陸上自衛隊:96式装輪装甲車」の後継車両は? パトリアAMV? 三菱MAV?

「次期装輪装甲車」の選定作業が進行中、パトリア社「AMV」と三菱「MAV」が最終候補か?

後継車両が整備される予定の「96式装輪装甲車」。96WAPCを改良する「装輪装甲車(改)」の開発は中止され、次期装輪装甲車の「選定」に舵を切った。「(改)」計画では諸外国軍の装輪装甲車のように基本形から派生型を生み出すファミリー化構想なども盛り込んだが結実できなかった。次期型選定については、三菱重工の『開発』と、諸外国軍が導入済みの既存車両から『選択』する中身の作業になっている。
陸上自衛隊はタイヤ式の装甲車「96式装輪装甲車」の後継車両を選んでいる最中だ。先ごろ、候補車両のひとつを試験走行するさまが富士山麓の陸自施設で目撃されている。後継車両「次期装輪装甲車」の決定は山場を迎えているようだ。
TEXT & PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

96WAPCの後継選び 国産か外国製か?

96式装輪装甲車(96WAPC)は文字どおり1996年に制式化、導入されて以降、現場部隊ではもう25年も使っている。製造は小松製作所だ。

タイヤ式(装輪)の車体は使い勝手が良く、防弾・装甲化された車内に多くの人員を乗せ、最高速度100km/hで舗装路を走行、自在に移動できる。拠点から危険地域の前線まで武装した人員(主に陸自普通科)を迅速安全に運び込めることが96WAPCの主な機能だ。

しかし古びてきた。そこで防衛省・陸上自衛隊は96WAPCを改良して「装輪装甲車(改)」を開発、後継車両とする計画を進めた。その特徴は装甲を後付け・増加できるようにし、用途や任務に合わせて増強可能とするもの。そして動力性能や走破性、輸送性も高め、全国展開の要求に応えるもの。車内から遠隔操作する「火器架台RWS(リモートウェポンステーション)」搭載なども目論むものだった。

2017年には「装輪装甲車(改)」の試作車が公開されたが、結局この開発計画は中止される。試作車両の防弾性能が陸自の要求値に足らないことが主要因だとされた。防弾性を満たす車体サイズにすると計画値より大型となり、公道での自力走行をクリアできる寸法や重量にならず、大きく重くなれば走行性・走破性・輸送性も低下する。問題点を大きく修正すれば開発コストも上がる。これらを理由に防衛装備庁は「装輪装甲車(改)」の開発を2018年に中止した。この顛末について同庁は「次期装輪装甲車の整備のあり方の検討など、必要な対応を適切に行なっていく」とし、開発計画は軌道修正が行なわれた。

96式装輪装甲車後部の大型ドアから武装した普通科隊員が降車し、小銃等を使った戦闘へ移る。これが下車戦闘。人員は下車すると素早く散開し、射撃などを行なう。こうした機能は次期型にも要求されるものになるはず。

2019年9月10日、防衛省は次期装輪装甲車の「選定」について発表した。当時のリリースには「〜開発中止を踏まえ、①複数の試験用車種を選定し、②それらが自衛隊の運用等に供することを試験等により確認した上で、③最適な車種を選定する」とあった。 そして国内外の防衛装備(兵器)製造企業からの提案を受け、3つの試験用車種を選定した。その試験用車種とは、

○機動装甲車「MAV(Mitsubishi Armored Vehicle)」三菱重工業製

○AMV(Armored Modular Vehicle)フィンランド・パトリア社製

○LAV6.0(Light Armored Vehicle)カナダ・GDLS社製 

この3台で、つまりこれらから選ぶことになる。

米陸軍の装輪装甲車M1128ストライカー。全世界的に緊急展開する部隊の装備となる。大口径砲を装備するものなど派生型も多い。基本形の装甲車から派生型を生み出すファミリー化設計などは範とする部分だ。同時にこれは現代世界的な手法でもあり、そのなかで優れた装輪装甲車は多い。米軍使用車だけが陸上自衛隊にマッチするわけでないことも事実だと考えられる。

三菱MAVは16式機動戦闘車の技術を流用した自社開発試作車両で、パトリアAMVとGDLS・LAV6.0は既存車両だ。これは「次期装輪装甲車導入候補車種の試験用車両」の名目で行なわれた事業のひとつで、車種選定に必要な試験用の車両を買うための予算・経費として約21億円が認められ、3社との契約も行なわれた。

一時は開発中止、頓挫したかにみえた次期装輪装甲車の計画はジリジリと進み、2021年12月初旬、富士山麓の陸自富士学校の敷地内を走るパトリアAMVの姿が捉えられている。本車は先に紹介したように次期装輪装甲車の車種選定に必要な試験用車両のうちの1台だ。これを根拠に断定はできないものの、選定候補は三菱MAVとパトリアAMVに絞られたとする分析もある。しかしこれはあくまで噂レベルだ。また、即応機動連隊用の装輪装甲車と、一般部隊用のソレを分けて検討していると分析する向きもある。前者用・後者用と2種類・2社に分けた場合、調達コストや維持管理面などで悩ましく思える。部隊の使用用途に合わせたことにはなるが、果たしてどうなのだろう。

次期装輪装甲車は現状の96WAPC と同等の配備数ならば400両近くの導入数になるだろうし、あるいはもっと大量に必要になるかもしれない。大きな話だ。国内防衛装備産業の維持や発展などを重視した選択も重要だが、往々にして高コストになる。信頼性や即戦力などの面で外国製から一定の評価のあるものを選択することも間違ってはいないが、そうすると金は外国に流れ、そして外国製品とは国際情勢の変動次第で本体や部品等の需給状況に大きく影響を受けることも本当だろう。これはコロナ禍のマスク枯渇パニックと同様だ。国産、外国産ともに一長一短はあるから次期装輪装甲車の選定動向は注意したい。どちらにせよ、次期車両を使う自衛隊にとってベストな車両を期待したい。その方が我々国民にも最良だと思える。

陸自富士学校の敷地内を走るパトリアAMVの姿は、2022年1月14日発売の「自衛隊新戦力図鑑2022」に掲載しています。

自衛隊新戦力図鑑2022

2022年1月14日発売の「自衛隊新戦力図鑑2022」では陸自富士学校の敷地内を走るパトリアAMVの姿を掲載しています。https://www.amazon.co.jp/自衛隊-新戦力-図鑑-2022-サンエイムック/dp/4779645123/ref=sr_1_4?__mk_ja_JP=カタカナ&crid=11FMXH7MCWM5L&keywords=自衛隊新戦力図鑑&qid=1640336382&sprefix=自衛隊新戦力図鑑%2Caps%2C385&sr=8-4

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著者プロフィール

貝方士英樹 近影

貝方士英樹

名字は「かいほし」と読む。やや難読名字で、世帯数もごく少数の1964年東京都生まれ。三栄書房(現・三栄…