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待望の日本上陸→注文殺到→受注停止のジムニー ノマドをあらためてチェック
2025年1月30日、ユーザーが待ち望んでいたスズキ「ジムニー ノマド(以下ノマド)」の日本導入が発表された。しかし、それからわずか4日後の2月3日には受注停止となる、“ノマドショック”が起こってしまったのである。
シエラを注文していた顧客が発表前にノマドに変更した分があったとは言え、わずか数日で年間販売予定台数を遙かに超える約5万台の注文が入るとは、さすがに誰も予想していなかっただろう。

筆者もそこまでの台数とは想像しなかったが、発表前の段階で、このクルマが他のシリーズモデル同様に大ヒットとなる予感が十分にあった。そこには、現在の日本の自動車市場で唯一無比と言える魅力がたくさん存在していたからだ。しかし、それと同時にガッカリポイントもあった。
そこで今回は、改めてノマドの「いいところ」「残念なところ」をお伝えしたいと思う。
50年以上のジムニーの歴史でノマドは初のロングボディ&5ドアモデル
さてジムニーの歴史は、ホープ自動車が開発した「ホープスター・ON型4WD」という小型四輪駆動車の製造権を、当時スズキ東京の社長だった故鈴木修氏が買い取ったことから始まる。このクルマは実際にはわずかな台数しか生産されず、このコンセプトを基に自社部品と生産ラインを使えるジムニーを創り出したのである。

1970年に始まったジムニーの系譜には、輸出専用モデルを入れると実に様々なモデルバリエーションがあるが、ノマドのようなロングボディ&5ドアモデルは初である。スズキ開発陣の話によれば、ノマドの開発自体が2020年以降に始まったということだったが、筆者が関係者から聞いた話では現行型ジムニー/ジムニー シエラのデビュー時には、そのコンセプトはすでにあったということだった。
ノマドの生産国であるインドでは、2代目ジムニーSJ40をベースにしてロングホイールベース化&1.3Lエンジン搭載をした「ジプシー」なるモデルがあった。ノマドは実質、このジプシーの後継車とも言える。もちろん日本から見ればシエラの5ドアロングモデルだが、彼の地では陸軍がジプシーを使っていることもあり、アップデートされた新型には大きな需要があるに違いない。
すでにノマド(インド名ジムニー)は、インド-チベット国境警察(ITBP:陸軍管轄の警察)に配備され始めており、今後は陸軍本隊にもデリバリーが始まると言われている。ただ、これはあくまで現地のマルチスズキ主導のビジネスであり、日本本社は関わりがないという。


インドで5ドアのワールドプレミアが行われた2023年1月、世界のジムニーファンは熱狂の中でそれを迎えた。中でも、狂喜したのは日本のファミリーユーザーではないだろうか。というのも、先行して販売されていた「ジムニー」と「ジムニーシエラ」は、共に3ドア車。かつては、日本製四輪駆動車の多くに3ドアショートボディが設定されていたが、後席への乗降性の悪さや荷室の狭さから、90年代半ばくらいから需要が下がっていった。
「いいところ」:5ドアボディならではの使い勝手の良さ
現在では、コンパクトSUVも含めて5ドアというのはベーシックであり、むしろジムニーやシエラのようなクルマは希有な存在と言える。それは魅力でもあるが、同時にファミリー層には使い勝手の悪さとなっていったのだ。
「5ドアなら買ってもいい」と言われ、泣く泣くジムニーの購入を諦めていたお父さんたちは少なくないと聞いている。そんなお父さんたちが、ノマドを歓迎しないわけがない。

乗車定員こそ4名だが、それをデメリットに思う人はそれほど多くない。というのも、少子化傾向である現代、ファミリー世帯の48.6%が子ども1人なのである(厚労省データ。ちなみに子ども2人は39.7%)。つまり子どもが大きくなった状況を考えても、5人乗りはあまり必要とされないわけだ。
ファミリー層に加えて、ライフスタイルでアウトドアレジャーを楽しむ人も高評価を得ている。例えば渓流で釣りを楽しむ人。スポーツフィッシングは基本的に頻繁な移動を伴うものだが、まず林道を走るには4WDが必要だ。さらに路肩に乗り上げて駐車をする際には、十分なロードクリアランスも必要になる。

またアングラーは一度セットした仕掛けをいちいちバラしたくないし、ロッドによっては短くできないものがある。そんな場合、室内長の短いジムニーやシエラでは不便であり、別にルーフボックスなどを装備しなければならない。こうした使い方だと、ノマドはまさにうってつけと言えるようだ。
オートキャンプ派もジムニーやシエラよりも荷物が積めるようなるということで、かなり注目している人が多いようだ。ジムニーやシエラではコンテナボックスにギアを入れて、それをさらにルーフラックに載せていたわけだから、そのまま車内に積むことができるなら、かなり使い勝手が良くなるのは間違いない。
ノマドはシエラと比較すると、ホイールベースが+340mm、荷室床面長も+350mmとなっており、この数値を見るだけでも居住性と積載性が向上していることがわかるはずだ。後席のクッションや形状もシエラとは違うものが採用され、後ろにしっかりと人を乗せるということが基本性能として確保された。

「いいところ」:しっかり走る1.5Lエンジンとアダプティブクルーズコントロール
多人数乗車の常態化が予想され、またロングボディ化したことで車重も増加したが、パワーユニットはシエラと同じ1.5L直4エンジンを搭載する。100kgもの増加がドライブフィールにどう影響するのか心配な面もあったが、乗ってみると4名乗車でもアンダーパワーということはない。さすがはスズキの基幹エンジンK15B型である。
ロングボディ化にあたっては、シャシーやパワートレイン、制動装置など各部を強化しており、その中には安全装置も含まれている。今回からセンサーカメラがデュアルとなり、特に4AT車において安全機能が向上した。個人的にうれしいのは、4AT車にACC(アダプティブクルーズコントロール)が付いたことだ。これにより、ロングドライブ時の疲労を大幅に軽減できるだろう。


「いいところ」:しっかりと座れるようになった後席
疲労と言えば、後席の居住性も合格と言えるレベルになった。正直、身体の大きい筆者(身長180cm)が3ドアモデルに乗ると、とても長時間耐えられるものではない。しかし、後席パッセンジャーがタイヤの上に座らなくてもいいレイアウトになったことで、明らかに姿勢に余裕ができた。もちろん、リクライニング機能やレッグスペースの拡大といった要素も快適につながっている。
加えて、 B・Cピラー付近に樹脂トリムが追加されていることが、フィーリング上の安心感を増加させている。車外から入る騒音を軽減し、静粛性を向上させることにも役立っているはずだ。また5ドア化によってリヤドアにもスピーカーが追加されて、後席でも騒音に左右されないサウンドを聴けるようになったのもまた福音であろう。


「気になるところ」:めっきのグリルとフラットに格納できない後席
ただ、冒頭でがっかりポイントもあるといったように、すべてが満足できるわけではない。SNSなどでも賛否両論となっているのが、まずピカピカのめっきグリルだ。ノマドならではの高級感を演出したかったのだと思うし、好みは分かれると思うのだが、個人的にはどこかしっくりこない。ここはオーソドックスなガンメタクロムめっきで良かったのではないだろうか。
それと“うーん…”だったのは、リヤシートの折り畳み。他のジムニーシリーズ同様、後席シートバックを倒すだけだが、快適性を追求した形状とトレードオフする形となって、完全なフラットにならないのである。こういった形でシートバックが浮くのはよく他車でも見られることだが。
加えて、後席リクライニング機構の金具が壁のトリム内に入れることができなかったため(車内居住空間の確保を優先して)、余計な“出っ張り”となって残るのだ。これがまた、箱物を積む時に邪魔な存在となる。
おそらく「ノマドを買ったら車中泊がしたい」と考えていた人は多いと思うが、このふたつのことで車中泊時の利便性がずっとダウンしてしまっている。



「気になるところ」:後席への乗降性とボディカラーのラインナップ
もうひとつ、後席の乗降性にも気になる部分がある。リヤドアを開けると、ボディのリヤフェンダー前部が剥き出しになるのだが、ここが乗り降りの際にどうしても身体に接触しがち。その何が問題かというと、ここはおそらく雨水やホコリ、泥などが入る部分で、そこに触れると汚れてしまうからだ。さらに、ドアシールガードの後端が、ドアを開けた際にわずかに残る構造となっており、ここも乗降時に脚が当たってかんばしくない。スタイリング上、どうにもできなかった部分であることは理解するが…。

そしてドリンクホルダーが人数分ないといった細かいことを除けば、ノマドはいろいろと夢を見せてくれるクルマだ。ただスズキにリクエストしたいのは、ボディカラーのラインナップを再考してほしいということ。オーストラリアなどであるガンメタリックのボディがないのは残念だし、グレーが出なかったことに「え〜」と思ったユーザーは少なくないのではないだろうか。さまざまなユーザーの嗜好があるので、どのボディカラーをラインナップするかは難しいところだとは思うのだが…。
まあそんなリクエストよりも、いつ受注再開するんだと思っている人の方が多いと思うが、国産クロスカントリー4WDがことごとくすぐに購入できなくなっている昨今、ぜひ一刻も早く買えるようになることを切に願う。

