大型バッテリーの搭載や重量増にどう対処した? e-スバル・グローバル・プラットフォームを深堀りする【スバル・ソルテラ(ボディ&シャシー解説)】

スバル・ソルテラの土台を支えるのは、トヨタと共同で開発したe-スバル・グローバル・プラットフォームだ。EVだからできることとは? EVだからこそ配慮しなければならなかった部分とは? 既存のガソリン車とはまったく異なるその構成を、じっくりと掘り下げて解説しよう。

TEXT●安藤 眞(ANDO Makoto)

スバルとトヨタ、お互いの知見をフル活用した新プラットフォーム

 スバル・ソルテラのプロトタイプ実車レポート第3回目は、ボディ&シャシー編だ。

スバル・ソルテラ
ガソリン車より約500kg重くなるEV。また、万が一の際にも床下に搭載するバッテリーが乗員に危害を与えることがあってはならない。そのため、スバルはEV用のプラットフォームをトヨタと共同で新規開発した。

 外形寸法から、トヨタRAV4 PHVのGA-Kプラットフォームをベースにしているのかと思ったら、まったくのゼロベースで開発されたものだという。バッテリーの搭載でRAV4やフォレスターより400kg前後増えた衝突エネルギーからEV特有の高電圧部品を保護するためには、ゼロからの専用設計が必要だったのだ。開発はどちらかが主導したのではなく、両者からほぼ同人数のエンジニアを出し合い、お互いの知見をフル活用したとのこと。生産はトヨタの工場で行われる。

トヨタbZ4X
ソルテラが採用するe-スバル・グローバル・プラットフォーム。※写真はトヨタbZ4X

 スバルはこのプラットフォームに「e-SGP」という名前を付けている。SGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)の特徴と言えば、床下のサイドメンバーを斜めに通し、前から後まで連続させていることだが、ソルテラは床下一面にバッテリーを搭載する都合上、このメンバーが取り去られている。

 代わりを務めるのが、バッテリーケース。リチウムイオン電池は強可燃性の電解液を使用しているため、衝突性能試験+αの荷重に耐える強固なケースで守られている。これをボディ骨格と多点で締結し、内燃機関用SGP以上の強度と剛性を確保している。

トヨタbZ4X
バッテリーパックを剛性部材として活用する。※写真はトヨタbZ4X

 フロントまわりのフレーム構造で特徴的なのが、モーターの前にあるクロスメンバー。バンパービームから入った衝突エネルギーを、これを使って逆サイドにも分担させる。サイドメンバーからフロントフロアにつながる部分も荷重分散(マルチロードパス)構造となっており、オフセット衝突時も骨格全体を使って荷重を支持する構造になっている。

 リヤ周りのフレームは、オーソドックスな格子配置となっているが、こちらもバッテリーケースの手前でサイドシル方向にも荷重伝達する構造を採用している。

トヨタbZ4X
超ハイテン材の採用を拡大することで、ボディの軽量化も図られている。※写真はトヨタbZ4X

 クラッシュストロークを取りにくい側面衝突には、ボディとバッテリーケースの両面で対応。フロアの上に1180MPa級超ハイテン材のクロスメンバーを2本配置しているのに加え、バッテリーケースの内部にも同材料のクロスメンバーを3本配置する。バッテリーケースの両サイドには、アルミ押し出し材のEA(エネルギー吸収)部材をボルトで締結。衝突時にはこれを潰すことでエネルギーを吸収し、ハイテンのクロスメンバーで変形を抑える。

 高張力鋼板は最大1500MPa級まで使用しており、590MPa級以上が61%に達する。特に780MPa級以上の材料が約40%と、フォレスターの約10%に対し、より高強度側にシフトしている。ボディ構造はフルインナーフレーム骨格かと思ったら、特にアナウンスは無いので、そうではないのかもしれない。

サスペンションは前ストラット、後ダブルウイッシュボーン

 ボディが専用設計となる一方、シャシー部品はトヨタのGA-Kプラットフォームのものを有効活用。形式はフロントがストラット、リヤがトレーリングリンクに3本のラジアスリンクを組み合わせたダブルウィッシュボーン式となる。

 フロントサスのジオメトリーは、ソルテラ&トヨタbZ4用に最適化を実施。ロワリンクの前側ブッシュ高さを6.5mm低くして揺動軸を前傾にし、アンチリフト力を発生させるジオメトリーとしている。モーターは発進の瞬間から強力なトルクが出せるため、ガソリン車と同じジオメトリーではノーズが持ち上がってしまうからだ。

スバル・ソルテラ
フロントサスペンションはストラット式。

 リヤサスはロアNo.1アーム(前側)の剛性を高め、ロアNo.2アーム(後側)の剛性を下げるチューニングを実施。これは横力トーインを弱める方向になるため、スタビリティが低下しないか?と問えば、「ソルテラの仕様では低μ路での操舵応答が足りなかったり、アンダーステアが大きめになったりしたため、それを補正してドライバーの意図通りに動くようにするため」とのこと。ガソリン車とは重量配分もヨー慣性モーメントも異なるため、専用の設定が必要になったのだ。

スバル・ソルテラ
リヤサスペンションはダブルウイッシュボーン式。

 ロール方向も、慣性主軸とロール軸を平行に近づけ、自然なロール姿勢とロールバランスにしたとのことだが、ソルテラは床下に500kg前後のバッテリーを積むため、RAV4やフォレスターとは慣性主軸位置は大きく異なるはずで、サスペンションのジオメトリーで合わせるのは苦労したのではないか。

スバル・ソルテラ

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スバル・ソルテラ(FWD車) 諸元表 ※[ ]内はAWD車

■ボディサイズ
全長×全幅×全高:4690×1860×1650mm
ホイールベース:2850mm
室内長×室内幅×室内高:1940×1515×1160(ノーマル/ソーラールーフ仕様)/1145(ガラスルーフ仕様)mm
車両重量:1930kg〜[2020kg〜]
乗車定員:5名
最小回転半径:5.7m
最低地上高:210mm

■パワートレーン
モーター種類:交流同期電動機
モーター定格出力:フロント150kW
モーター最高出力:フロント150kW[フロント80kW/リヤ80kW]
モーター最高出力(システム):150kW[160kW]
総電力量:71.4kWh
総電圧:355V
一充電走行距離(WLTCモード):530km前後[460km前後]
AC充電器最大出力:6.6kW
DC充電器最大出力:最大150kW

■シャシー系
サスペンション形式:Fマクファーソンストラット・Rダブルウイッシュボーン
ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク・Rベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:235/60R18[235/60R18または235/50R20]
ステアリング:ラック平行式電動パワーステアリング
※日本仕様、社内測定値

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著者プロフィール

安藤 眞 近影

安藤 眞

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェク…