では、REはどうか。
REは吸気ポートから取り入れた空気がローターの回転に合わせて移動する。吸気/圧縮/燃焼のそれぞれの行程は、べつの部屋で行なわれる。そのため、H2と空気を混ぜて圧縮していった先でも、バックファイアが起きるような「熱い場所」がない。レシプロエンジンの場合は排気バルブ周辺がホットスポットであり、ここで水素が自着火してしまう。しかし、REはホットススポットができない。
このREの仕組みは、ガソリンを燃料に用いる場合は欠点だった。圧縮することで吸い込んだ空気を温めたいのだが、部屋が移動するため壁面がつぎつぎと新しく出現し、なかなか暖まらない。しかしH2を燃料とする場合は、これが吉と出る。
いずれH2REについては細かく解説したいと思う。今回はその序章である。マツダがRX-8ハイドロジェンREの試作に着手したのは、すでに15年前のことだ。内燃機関についての新たな知見と、REに利用できるデバイスの自由度は、当時と現在とでは比較にならない。だからREに期待する。
それにしても、なぜが自動車燃料としてふたたび注目され始めたのか。大きな背景はBEV(バッテリー電気自動車)に代表される電動車両普及に潜む問題点だ。「大量にBEVが普及すれば、ガソリン/軽油という化石燃料を使う場合に比べて劇的にCO2排出を抑制できる」と言われていたが、逆にBEVを運用するために増える排出があるため「差し引きそれほど劇的な削減にはならない」との指摘がある。
また、BEV普及を進めている欧州では、もっとも高価な部品である電池をアジア勢(日本、韓国、中国)に握られていることと、その電池の資源リサイクルシステムの構築が中国の電池価格攻勢によってコスト面で成立しにくいことなどが問題視されている。「BEVでは雇用を確保できない」という認識は産業界では常識化した。
再生可能エネルギーでH2を精製し、それを自動車で使う。FCEVの場合は99.99%という高純度H2が求められるが、内燃機関で使うなら純度70〜80%で充分という点も、利用研究が加速している背景だ。
エネルギーには政治が付き物であり、EUでも中国でも、BEV普及は政治の選択である。この点を忘れてはならない。H2燃料とH2REについては、回をあらためて解説しようと思う。