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同じ1GD-FTV型エンジンでも、騒音と振動が少ないのは意外にも「70」
昨年(2024年)は、間違いなくトヨタ「ランドクルーザー」イヤーであったと筆者は感じる。スズキ「ジムニー」が2018年より再開拓してきた“クロスカントリー4WD”という市場があったからという見方もあるが、やはりランドクルーザーブランドが持つ力は凄いのだなと思う。
近年、ランドクルーザーはSUV市場を意識した製品に寄っていたが、2023年末の「ランドクルーザー70」の日本再々販売、2024年4月のニューモデル「ランドクルーザー250」発売により、ブランドの原点に回帰するという方向に修正してきたのである。
もはやスタンダードとなってしまったSUVというカテゴリーに与しているようでは、市場の賛同を得られないということになったのかもしれない。ジムニーシリーズの好調ぶりを見ればわかるが、多くのユーザーは洗練された都会的な意匠のクルマにはもはや飽きてしまったのではないだろうか。
たしかにキャンプブームという追い風はあっただろうが、その終焉が囁かれている昨今において、これだけクロスカントリー4WDが売れるのは、それが違う価値を持っていることを示しているのだと思うのである。
とにかく、70、250両ランドクルーザーは、発売する前から注文が殺到して、あっという間にバックオーダー状態に。70にいたっては、2026年生産分まで受注が入ったことで、もはや買えないクルマになってしまった。輸出分も含めて、トヨタ車体・吉原工場だけで造っていることを考えればそれも頷けるが、欲しい身としては何とかならないものかと言いたい。
それはさておき、70と250は同じブランドでも、まったく毛色の違うクルマだ。70は、ランドクルーザーブランドを確立した「40」の後継車として1984年に誕生した。第一世代の70は各部に40の意匠の影響を色濃く残したクルマで、まさにヘビーデューティと呼ぶにふさわしいクルマだった。
80年代に興った“四駆ブーム”や“パリダカブーム”によって一躍脚光を浴びることになるが、1ナンバー車のみというユーザーには高いハードルがアダとなって、三菱「パジェロ」やいすゞ「ビッグホーン」ほど販売が伸びなかったという経緯がある。それゆえ、70は“男らしい真のクロカン四駆”というイメージが増幅されたのではないだろうか。
その後、70は国内のNOx規制の影響、四駆ブームの終焉で日本での歴史を一旦終えることになる。だが、2014年に第二世代モデルが1年間限定(安全基準の影響で)で再販。5ドアバンの76と、ダブルキャブピックトラックの79がラインナップされたが、4.0LV6ガソリンエンジン+5速MTというパワートレーンだったことから、やはり一般ユーザーには手が伸びにくいモデルであったことは間違いない。
そして一昨年、ついにカタログモデルというカタチで日本市場に復活。2.8Lディーゼルエンジン+6速ATという、従来の70にはなかった基軸を打ち出してきたが、これは日本というよりはオーストラリアの市場ニーズが大きかったようだ。日本でメリットがあるとしたら、3ナンバーワゴンになったことで、車検と高速料金の両面でユーザーフレンドリーになっている。
ただし、昨今は日本でもAT限定免許の保持者が増えており、そうした若年層でも70に乗れるようなったというのは、大きなトピックスであると言えるかもしれない。
一方、250は「ランドクルーザープラド(150系)」の後継車として開発された。日本のトヨタはそれを販売戦略の関係で否定しているが、海外ではれっきとしたプラドの名前で引き続き販売されているのは事実だ。
従来、プラドといえば「ハイラックスサーフ(海外名4ランナー)」とシャシー回りを共有してきたが、今回はプラットフォームの事情もあって、車格が上の「ランドクルーザー300」と共有している。
いわゆる「GA-F」プラットフォームというやつだが、使われている部品は300ほどハイグレードではない。だが、フロントスタビライザーの断切がスイッチでできる「SDM」を備えるなど、単独の技術も採用されている。
シリーズの中では2番手ということになるが、高級SUV路線からは完全に脱却し、エクステリアは50系などの影響を色濃く受けたものだ。トヨタは原点回帰したと謳っているが、個人的には70が仮に絶版した後の次世代ランドクルーザーの礎を作ったのではないかと感じている。
日本での搭載エンジンは現在、2.7Lガソリンエンジンと2.8Lディーゼルターボという150系時代と同じになっているが、将来的にはハイブリッドが追加される予定だ。
「70」はエンジンとトランスミッション本体に防音・制振対策を実施
片やヘビーデューティの70、片や最先端クロカン4WDの250ということで、並べられる選択肢とはならないかもしれない。しかし、少なからずどちらにするか悩んだ人もいるのではないだろうか。
そこで、今回改めて2台に試乗して比較することにしてみた。乗ったのは、共に1GD-FTVというディーゼルエンジンだ。トヨタ車に多く搭載されている基幹エンジンで、2015年以来、熟成を重ねてきたパワーユニットである。
さて、読者諸兄の中には、250と70を比べる必然があるのかと思う人もいるだろう。250は最新モデルで、フロントはダブルウイッシュボーン式サスペンション、電子デバイスも多く搭載されている。一方の70は40年選手で生粋のワークホース。フロントはリジッドのまま、リアはなんとリーフスプリングが使われている。本来なら同じ土俵に乗るクルマではないのである。比較については、最後に理由と結論を述べたい。
ここからは先を少々急ごう。ワインディング、高速道路、そしてダート路で試乗した結果、意外なことが見えてきた。全体的な乗り味やスタビリティでは、間違いなく250が勝っている。安全装備だって充実しているし、様々なデバイスのサポートは申し分がない。まさに日常で乗るには文句なしだ。
では70が断然劣っているのかというと、実は差は想像するほど大きくない。70は今回の仕様変更にあたり、向こう数十年は市場で通用するクルマに“大手術”してきた。手術のコアとなっているのは、2.8Lディーゼルエンジン+6速ATだ。70の大お得意様であるオーストラリアは、排ガス規制の影響で4.0LV6エンジンの継続使用ができない。そこで代わりにクリーンディーゼルである1GD-FTVに替えて、同時にニーズの多いATも採用することにした。
ところが、牽引するユーザーが多く、さらには砂漠部が広いオーストラリアでは、ATに大変な負担なかかることが試験でわかったのである。そこでまず行ったのがATの冷却性能を上げること。単純にラジエターコアを拡大すればいい話だが、新型車両ではない70には積載スペースの制約が大きい。そこでボンネットを上に拡大し、さらにコアを9度傾けることでようやく収納できたというのである。このボンネット拡大がきっかけとなり、今回大好評となっている丸目ヘッドライト顔にチェンジすることになったわけである。
さて、もうひとつの課題は、日本での3ナンバーワゴン化である。ワゴン化するにあたっては、それに付随する車外騒音規制値をクリアする必要がある。例えば250のようなフロントがインディペンデントサスペンションの場合は、足回りの稼動エリアが狭いのでエンジンルーム回りにまるっと防音材で蓋をすればいいわけだ。
ところが70の場合、フロントはアクスルが上下に動くリジッド式なので、それができない。そこでトヨタが施した対策というのが、エンジンとミッションのユニット本体に防音・防振対策をするという凄いワザだった。これは70以外、他のトヨタ車ではまだ採用されていないという。防振対策については、エンジンマウントゴムのチューニングも行い、まさに万全を期している。
こうしたバックボーンがあるため、同じエンジンを載せた250と70を乗り比べると、騒音と振動がまるで違うのである。ガラガラと前時代的な音が聞こえ、ステアリングやアクセルペダルにも振動が伝わってくる250に対して、70は嘘のように静かだ。
さらに70はリアサスを6枚の板バネから2枚に変えたこともあって、路面追従性と乗り心地が再販モデルと比べると大幅に向上している。ハンドリングや乗り心地の点で、そこまで250には劣っていないのである。唯一違うのは加速性能で、これは70がオフロード性能を考慮したギア比、最終減速比にしているからである。
たしかに快適という点では250は70より遙かに上かもしれないが、エアコンはマニュアルでも問題ないし、オーディオユニットはいくらでもいいものを付けられる。しかし、載っているエンジンのチューニングをアフターでするのは難しい。もし筆者が今後250を買うなら、ハイブリッド車を待ちたいと考える。
もっと言えば、ディーゼル搭載車を望むなら70を買った方がいいとさえ言いたい(買えるのが2年後だとしても)。安全装備だってきちっと付いているし、アダプティブではないがクルーズコントロールだって搭載している。かつて我慢して乗るクルマだった70は、今や一般ユーザーをまったく拒まない快適なヨンクになったのである。
ちなみに、「そんなのは70じゃない!」という昔気質のヨンク乗りの諸兄には、今後出るかもしれないナローボディ&2シーターをオススメしたい。昨年7月の群馬パーツショー(群馬トヨタグループ主催)に中東向けモデルが展示されていたのだが、日本でもプロユースとしてこうしたバリエーションが望まれているという。特に“公団系”からの要望が多いようで、トヨタもバリエーションの追加を真剣に検討しているようだ。もちろん1ナンバーになるわけだが、生粋の70ファンにはさほど関係ないだろう。