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■ミッドシップオープン「MR-S」にシーケンシャルMTを追加
2000(平成12)年8月4日、トヨタは1999年にデビューしたMRオープン「MR-S」に、シーケンシャルMT仕様を追加することを発表(発売は8月21日)。シーケンシャルMTは、クラッチ操作を自動化し、手元のシフトアップ/rダウン操作によって1速ずつシフトチェンジする、レーシングカーで採用されているトランスミッションである。
MR2の後継としてクーペからオープンに変貌したMR-S
MR-Sは、1984年にデビューした「MR2」の実質的な後継モデルとして、1999年にデビューした。
クーペスタイルだったMR2から、フルオープンに変貌。ショートオーバーハングとロングホイールベース化したMR-Sは、シャープなハンドリング特性と高い操縦安定性、さらにオープンカーならではの爽快感が得られることから、大きな注目を集めた。
パワートレインは、シート背後に横置き搭載した最高出力140psの1.8L直4 DOHCエンジンと5速MTの組み合わせ。エンジン性能は、スポーツモデルとしては平凡だが、車重970kgという軽量ボディのおかげで、走りは俊敏だった。
MTのダイレクト感とATの利便性を兼ね備えたシーケンシャルMT
発売の翌年2000年に、MR-Sに新たに搭載されたシーケンシャルMTは、クラッチ操作なしにシフトレバーの操作によって、1速ずつシフトアップ/ダウンする電子制御のMTであり、セミオートマチックミッションとも呼ばれる。
基本的な内部構造はMTで、シフトチェンジを電子制御の油圧アクチュエーターで行う。シフトレンジは、「R」、「N」および「S(シーケンシャル)のシフトアップ用+」と「Sのシフトダウン用-」の4つで、ATの「D」に相当するレンジはなく、何速かどうかはメーター内に表示される。
シフトレバーを前後(+、-)に動かすことで、自動的にクラッチが切れ、ギアチェンジが行なわれると、再びクラッチがミートされるのだ。
車両価格は、5MT車より7.5万円高い195.5万円(MR-S)と205.5万円(同Sエディション)。当時の大卒初任給は19.7万円程度(現在は約23万円)なので、単純計算では現在の価値で約228万円(MR-S)に相当する。
徹底したコスト低減で実現した異例の低価格設定だったが、クルマの性格上、販売は限定的だった。また、自動変速モードがなく、変速操作は手動で行なう必要があったこと、変速時に微妙なショックがあったことが一部指摘されていた。
自動MT特有のシフトショックが日本での普及の障壁に
MR-Sが生産を終えた2007年以降、シーケンシャルMTが日本で登場することはなかったが、2014年にスズキがAGS(オートギアシフト)という名称でAMT(自動MT)を市販化した。AMTは、手動による操作も必要としない変速すべてをATのように自動で行なう方式である。
AGSでは、5速MTをベースにクラッチ操作とシフト操作を電動油圧アクチュエーターによって自動で行い、ATのようにすべて自動で変速するD(ドライブモード)モードに加えて、シフト操作で変速するM(マニュアル)モードも設定されていた。
スズキは、AGSを軽トラ「キャリイ」を手始めに、アルトなど軽自動車やソリオ、スイフトなどのハイブリッドに採用していたが、慣れない変速やショックが不評で徐々に採用は減少し、現在の採用は「ソリオ」、「ソリオバンディット」に限られている。
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シーケンシャルMTは特殊だが、現在欧州ではAMTが小型車で一般的なトランスミッションとして採用されるケースが多い。欧州は渋滞が少なく、比較的高速の定常走行が多いので、AMT特有の変速ショックがあまり気にならない。一方、日本では渋滞が多く、ストップアンドゴーや低速走行が多いため、変速時のギクシャク感が目立ち、ユーザーには受け入れてもらえず、乗用車では採用されない。シーケンシャルMTも同様だが、純粋にスポーツ走行を楽しむならひとつの答えかもしれない。
毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれない。