清水浩の「19世紀の技術を使い続けるのは、もうやめよう」 第8回 

脱・温暖化その手法 第8回 —カーボンニュートラルの目標設定2050年では、遅いー

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Eliica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

日本は世界平均より1.8倍の温暖化が進行

2020年に当時の菅総理が、2050年にカーボンニュートラルにするという目標を打ち出した。これに伴い、政府機関や大企業はそれに向けた取り組みを始めている。

気象庁からのデータ(日本の年平均気温)を見ると、日本の平均気温はこの100年で1.28度上昇している。世界的には0.73度である。日本は世界平均の約1.8倍の速度で温暖化が進んでいる。

今、世界の目標も2050年までにカーボンニュートラルを達成することである。その時の気温上昇の予測は産業革命前の気温に比べて1.5度である。確かにこれまで100年の温度上昇が0.73度であれば、あと30年で1.5度の上昇の予測というのは合理性がある。

しかし、日本は既に1.28度上がっている。1.5度までの間に0.22度の差しかない。

日本の平均気温偏差の推移
トレンド1.28とは100年で1.28℃上昇していることを示している。
下のグラフの世界平均推移に対し上昇度合いが大きいことがわかる。
                 (気象庁ウエブサイトより)
世界の平均気温偏差の推移 
トレンド0.73とは100年で0.73℃上昇していることを示している。
                 (気象庁ウエブサイトより)

温暖化の将来予測のシミュレーションは1990年前から始まっており、その先駆けとなったのは2021年にノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎氏であった。このシミュレーションには大規模なコンピュータが用いられ、年々精度が上がっている。その結果から中緯度に属する日本は温度の上昇速度が大きい。

温度上昇の影響は作物、海産物に

すると、2010年からの10年間で我々が体験して来たより、今後、はるかに大きな影響を受けるのは明らかである。

そうなると、どんな影響が予想されるだろうか。

熱中症はもっと増えるに違いない。これを防ぐために冷房を強化すると、電力需要が増えて温暖化はさらに進む。

台風や集中豪雨の被害も増える。これを防ぐためにはダム建設、堤防のかさ上げを全国レベルで行う必要がある。住宅も安全なところに移転しなくてはならない。そのための工事の費用とそれに伴う建設資材の製造にさらに多くのエネルギーを使いCO2発生を増やしてしまう。

温暖化が進むことで、今はまだ明確な被害にはなっていない被害も出てくると予想される。例えば農作物が採れなくなったり、海流の変化で海産物への影響も出てくる。

さらに2021年に北海道の沿岸に赤潮が発生して大きな被害が出たが、このような出来事が一過性のものでなくなる可能性がある。

これらのことを考えると、世界が目標に設置している2050年までのカーボンニュートラル化は、遅すぎると言わざるを得ない。これよりもはるかに早い時期に目標を達成しなくてはならない。

今より暑い夏や、大きな台風の恐怖、より激しい集中豪雨を2050年まで我慢するわけにはいかない。2050年という目標ですら、あと30年を切っている。さらにそれでは遅いのだ、ということをどうすれば誰もが実感を持って意識できるのだろうか。

次回からは、いまこの現代を支配している技術の大半が19世紀の古いものであるのかを解説して行きたい。さらに20世紀に生まれた技術がどのようなものであるのか、その可能性の高さへと話を進めて行くことにしよう。そうすることで、脱・温暖化の提案ができるものと考えている。今回はかなり悲観的な未来を予測することになったが、まだまだ明るい未来が構築できる、そんな話に期待して欲しい。

2002年に開発したKAZ(Keio Advanced Zero Emission Vehicle)
世界で初めてリチウムイオン電池を用いてナンバーを取得した電気自動車。
8輪車にした理由はタイヤを小型化して、有効に使える室内空間を広げるこ
とが目的。8輪車8輪駆動で各車輪にインホイールモーターを搭載。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…