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bZ4Xとソルテラはどこが同じで、どこが違うのか
試乗車はくじ引きで決まった。最初にスバル・ソルテラAWDに乗り、トヨタbZ4X FWDに乗り換えることになった。出発地は静岡駅。約110km走って浜名湖で乗り換え、さらに約160km走って名古屋駅がゴールである。前半、後半のルートとも一般道と高速道路を走った。後半のルートでは、本宮山スカイラインでワインディング走行を堪能。両ルートとも、途中で急速充電を行なった。
bZ4X/ソルテラは専用のプラットフォームを採用した電気自動車(BEV)で、カテゴリーはCセグメントのSUVに属する。トヨタとスバルの協業による開発で、基本的には共通の仕様としながら、それぞれの思いと持ち味を生かしてキャラクターを作りわけている。トヨタbZ4Xはシンプルな操作系、コンフォートな乗り心地を狙ってチューニング。スバル・ソルテラは運転の楽しさを重視した。もっと踏み込んだ話をすると、ソルテラはガソリン車のフォレスターを目標に置いて走りをまとめた。
bZ4Xとソルテラはどこが同じで、どこが違うのか。相違点をいくつかピックアップしてみよう。71.4kWhの総電力量を持つリチウムイオンバッテリーを搭載するのは、両者で共通。FWDはフロントに最高出力150kWのモーターを搭載し、4WDはフロントとリヤそれぞれに80kWのモーターを積む。前後合わせて160kWだ。
「bZ4X/ソルテラは、トヨタ/スバルのBEV第一弾で、ど真ん中に位置するCセグメントのSUV。そう考えると、出力は150kW、160kWがちょうどいい」と考えたと、開発に携わる技術者は説明する。プラットフォームを共有するレクサスRZ(プロトタイプが公開中)はフロントに150KW、リヤに80kWのモーターを搭載する。AWDがフロントの出力を抑えて80kWにしたのは、レクサスRZと差別化する狙いがあるようだ。
トヨタにはPOWERモードとパドルがない
走行機能面ではドライブモードに違いがある。bZ4XのAWDは「ECO」「NORMAL」の2種類なのに対し、ソルテラは「ECO」「NORMAL」に加え、「POWER」の設定がある。また、ソルテラのAWDにはパドルシフトが備わるのもbZ4Xとの大きな違いだ。モード名称から推察できるように、ECOは電力消費を抑えるモードで、アクセルペダルの踏み込みに対するトルクの立ち上がりを穏やかにして電費向上を狙う。POWERは逆で、アクセルペダルの踏み込みに対するトルクレスポンスが高い。
実際、POWERを選択した際のキャラ変ぶりは明白で、クルマが俄然元気になったように感じられる。ECOは思ったほどNORMALとの落差を感じず、普段はこのモードでいいかなと感じた。アクセルペダルの踏み込みに対する反応がそこまで鈍いわけでもなく、ストレスを感じない。むしろ、ECOを標準に位置づけ、少し機敏に走りたかったらNORMAL、走りを積極的に楽しみたいならPOWERがいいと感じた。
さんざん乗り回した挙げ句にカラクリを知って「そうだったの?」と自らの鈍さを恥じるしかないのだが、bZ4XのNORMALとソルテラのPOWERは同等の特性なのだという。なので、NORMALモード同士で対比させると、bZ4Xは割りと応答性が良く、ソルテラは扱いやすさ重視ということになる。
ECOモードの制御もbZ4XのAWDとソルテラのAWDでは異なる。ソルテラの場合は常時AWDだが、bZ4XのAWDは定常走行中、駆動力が小さな状況ではFWDで走る。リヤのインバーター制御をシャットダウンして電費を稼ぐ狙いだ。FWDで走ることによる取り分はごくわずかだが、少しでもユーザーの実用電費を改善したいと考えたのがトヨタ。いっぽう、4輪が持つタイヤの能力をきっちり使って車両安定性を重視したのがスバルで、考え方の違いが制御の違いとなって現れている。
センターコンソールには、トヨタでいう「強回生ブレーキ」、スバルでは「S-PEDAL DRIVE」と呼ぶスイッチが付いている。駆動用モーターを搭載する電動車(ハイブリッド車やBEV)に特有の機能で、モーターの回生(発電)機能を使って強い減速力を発生させるモードだ。慣れるとアクセルペダルの戻し側で減速を上手にコントロールできるようになり、ブレーキペダルに踏み換える頻度が減る。
前述したようにソルテラの4WDにはパドルシフトが付いており、パドルの操作でアクセルペダルを戻した際の回生減速度を任意にコントロールすることが可能だ。左のパドルは−(マイナス)で、引くと回生が強まり、右の+(プラス)を引くと回生が弱くなっていく。減速度のレベルは4段階ある。
デフォルトはレベル2で、自動変速機を搭載するエンジン車のDレンジに相当する減速感をイメージしたセッティングだ。アクセルペダルオフ時に強く減速させたいときは、左のパドルを引くとレベル3、レベル4と切り替わり、減速度が強くなっていく。ドライバーの目の前にあるメーターに表示される「D」の字の右側にあるVの数で4段階のレベルが表示される。
右のパドルを引いてレベル1にすると、減速度が最も弱い「セーリング」相当の制御になる。クラッチを切ってニュートラルにしたのと同じような空走感が感じられる。高速道路の巡航時、先行車がいない状況での使用に適していると感じた。
発生する減速度は車速によって異なるが、S-PEDAL DRIVE選択時の最大減速度は−1.5m/s²。パドルシフトのレベル4は−1.2m/s²で、レベル3は−0.8m/s²、レベル2は−0.4m/s²といったイメージだ(30〜40km/hの低車速時)。高速道路を走っている際に車間距離を調整するとき、あるいは、コーナーの多い一般道を走っているときに、コーナー進入に向けて車速を調整しつつ車両姿勢をコントロールする際に、パドル操作が役に立つ。
というより、パドルを操作しながら車速と車両姿勢をコントロールする行為そのものが楽しい。車速と欲しい駆動力に合わせてギヤ段を切り換えるMTを操るのに共通する楽しさがある(しかも、MTよりもイージーに楽しめる)。「運転の楽しさを重視した」ソルテラのクルマづくりは、パドルシフトの設定に象徴されているように思う。
bZ4Xはコンフォート、ソルテラは走りの楽しさ
ハードやソフトの仕様はトヨタbZ4Xとスバル・ソルテラで共通にするのが基本だが、ECOモードの制御のように、それぞれ独自の仕様とした部分もある。ダンパーの減衰力や電動パワーステアリング(EPS)の適合もそのたぐいで、ソルテラは走りの楽しさを演出する方向で仕様決めが行なわれ(ダンパーの減衰力はbZ4Xより高め)、bZ4Xはコンフォートな乗り心地や走りを目指した諸元設定になっている。
スバルが押し通して(?)、トヨタが引いた(?)共通仕様もある。ブレーキのオートホールドだ。センターコンソールにある「HOLD」のボタンを押して機能をオンにすると、停車時、フットブレーキから足を離しても停止状態を維持してくれる。発進時にアクセルペダルを踏み込むと解除されるのだが、試乗時、「ブレーキをつかんでいる力がちょっと強すぎやしないか」と感じた。やや強めに発進しようとすると、ブレーキの解除にともなってパチンと弾かれたようなショックをともなう。
これ、スバルの思想であえてホールド時のブレーキ力を強くしたのが原因だ。トヨタ側は発進時のなめらかさを重視するスタンスだったが、スバルは坂道でのずり下がりを避けたい思いが強かった。議論を尽くした末に、スバルが主張した「強め」の設定に落ち着いたのだそう。議論を尽くしたといえば、両車とも回生ブレーキで完全停止はせず、最後はクリープ走行に移行し、最後はブレーキペダルを踏んで停止させる。
トヨタbZ4Xはトヨタらしさを積み重ねたBEVになっており、スバル・ソルテラも同様。bZ4Xは意図した薄味、言い換えればプレーンな仕立てになっている。白物家電的なBEVといえるだろうか。いっぽう、フォレスターと同等の走破性を持たせたと豪語するだけあって、ソルテラは濃いめで、スバル味が強い。