世界の「ユーノスロードスター」、その人馬一体の魅力とは?【歴史に残るクルマと技術055】

ユーノスロードスター
ユーノスロードスター
現在もマツダで継承されている開発コンセプト“人馬一体”をベースに初めて開発されたのが、1989年にデビューした「ユーノスロードスター(NA型)」だ。曲面基調のシンプルなスタイリングと軽快な走り、優れたハンドリング性能、そしてリーズナブルな価格で、たちまち世界中で大ヒット、ライトウェイトスポーツブームを巻き起こし、現在もその魅力は輝き続けている。
TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)/PHOTO:三栄・ユーノスロードスターのすべて

自在に操れ、軽快な走りを楽しむ“人馬一体”とは

ユーノスロードスター
ユーノスロードスター発表試乗会時

マツダの開発コンセプト“人馬一体”は、ユーノスロードスターで初めて採用された。人馬一体とは、乗り手がまるで自分の手足のように馬を操り、また馬も乗り手の要求に完璧に応え、馬と人が一体となったかのように、自由自在に走り回ることを意味する。

ユーノスロードスター
ユーノスロードスター

クルマで言えば、ステアリングを握るドライバーが、クルマのひとつひとつの動きを感じながら、手足のようにコントロールできるということだ。ロードスターは、絶対的な速さやパワーでなく、誰が乗っても容易に操れて、純粋に軽快な走りを楽しむオープンスポーツを目指したのだ。

ユーノスロードスター
ユーノスロードスター

欧米では、1950年代から1960年代にかけて、英国のMGやトライアンフ、ロータスなどが1.0L~2.0Lのエンジンを搭載した軽量小型の2人乗りオープンスポーツが人気を集めた時期があった。
ロードスターが日本に先行して1989年5月に米国で「MX-5ミアータ」の車名で発売されたときには、先の英国製小型オープンカーの再来と、大きな注目を集めた。そして、その3ヶ月後にロードスターは日本でデビューを果たしたのだ。

軽量コンパクトなボディで軽快な走りを実現したロードスター

車名のユーノスロードスターの“ユーノス”は、当時マツダが展開していた5チャンネル(販売系列)のひとつで、ユーノスは高級車などのスペシャリティカーを扱う販売チャンネルの名称である。

ユーノスロードスター
1989年にデビューして世界中で大ヒットを記録した「ユーノスロードスター(NA)」

ロードスターの特徴は、スポーツカーらしい軽快な走りを実現するための徹底した軽量コンパクト化と、フロントミッドシップで実現される50:50の理想的な前後重量配分。これによって、スポーツカーらしいレスポンスに優れたハンドリング性能と操縦安定性が実現されたのだ。

ユーノスロードスター
「ユーノスロードスター」の和テイストを醸し出すコクピット

エクステリアは、能面“若女”をモチーフにした和のテイストを生かした曲面基調のデザイン。インテリアは茶室のイメージを求めたシンプルさが特徴。パワートレインは、あえてターボは使わず最高出力120ps/最大トルク14kgmを発揮する1.6L直4 DOHCエンジンB6と5速MTの組み合わせで、エンジンを縦置きにしたフロントミッドシップである。足回りは、贅沢にも前後ともダブルウィッシュボーンが採用された。

ユーノスロードスター
ユーノスロードスターに搭載される1.6LのB6エンジン

車両価格は、標準グレードの5速MT車が170万円、半年後に追加された4速AT車が174万円と、誰でも手にすることができる低価格だった。ちなみに当時の大卒初任給は、17万円程度(現在は、約23万円)なので、単純計算では現在の価値で約230万円(5速MT)に相当する。
ロードスターは、発売と同時にバックオーダーを抱えるほど好調に滑り出し、月間台数は8000台を超え、その年の販売台数は僅か4ヶ月で2万5000台に達し、世界中でライトウェイトスポーツ旋風を巻き起こしたのだ。

ユーノスロードスター
ユーノスロードスター
ユーノスロードスター
ユーノスロードスター

2人乗りオープンスポーツの累計販売台数世界一としてギネス更新中

その後もロードスターは、2代目(NB:1998年~)、3代目(NC:2005年~)、現在の4代目(ND:2015年~)へと進化を続け、相変わらず多くのファンを魅了している。
それを表すようにロードスターは、2005年に英国のMGBを抜いて、“2人乗りのオープンスポーツ”として生産累計台数53万台で世界一としてギネスブックに認定され、その後も2007年80万台、2011年90万台、2017年に累計100万台を超え、2024年現在もギネス記録を更新中だ。

ユーノスロードスター
ユーノスロードスターの走りはまさに人馬一体

いろいろなオープンカーの呼び方

余談になるが、オープンカーという呼び方は和製英語で海外では通じない。オープンカーには、大別するとベース車のルーフを取っ払ったタイプと専用設計したタイプの2種類がある。

ホンダ「シティ・カブリオレ」
1984年にデビューした国産乗用車初の4シーターオープンモデルのホンダ「シティ・カブリオレ」

・ベース車があるオープンカーは、“カブリオレ”や“コンバーチブル”
「ビートル・カプリオレ」や「ミニ・コンバーチブル」、日本車では「シティ・カプリオレ」、「マーチ・カブリオレ」なども多くのカブリオレが設定されている。ベース車があるので、オープンカー専用設計のクルマに比べて実用性は高い。ちなみに、カブリオレはフランス車やドイツ車、コンバーチブルは主に米国車や英国車で使われることが多い。両車に機構的な違いはない。

・専用設計されたオープンカーは、“ロードスター”や“スパイダー”
ロードスターは、もともと屋根のない幌馬車を指す言葉。マツダの「ロードスター」やホンダ「S2000」は、ロードスターに分類される。スパイダーは、ロードスターと同様に一般的に2ドア/2シーターのオープンカーを指す。スパイダーはイタリア車で使われることが多い。

ホンダ「S2000」
1999年4月にデビューしたオープンスポーツのホンダ「S2000」

その他に、“スピードスター”やイタリアではスパイダー以外に“バルケット”という呼び方もある。
以上のようなオープンカーの呼び方は、あくまで目安であり、実際には国やメーカーで使い方はさまざまである。

ロードスターが誕生した1989年は、どんな年

日産「スカイラインGT-R(R32型)」
1989年にデビューした日産「スカイラインGT-R(R32型)」

1989年には、バブル全盛期ということもあり、ロードスターの他にも多くの注目モデルが登場した。日産自動車の「スカイラインGT-R(R32型)」、トヨタの高級セダン「セルシオ」、スバル「レガシィ」などである。

トヨタ・セルシオ
1989年にデビューした高級車、トヨタ「セルシオ」。海外名「レクサスLS400」

16年ぶりに復活したスカイラインGT-R(R32)は、2.6L直6ツインターボエンジン(RB26DETT)を搭載し、ATTESA E-TS(電子制御式トルクスプリット4WD)とHICAS(4輪操舵機構)を装備したハイテクマシン。セルシオは、海外ではレクサスブランドからLS400の名で販売され、4.0L V8エンジンを搭載して欧州高級車に対抗した高級車。レガシィは、セダンはWRCで活躍、ツーリングワゴンはステーションワゴンブームを巻き起こした。

スバル「レガシィ・セダン」
1989年にデビューしたスバル「レガシィ・セダン」

自動車以外では、昭和天皇が崩御、消費税(3%)がスタート、中国天安門事件が勃発、ベルリンの壁が崩壊した。人気映画「魔女の宅急便」と「バットマン」が放映、任天堂「ゲームボーイ」が発売された。
また、ガソリン134円/L、ビール大瓶318円、コーヒー一杯336円、ラーメン436円、カレー580円、アンパン98円の時代だった。

ユーノスロードスター
可愛い見た目からユーノスロードスターは女性ウケも

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手頃な価格で、小気味よい走りが楽しめるライトウェイトオープンスポーツとして、世界中から称賛されたロードスター。世界中のマニアにオープンスポーツのすばらしさを提供した、日本の歴史に残るクルマであることに、間違いない。

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著者プロフィール

竹村 純 近影

竹村 純

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までを…