目次
日本発!画期的なモビリティの価格は150万円

自動運転テクノロジーや次世代モビリティの研究者、自動車の開発コンサルタントとしてキャリアを積み重ねてきた中野裕士さんが2021年に起業したスタートアップ企業「LIFEHUB」社はモビリティ製品の研究開発が事業の根幹となっている。そのLIFEHUB社が、画期的なスモールモビリティのお披露目を行ったので、報告したい。
同社の企業理念は「人々が感じていた不自由をロボット工学、デザイン、モビリティ技術で解決し、全ての人に自由を届ける」というもの。言い換えれば、テクノロジーによってQoL(生活の質、人生の質)を向上させることが重要なテーマとなる。人生・生活の中心という意味を込めた社名からも、そうした決意が感じられるところだ。
今回、試作機が初公開された「AVEST(アヴェスト)」は、一見するとスタイリッシュな電動車椅子といった第一印象だが、困りごとを解決する新しいソリューションとして生まれている。
この電動車椅子は、それ単体で階段を昇降したり、段差を乗り越えたり、スロープなしで列車に乗り込めたりするという常識破りの走破性を持っているのだ。
現時点の計画としては、ファーストモデルとなる「アヴェスト ローンチエディション」を2026年に50台限定で発売、価格は150万円と設定されている。電動車椅子としては、非常に高価といえるが、それ単体で階段を昇降できる電動車椅子は世界を見渡しても2例しかなく、それらの価格帯は240万円~550万円となっていることを考えると、驚くほどリーズナブルにといえそうだ。
AVESTという名前はスペイン語の「ダチョウ」に由来
「AVEST(アヴェスト)」という製品名は、スペイン語のダチョウ(avestruz)に由来しているという。
階段を昇降する際に、シートを持ち上げたシルエットにダチョウ的な要素も感じさせるが、技術的な面においてダチョウに由来したネーミングが納得できる要素がある。それこそが、車両と乗員の重心をリアルタイムに把握しつつ、乗員が安心して乗っていられるようにシートの位置や角度を自動制御する「AGC(アダプティブ・グラビティ・コントロール)」だ。

スポーツバイクなどの姿勢制御に利用されていることで知られる6軸IMU(慣性計測装置)を搭載、階段を昇降しているときでも乗員が安心できるようなシート位置や角度を演算し、アクチュエータによって調整する機能…と理解することができるだろう。
またシートを支える部分には左右にオレンジ色のユニットが備わっている。これは光の反射によって対象物までの距離を測定するTOFセンサーで、前方の障害物を認識すると自動的に減速するプリクラッシュセーフティ機能も備わっている。電動車椅子というのは、歩行者同等の速度(最高速6km/h)というレギュレーションはあるが、それでもプリクラッシュセーフティ機能が付くのは安心感につながる。

テクノロジー的には床下にある2つのクローラに注目

アヴェスト最大のセールスポイントとなる階段昇降機能について整理していこう。
そもそも階段を昇降できる電動車椅子を開発しようというきっかけになったのは、LIFEHUB社の代表取締役CEOである中野さんが、腰を悪くして電動車椅子を使っていた時期の経験にあるという。世の中的にはバリアフリー化が喧伝されているが、実際には目前に階段があるのに、エレベーターのある場所に遠回りしなければならないこともしばしばだったという。
ハードウェアとして自らバリアフリーを実現する電動車椅子があれば、そうしたストレスから解放され、歩行者と同じ動線を利用できる。まさに車椅子ユーザーの困りごとを解決するソリューションである。また、電動車椅子が自力で段差を超えたり、階段を昇降できたりするのであれば、介助者の負担も減るだろう。
車椅子ユーザーの悩みごととして「列車に乗るのに30分かかる」という問題があるという。乗る駅、降りる駅でスロープの準備をしてもらわないといけないからだ。もしスロープなしで列車に乗り込める電動車椅子があれば、こうしたストレスからも解放される。加えて、アヴェストはエスカレーターを利用できる機能も実装すべく開発中だという。

アヴェストの段差乗り越え性能、階段昇降機能を実現するテクノロジーは、その床下に隠れていた。
階段昇降モードにすると、大小2つのクローラが降りてきて、車両を持ち上げる。作動の様子を見ている限り、小さなクローラがフロントを持ち上げ、階段に乗りあがる効果を発揮、外側にある大きなクローラのツメが段差をしっかりとつかむことで階段を上がっていくといった具合だ。
トピックスといえるのは、乗員は進行方向を見たまま階段を昇降できること。海外製の階段昇降機能付き電動車椅子では、階段を上がる際にはバック走行になるため乗員が不安を覚えることもあるという。そうした不安を払拭することも、開発の重要テーマだったという。こうした乗員の気持ちに寄り添う設計は、パーソナルモビリティ開発という視点だからこそ生み出すことができた…といえそうだ。
