイブリッド車となった。

フォルクスワーゲン ゴルフヴァリアントの1.5Lエンジン
ゴルフヴァリアントの「eTSI Style」や「eTSI R-Line」に搭載される1.5L直列4気筒ターボエンジン。最高出力110ps/5500rpm、最大トルク200Nm/2000-3000rpm。WLTCモード燃費は18.0km/L、JC08モード燃費は20.4km/L。

そしてその足下に履かされたタイヤが、ゴルフとゴルフGTIから、あのしっとりとした乗り心地を奪った。ヒステリシスロスを防ぐべくソフトに採ったコンパウンドに対してケース剛性で変形を防ぎ、転がり抵抗を減らす。一見スポーティに若返ったとも言い訳できたその乗り味は、低負荷領域での突き上げ感を増やしてしまった。

足周りそのものは基本しなやかな動きをしているが、アダプティブ・シャシーコントロール「DCC」にカスタムモードを導入して細かく減衰力調整を可能にしたのは、電動化の進化を見せつけると同時に、こうしたハーシュネスに対応したかったからではないか。

ドライビングプロファイル機能によりDCCを設定可能(画像はGTI/PHOTO:VW)

タイヤの違いで印象が大きく変わった

しかし今回の試乗車は、こうした過去の印象が、いとも簡単に拭い去られしまった。答えは同じく簡単で、その足下にはよりしなやかなタイヤがチョイスされていたからだ。

試乗車にはオプションの19インチホイールが装着され、ゴルフRと同じく235/35R19サイズのグッドイヤー・イーグルF1スーパースポーツを履いていた。

もしかしたら欧州メーカーの常として、ダンパーやブッシュのコンプライアンスも同じくバランスされたのかもしれない。とはいえ標準仕様のゴルフでも、タイヤを変えただけでその乗り味が断然良くなった経験を踏まえると、最も大きな要因はタイヤだと思う。さらに言えばフォルクスワーゲンが燃費性能を捨てるわけはないから、試乗車のタイヤが低燃費性能を確保しつつも、乗り心地をも確保していたということになる。

つまりフォルクスワーゲンは、第8世代のデビューで気合いを入れすぎてしまったのだろう。これもひとつの、ティピカルなドイツ気質だと言える。

こうして第8世代のゴルフGTIは、かつてのクオリティをサラリと取り戻した。2.0Lにして245ps/370Nmを発生する直列4気筒ターボはシビック タイプRやルノー・メガーヌR.S.の300psに比べれば数字的には見劣りするが、300ps以上の高出力は「R」が受け持つ領域だから問題ではない。むしろ素晴らしいのは、GTIがそのパワーをリアルに使い切れることだ。

ゴルフGTIのEA888エンジン。2.0L水冷直列4気筒DOHC16バルブインタークーラーターボの仕様は「R」と同様ながら、出力は245ps/370Nm(R:300ps/42.8kgm)となる。

急激なデジタル化や先進安全装備にコストを奪われインテリアの質感は10.5インチのモニターや小さなシフトノブ(というよりスイッチ)以外大きく向上しなかった。

また操舵時に手の平が押してしまうスポークのスイッチやエアコンの調整パネルは極めて扱いにくいが、その乗り味が良くなるだけでこうしたデジタル化への挑戦をも、前向きに受け入れられるようになってくる。
やはりクルマは、走らせてこそなのだ。

インテリははGTI伝統の赤ライン入りのチェック柄。
シートバックにはGTIのロゴがレッドで刺繍される。
リヤシートも同様のチェック柄。
ゴルフGTI
・Specification
ボディサイズ:全長4295mm×全幅1790mm×全高1465mm
ホイールベース:2620mm
車両重量:1430kg
エンジン:1984cc 水冷直列4気筒DOHC16バルブ・インタークーラーターボ
最高出力:245ps(180kW)/5000rpm-6500rpm
最大トルク:37.7kgm(370Nm)/1600rpm-4300rpm
燃料:ハイオク51L
トランスミッション:7速DSG
サスペンション:Fマクファーソンストラット/R4リンク
ブレーキ:F/Rベンチレーテッドディスク
タイヤ・ホイール:225/40R18(オプション:235/35R19)
価格:525万円

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

自動車雑誌の編集部員を経てフリーランスに。編集部在籍時代に「VW GTi CUP」でレースを経験し、その後は…