2.0Lターボ+9速ATのFRで940万円〜!? 新型メルセデス・ベンツVクラスはアルヴェルとは異なる路線のプレミアムミニバンだった!

メルセデス・ベンツのミニバン「Vクラス」が昨年末にマイナーチェンジを果たし、その国内導入モデルに試乗することができた。今回の変更点はフェイスリフトを中心とした内外装の変更のみだが、現行モデルたちとトーンを揃える形となったVクラスの見た目は、確かにマイナーチェンジ前よりも艶やかな印象となっていた。
REPORT:山田弘樹(YAMADA Kouki) PHOTO:MotorFan.jp

大型ラジエーターグリルとスリーポインテッドスターでブランドを強調

新型メルセデス・ベンツVクラス

そんな新型Vクラスの具体的な変更点はというと、まずはそのラジエターグリルが大型化された。ベーシックモデルとなるV220dと、今回試乗したlong、そしてextraーLongのグリルは中央に大きなスリーポインテッドスターを配置し、その周りにスターパターンをちりばめているのが一目でわかる特徴。さらに2本のルーバーが、これを水平に横切るデザインが与えられている。

V220d long(左)とV220d EXCLUSIVE long Platinum Suite(右)。

対して次に試乗したV220d EXCLUSIVE long Platinum Suite及びEXCLUSIVE extra long Black Suiteには、5本のクロームルーバーが採用されている。そしてグリルにスリーポインテッドスターが鎮座しない代わりに、ボンネットには可倒式オーナメントが採用された。

V220d EXCLUSIVE long Platinum Suite

またヘッドライトは全車マルチビームLEDを標準装備し、点灯時は「イルミネーテッドラジエターグリル」が併せて光るゴージャスぶりだ(V220d、同Long、extraーLongはオプション)。そしてリアコンビランプはベースがブラック、カバーがクリアのフルLEDとなった。

V220d long

エアサス採用ながらスタビリティ重視の硬めで足まわりは硬め

まず最初に試乗したのは、V220d longだ。ちなにみそのスリーサイズは全長5140mm(-10mm※)、全幅1930mm、全高1880mm(-50mm※)と、外観を変更したせいか全幅以外は少しサイズが小さくなっている。対してホイルベースは3200mmと変わらない。
※V220dアヴァンギャルドロング比

V220d long
V220d long
V220d long
V220d long
V220d long

久しぶりにVクラスを走らせて感じたのは、身のこなしの軽さだ。どっしり重ためだった印象の走行フィールは、タイヤをスーッと転がす現代的な走りに変わっている感じがした。

前述の通り今回は走行性能に対する変更を行なっていないが、ベーシックモデルのV220d以外はエアマチックサスペンションが標準装備となったらしい。しかしその割には乗り心地がソリッドだから、昨今の環境性能向上に併せて何かしら対策されているのかもしれない。内圧計を持って行かなかったのはちょっとしくじった。

ちなみに車重は試乗車がオプション装着車ということもあり、2520kgと先代V220dアバンギャルドロング(2420kg)と比べてけっこう増えている。対して燃費性能は12.9km/Lから12.6km/Lと、その落ち幅はわずかだ。そして当たり前だがその燃料は軽油である。

ドライビングポジションは、ミニバンらしく極めてアップライト。着座位置は適度に高く見晴らしがよいうえに、シャシーの直進安定性が高いからとても素直に運転できるが、質感のすこぶる高い本革シート(全席標準)やMBUX-2を搭載するスタイリッシュなインパネと、トラックみたいな着座姿勢のギャップはちょっと大きい。

横長の一体型ディスプレイが特徴のMBUX-2を採用したワイドスクリーンコックピットは、シンプルかつスタイリッシュ。
MBUX-2のメーター表示。
センターコンソールに集約されたインターフェイス。

乗り心地は、試乗開場周辺の路面がかなり荒れているせいもあったが、正直に言えば硬いと感じた。税込み975万円の価格を考えると庶民の筆者は魔法の絨毯のような乗り心地を想像してしまうが、エアサスを名乗るならもう少しクッションは効いていて欲しいと感じた。

V220d longのコックピット。試乗車はオプションのAMGラインパッケージが装着されており、カーボンルックインテリアとなっている。

とはいえメルセデスが、考えなしにこうしたNVH(Noise/Viberation/Harshness=騒音/振動/突き上げ)を許しているはずもない。つまりは前述したライントレース性の良さや燃費性能への対応、そして高速巡航時のスタビリティ確保を保つために、足周りに必要な硬さを与えているのだろう。

シートは本革で前席シートヒーターは標準装備。ただし、シートベンチレーターはオプションでも追加できない。

できることなら欧州よりスピードレンジが一段低い日本(や北米)仕様には、もう少し乗り心地に振った足周りを与えて欲しいが、こうした足まわりでも2015年から使い続けるボディに緩さを感じさせないのは見事だ。

国産プレミアムミニバンとは異なる2列目シートの考え方

こうしたメルセデスの走安性へのこだわりは、2列目シートにも表れている。具体的にはそのスライドが、マイナーチェンジされても国産モデルのようにスーッとは動いてくれない。レバーを引いても、グッと力を込めないとスライドしてくれないのだ。もしかしたらドイツ人の体格であれば、重たいとは感じないのかもしれないが。

V220d longの2列目シート。試乗車はオプションのエクスクルーシブシートパッケージ(112万2000円)が装着されていた。

しかしその分、セカンドシートの乗り心地は国産ミニバンと比べてかなりいい。荒れた路面を走らせても、常にシートが揺さぶられるような動きが出ない。

2列目シートに座る筆者(身長171cm)。オットマンとフットレストで快適。

もし国産モデルでこんなに3列目シートへのアクセスや、微調整がしにくい2列目シートを使ったら、クレームの嵐だろう。しかしメルセデスはこうすることで、走行中の快適性を優先したのではないだろうか。ミニバンやSUVの2列目シートは、その広々としたスペースでくつろぐために、かなり重たくできている。最近ではマッサージ機能やオットマンまでが装備される、特別席だ。

オプションのエクスクルーシブシートはレザーの材質こそ異なるが、V220d EXCLUSIVE long Platinum Suiteと機能的には同じ。本来、V220d longではフットレストも装着されない。

とはいえそれが根本で動いてしまったら、その良さも相殺されてしまう。外側にはスライドドアがあり、左右のシートレール幅を大きく取るのも難しい。こうした厳しい条件下での最適解が、メルセデス的にはこうだったのではないかと筆者は感じた。どうせ素早く動かせないのなら、いっそパワーシートにしてくれても良さそうだとも思ったが。

試乗車にはV220d longではオプションとなるパノラミックスライディングルーフが装着されていた。

ちなみに3列目シートは、3人掛けとなる分座面が狭い。また着座姿勢が直立気味なのは気になるけれど、ひざまわりも縦に拳一個分入るし、身長171cmの筆者でも割と普通に乗れた。大人3人で詰め込まれるのはちょっと遠慮したいが、ふたり掛けの短距離移動なら、グラスルーフ(V220d系はオプション)もあるしエマージェンジーシート以上の快適さだ。

背もたれは3座独立、座面は6対4分割の3列目シート。

2.0L直列4気筒ディーゼルターボ+9速ATのFR車

2.0LとなったOM654型直列4気筒ディーゼルターボ(163ps/380Nm)は、実直でいいエンジンだ。その車重に対して決してパワフルとは言いがたいけれど、9速ATとのマッチングを最大限に生かして、低速から常用域まで守備範囲の広い走りを披露してくれる。

最大出力163ps・最大トルク380Nmを発揮するOM654型直列4気筒ディーゼルターボエンジンは全グレード共通。

アイドリング付近での振動は残っているが、回せばラフさは消えてスムーズに回る。今後は電動化によって、アイドリング付近の振動が消せればなお良い。

縦置きされた直列エンジンの右(排気)側に設置されたタービンは、本体やその周辺も遮熱材で覆われている。

駆動方式はFRだが癖はなく、ワインディングでの操舵追従性も素直。ゴージャスな見た目に反して、走れば走るほど体になじんで行く素朴な感じが素晴らしい。

豪華仕様「V220d EXCLUSIVE long Platinum Suite」

V220d EXCLUSIVE long Platinum Suite
V220d EXCLUSIVE long Platinum Suite

後半に試乗したV220d EXCLUSIVE long Platinum Suiteは、言ってみればカオ違いの豪華仕様で、そのスリーサイズ及びホイルベースは全く同じだ。装備面ではナッパレザーシートが標準装備となり、前席にはシートベンチレーター、2列目にもシートベンチレーター/シートヒーターにフットレスト等が標準装備される。

V220d EXCLUSIVE long Platinum Suite
V220d EXCLUSIVE long Platinum Suiteのコックピット。
シートはナッパレザーとなり、前席はシートベンチレーターも標準装備。
V220d EXCLUSIVE long Platinum Suiteの2列目シートはシートヒーター/シートベンチレーターが標準装備。
2列目シートの足元にはフットレストを配置。
2列目シート用のテーブル。
3列目シート。パノラミックスライディングルーフが標準となりホワイト内装と合わせて解放感抜群。
3列目シートに座る筆者(身長171cm)。

実際二列目のエクスクルーシブシートに座ってみるとその質感はきちんと格上げされていて、V220dと比べれば相対的にゴージャス。とはいえ「プラチナムスイート」を名乗るなら、やはりもう少し日本人好みなダンピングを与えてもいいと思った。つまりその真価は今回のようなチョイ乗りではなくて、高速巡航でのロングドライブをすることにある。

940万円〜!価格とスペック

Vクラスは940万円のV220dから1370万円のV220d EXCLUSIVE extra-long Black Suiteまで、全5グレードをラインナップ。ここでは試乗車として用意されたV220d longとV220d EXCLUSIVE long Platinum Suiteのスペックと価格を紹介する。(MotorFan編集部)

グレードV220d longV220d EXCLUSIVE long
Platinum Suite
車両型式3DA-447813P
全長5140mm
※5150mm
5140mm
全幅1930mm
全高1880mm
ホイールベース3200mm
重量2420kg
※2520kg
2530kg
最小回転半径5.6m
乗車定員7名
ラゲッジルーム容量(VDA方式)1030-4650L
エンジンOM654型
直列4気筒ディーゼルターボ
排気量1949cc
最大出力163ps/3800-4400rpm
最大トルク380Nm/1600-2400rpm
燃料/タンク容量軽油/70L
WLTC燃費12.6km/L
トランスミッション9速AT
駆動方式FR
サスペンション前:マクファーソンストラット
後:セミトレーリングアーム
AIRMATICサスペンション
ブレーキ前:ベンチレーテッドディスク
後:ディスク
タイヤ245/45R18
※245/45R19
245/45R19
価格975万円
※1163万1000円
1355万円
Vクラス諸元
※は試乗車(オプション装着車)

なお、試乗車のV220d longはオプションとしてAMGラインパッケージ(75万9000円)とエクスクルーシブパッケージ(112万2000円)が装着されており、価格は1163万1000円。全長が5150mm、車重が2520kgとなる。

V220d longのタイヤサイズは245/45R18が標準だが、試乗車はオプションの19インチAMGホイールに245/45R19サイズを装着。銘柄はコンチネンタルのプレミアム・コンタクト6だった。
V220d EXCLUSIVE long Platinum Suiteは245/45R19が標準。こちらもタイヤはコンチネンタルのプレミアム・コンタクト6を装着していた。
・V220d long(試乗車)装着オプション

「AMGラインパッケージ」(75万9000円)
AMGライン
パノラミックスライディングルーフ
サイドスカートクロームライン
AMGリアスポイラーリップ
イルミネーテッドラジエターグリル
19インチAMGアルミホイール(R1W)
カーボンルックインテリアトリム

「エクスクルーシブシートパッケージ」(112万2000円)
2列目エクスクルーシブシート(左右)
2列目シートベンチレーター/シートヒーター
2列目フットレスト

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

自動車雑誌の編集部員を経てフリーランスに。編集部在籍時代に「VW GTi CUP」でレースを経験し、その後は…