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重くなりすぎた戦車
「M1エイブラムス」シリーズは、アメリカ軍の主力戦車として不動の地位を築いてきた。誕生時に105mm口径だった主砲は120mm滑腔砲となり、装甲や防護機能の強化など、段階的な改良を経て、現在では最新型の「M1A2 SEPv3」が登場している(「SEP」とは「システム強化パッケージ」の略で、その「バージョン3」という意味)。
しかし、段階的な改良とはすなわち「新しい装備を追加する」ことであり、改良のたびに重量が増加した。「SEPv3」は一両70トン近くにもなる(なお、日本の戦車は地理的制約から重いと言われる90式戦車でも50トン程度だが、重量増加の傾向は西側戦車全体で見られる)。陸軍はさらなる改良型である「SEPv4」の開発を進めていたが、昨年9月に計画を破棄し、先進的な能力を備えた次世代戦闘車両「M1E3」の開発を発表した。
重量軽減とハイブリッド化
M1E3にはさまざまな新機能の搭載が予想されているが、陸軍は「重量の軽減」と「ハイブリッド化」の2点を重視しているようだ。アメリカ国内の報道によれば、計画担当者は「重量を60トン以下にする」と発言している(発言内の「60トン」はヤード・ポンド法に基づく「ショート・トン」であり、日本で用いる「メトリック・トン」に換算すると54.4トン)。
この2点が重視される背景には、輸送や補給の問題がある。まず、重すぎる戦車は迅速な展開の障害となる。日本でも重い90式戦車は長距離輸送(トレーラーや船舶による輸送)の負担が大きく、一部の橋梁が通行できないといった弊害があり、後継の10式戦車が大幅に軽量化されている。
ハイブリッド化(ディーゼル+モーター駆動)には燃料消費の軽減が期待されている。現在、ひとつの戦車師団が1日に消費する燃料は50万ガロン(190万リットル)に達し、前進する部隊に追随する長大な補給トラックの車列は、戦場では負けなしの戦車部隊にとって重大な“弱点”となのだ。
ハイブリッド化には、ほかにもメリットがある。まず、モーター駆動による「サイレント・ドライブ(静音移動)/サイレント・ウォッチ(静音監視)」能力により隠密性と生存性が高まること。そして、低速時に大トルクを発揮できるため、停車状態からの加速性向上が期待できる。また、各種のハイテク電子装備が増えたことで、電力需要が高まっていることもハイブリッド化を後押ししている。
M1E3の登場は2030年代……気になる日本の新型戦車は?
M1E3は2030年代初めの配備を目指している。欧州各国でも次世代戦車計画がスタートしており、こちらも2030年代を見込んでいる。にわかに各国で戦車開発が盛り上がっている背景には、第2次世界大戦以来の大規模な侵略戦争を開始したロシアや、覇権主義的な言動を繰り返す中国の脅威がある。
さて、日本はこれまでおおよそ15~20年間隔で新型戦車を導入している。この計算で言えば日本もまた2030年代に次期戦車が導入される可能性があるだろう。表立った動きは見えないが、どうやら水面下では次期戦車に向けた動きがあるとも聞く。M1E3が求める次世代戦車のエッセンスは、日本の次期戦車にも少なからぬ影響を与えると思われるだけに、今後とも注目していきたい。