清水浩の「19世紀の技術を使い続けるのは、もうやめよう」 第13回 

脱・温暖化その手法 第13回 —セメントの発明と二酸化炭素の関係を考える—

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Eliica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

セメントの歴史は石器時代にまで遡る

セメントとは、接着材一般のことを指す。我々がよく知っているセメントは、正確にはポルトランドセメントで、主な成分は酸化カルシウム(CaO)だ。これに水(H20)を加えると水酸化カルシウムになり、時間が経つと固まる。

セメントを使う場合には、砂と混ぜて水を入れてかき回して、床や壁などに塗るモルタルとしての使い方と、モルタルに砂利を混ぜて建築物や道路の舗装に使うコンクリートがある。さらに鉄筋を型で覆い、ここにコンクリートを流し込むと鉄筋コンクリートになる。鉄筋コンクリートは圧縮に強いコンクリートと引っ張りに強い鉄筋を複合材として使うことにより、堅牢な構造物となる。

現代の生活にコンクリートは多くの可能性をもたらしたことは
誰でもが理解できる。しかしコンクリート生成の段階でCO2
がどれだけ発生しているかは、あまり知られていない。

セメントの歴史は、9000年も前の新石器時代とされている。中国では5000年前の住居跡にセメントを使った形跡がある。

現在のポルトランドセメントはまず1756年に粘土の多い石灰石を焼いて作った材料が水の中でも固まり続けることを発見した。

その後1824年にイギリスのジョセフ・アスプディンが石灰石の砕いたものに粘土を混ぜ、水を加えて細かく砕き、これを炉で焼いて粉砕したセメントについて特許を取得した。このセメントで出来た人造の石がイギリスで建築用に使われていたポルトランド岬から産出される石材に良く似ていたから、ポルトランドセメントと名づけられていた。

セメント生成には多くのCO2が発生

セメントは石灰岩、粘度、珪石、酸化鉄、石膏などを材料にするが、その大半は石灰岩である。そして作られるセメントの主成分は酸化カルシウムである。セメントを作るには大量のエネルギーを必要とし、そのためのCO2排出が多いのみではなく、石灰岩が酸化カルシウムに変化する過程でCO2が発生する。化学式としては

CaCO3→CaO+CO2

となる。

2021に日本でのセメント生産は5,600万トンであったが、そのために、その1.2倍の7,000万トンの石灰石を使っている。石灰石の分子量は100で、CO2の分子量は44であるから、セメントを作る過程で石灰石の44%の重さのCO2が発生する。2020年の日本のCO2排出量は約10億トンであったから、石灰岩がセメントに化学変化する過程で3,000万トンすなわち総排出量の3%のCO2が発生する。これに加えてセメントを作るために材料を炉に入れて高温に熱するための燃料から発生するCO2と合わせるとその発生の約4%はセメント製造で発生している。

セメントは石灰岩が酸化カルシウムに変化する過程でも
多くのCO2が発生する。

これまで見てきた、自動車、発電、製鉄と同じようにセメントも19世紀の発明だった。

こうしてみると、昔ながらの火を使うことと、19世紀に発明された技術で、ほとんどのCO2を排出していることになるのだ。

2011年に開発したLEI。4輪にインホイールモーターを配置し、床下のフレーム構造内に電池を収納。
空気抵抗を減らすために車幅を狭くして、ドア側面に側面衝突に対する張り出しをつけている。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…