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全方位へ認識範囲を拡大したHonda SENSING 360が2022年登場!
ホンダは21年4月に三部敏宏氏が社長に就任した際、「2050年に全世界でホンダの二輪・四輪車が関与する交通事故死者ゼロ」というヴィジョンを発表。そこに至るまでの中間目標として、「2030年に全世界でホンダの二輪・四輪車が関与する交通事故死者半減」を掲げている。
これらを実現するために、ホンダはどのような研究開発を進めているのか。このほど、その発表・体験会が、(株)本田技術研究所のさくらテストコース(栃木県さくら市)で開催された。メニューは非常に盛りだくさんだったため、その模様を数回に分けてお伝えしたい。
第一回目は、「すでに実用化された技術」と「来年、市場投入が予告されている技術」を紹介しよう。前者は安全運転支援システムの “Honda SENSING”、後者は全方位安全運転支援システムの“ Honda SENSING 360(ホンダ センシング サンロクマル)”だ。後者は来年、中国で発売されるモデルを皮切りに搭載が開始され、2030年までに先進国向けの四輪車全機種へ適用するとの目標が掲げられている。
Honda SENSINGの最新仕様では5つの機能を追加
Honda SENSINGは、15年にオデッセイに搭載されて初登場。ミリ波レーダーと単眼カメラで前方の状況を把握し、“衝突軽減ブレーキ(CMBS)”や“誤発進抑制機能”など、8つの安全運転支援機能を装備していた。これを20年に全面刷新したのが、現在のHonda SENSING(フィットから搭載)。前方の状況を把握するセンサーは、フロントワイドビューカメラ(単眼広角カメラ)のみ、前後近距離を把握するのは超音波センサー(各4)とシンプル化する一方、ディープラーニングを利用した画像解析技術によって、認識性能を飛躍的に向上させ、新たに5つの機能を追加したものだ。
今回、体験させてもらったのは、一般道まで対応可能になった“路外逸脱抑制機能”と、“衝突軽減ブレーキ(CMBS)”の自動二輪車検知機能だ。
砂利や草などの路外も検知して逸脱を抑制【Honda SENSING】
路外逸脱抑制機能は、自車がウィンカーを出さずに車線を踏み越えそうになると、抑止方向のアシスト力をステアリングに発生させるもの。従来までは、車線の両側に引かれた白線を検知していたため、両側に白線が引かれていることが担保できる道路=自動車専用道や高速道路での使用に限られており、車速も「約60km/h以上」との制限があった。
しかし実際に路外逸脱する事故は、ガードレールがないことも多い一般道が多数を占める。そこでカメラの解像度を高め、画像解析技術も高度化することで、アファルトの境目や縁石も認識できるように改良。作動可能速度を約30km/hまで低下させ、一般道での路外逸脱も抑止できるようにした。
体験走行してみると、操舵アシストに違和感はまったくなく、ごく自然に車線復帰を助けてくれる。逆に心配になったのが、依存運転だ。スマートフォンを見ながら運転していてふらついても、ごく自然に修正してくれそうなので、スマホ運転補助装置になりはしないかと不安になった。
どうせなら、一定時間に複数回、アシストが作動した場合、シートベルトの引き込みで警告を与えるところまでやっても良いのではないか。短時間にふらつく頻度が高いということは、スマホでなくても覚醒度が低下している可能性が考えられるのだから、居眠り運転の抑止にも効果があるのではないかと思う。
衝突軽減ブレーキで二輪車も検知することが可能に【Honda SENSING】
もうひとつ体験させていただいたのが、“衝突軽減ブレーキ(CMBS)”の自動二輪車検知機能。対四輪より重篤な結果を招きやすい対二輪車追突事故の軽減を狙ったもので、停止中/走行中いずれの自動二輪でも衝突軽減ブレーキが作動する。これも、二輪車の識別精度が信頼できるレベルに達したことにより実現したものだ。
こちらも作動はスムーズで、停止中の二輪車に対しては、1mを少し下回る程度の距離で停止した。停止後は、停止保持までは行われず、クリープで進んでしまうが、現実的には、システムのブレーキが作動すればドライバーは反射的にブレーキペダルを踏むだろうから、停止後の衝突は起こらないだろう。
検知性能強化により対象事故を拡大したHonda SENSING 360
続いて体験させてもらったのが、Honda SENSING 360。市販化されているHonda SENSINGに対し、より遠方の状況が把握できる長距離ミリ波レーダーをフロントに1基、各バンパーコーナーに中距離広角ミリ波レーダーを計4基追加したのが、ハードウェア上の違いだ。
これらによって、周辺監視機能を自車の周囲360度に拡大し、衝突軽減ブレーキの対応可能シーン拡大と、新機能の追加を行っている。
まず、前側方の認識機能が高まったことから、衝突軽減ブレーキは、右左折時の横断歩行者や交差交通に対しても作動するようになった。さらに、見通しの悪い交差点から幹線道路に出る際、フロントバンパーコーナーのミリ波レーダーで交差交通の有無を検知し、衝突可能性がある場合は、警報音と表示でドライバーに告知し、出会い頭の衝突事故回避を支援する。もうひとつ、先行車に追随して走行している際に、先行車が停車車両を寸前で回避した場合でも、衝突軽減ブレーキが作動するようになった。
そのほかにも、車線変更時に操舵支援を行う機能と、クルーズコントロール使用中に、カーブの曲率に合わせて減速する機能など、合計5種類の機能が追加されているが、今回、体験させていただいたのは、前から三つだ。
交差点を横断中の歩行者と出会い頭の衝突を回避【Honda SENSING 360】
最初の機能の体験は、自車が交差点を左折する設定。対向してくる歩行者に気を取られ、同方向(左折する自車の左)から進んでくる歩行者に気付かなかったという状況が設定されていたのだが、左から進んでくる歩行者ダミーがちょうど自車の正面に来た当たりでブレーキが作動し、50cmほどの間隔で止まった。
みごとな精度なのだが、ひとつ気になったのは、「“横断歩行者等妨害違反”と、どう折り合いを付けるのか」ということ。デモ機は停止の精度をアピールする目的もあり、歩行者がぶつからずに通り過ぎたり、クルマの手前で止まれるタイミングでは作動しないようにしていたが、後者のままでは“横断歩行者等妨害違反”に抵触してしまう。
このシステムは、あくまで衝突の防止をアシストするためのものであり、法規を守った走行を行うのはドライバーの義務であるとはいえ、横断可能性のある歩行者を検出した段階で、リスクレベルに応じた警報音を歩行者のいる側から鳴らす、などの対応ができれば、より良いものになるのではないか。
見通しの悪い交差点で二輪車との衝突を回避【Honda SENSING 360】
ふたつ目の機能は、衝立で模擬した見通しの悪い交差点で発進待ちをしている際、右から交差交通(80km/hで走行してくる自動二輪)が接近してくる場面設定。一時停止から再発進しようとブレーキペダルから足を放すと、自動二輪を検知して警報が鳴った。これからカーブミラーが凍結する時期に入るので、寒い地域では非常に有効な機能だ。
ただし、警報は音と表示だけで、ブレーキは介入しない。なぜ?と問えば、「懸垂式モノレールを検知することがあるから」とのこと。レーダー波は円形に放射されるため、水平方向に広角化すると、垂直方向にも広がってしまい、道路の上を通っている懸垂式モノレール(湘南モノレールのようにぶら下がって走るもの)まで捕捉してしまうのだそう。一時停止からの再発進が前提なので、警報だけで十分効果的だとはいえ、エンジニアとしてはブレーキ介入までやりたかったのではないかと思う。
前走車が車線変更した先に停車していた車両との衝突を回避【Honda SENSING 360】
試乗を終えて気付いたのは、「このハードウェアがあれば、“あおられ運転抑止機能”が作れそうだ」ということ。あおられ運転の原因のひとつに、高速道路の追い越し車線を後続車に気付かず走り続けることがあるが、自車がどの車線を走行しているか、走行車線にスペースはあるか、制限速度は何km/hかは、カメラの画像情報からわかる。後方から自車より速いクルマが近づいてきているかどうかも、後方のレーダーで把握できるから、条件が揃った段階で「走行車線に復帰して下さい」あるいは「後続車に道を譲りましょう」などのコーションをディスプレイに表示させるのは、容易なのではないか。
日本仕様がいつ発売されるかは、まだ正式には発表されていないが、こうした事案にも対応したシステムになっているかどうか、楽しみに待ちたい。