奇跡のノーマルハチロクトレノを発見! 【甲府駅自動車博覧会】

奇跡の1オーナー・ノーマル車を発見! 人気沸騰中のハチロクが当時のまま残っていた!【甲府駅自動車博覧会】

梅雨の晴れ間に恵まれた6月5日、山梨県の甲府駅北口広場で甲府駅自動車博覧会が開催された。会場で気になった名車たちを続けて紹介してきたが、今回は80年代の人気車筆頭格でもあるAE86スプリンタートレノを紹介したい。というのも、このハチロクはいわゆる「納屋物件」のような状態だったからなのだ。

PHOTO&REPORT●増田 満(MASUDA Mitsuru)
1983年式トヨタ・カローラレビン3ドア1600GTアペックス。

ハチロクことAE86型カローラレビン・スプリンタートレノは漫画の影響や、近年の旧車価格高騰のアオリを受け、最近では極上車になると400万円前後という驚きの値段になっている。以前はドリフトやサーキット走行に狙いを絞ってカスタム&チューニングされた個体が多く、そうした場合は値段が安い傾向にあった。近年ではこうしたドリ車やカスタム車をノーマルに戻す傾向が強くなってきており、高値をつけるハチロクもノーマル車に近いものが多い。もはやハチロクの扱いは完全に「旧車」と同じ状況になっていて、もちろん高い値段で購入するユーザーは激しく走ったりせず、大切に維持されるケースがほとんどだ。

マフラーが社外品に変更されているくらいでノーマル度が高い。

ノーマルに戻す傾向が強いと書いたが、それらは以前にカスタムされたりチューニングして走りを楽しんでいた個体といえる。改造された状態からレストアがてらノーマルに戻すわけだが、旧車として考えるなら価値的にはノーマル戻しのレストア車より、新車からの状態をキープしてきた個体に分がある。何せカスタム歴がなく新車時の塗装がそのまま残ったような個体なら当時の味わいがそのまま楽しめるわけだし、過去の履歴も比較的わかりやすいから。ただ、今時そんなハチロクがあるはずないと思われることだろう。筆者もそう思っていた一人だが、6月5日に開催された「甲府駅自動車博覧会」の会場で驚くべきハチロクと遭遇してしまった。なんと新車からの1オーナー車で内外装がほとんど新車のままという個体が展示されていたからだ。

オートカバーのフォグランプは現オーナーの手によるもの。
トムスの俗称「井桁」ホイールは貴重で中古相場も強気のものが多い。

一目見た時からただならぬオーラを感じて、近くにいたオーナーを直撃してみた。現在41歳の福田智之さんが所有するハチロクは1983年式のカローラレビンで3ドアのGTアペックス。ハチロクが全盛だった頃を当然知らない世代の福田さんだが、お話を聞けば80年代のモデルが大好きなことが判明した。実に以前からFC3SサバンナRX-7を所有してサーキット走行を楽しんでいる生粋のマニアで、RX-7は自分好みにカスタムとチューニングを進めている。そのため普段乗るのを躊躇う仕様になってしまったため、気軽に乗れるアシとして程度が悪くても良いからハチロクを探そうと思われたそうだ。もっと新しいクルマではなくハチロクを探したことに福田さんの古いクルマへの想いが表れている。

室内は外装よりもノーマル度が高い。
走行距離は11万8800キロだ。

インターネットを中心にハチロク探しの日々が続くが、これといった決め手にかけるままセカンドカー探しの旅は終わらない。5年前のそんなある日、とんでもない売り物に遭遇する。新車1オーナーでほぼノーマルを維持している売り物が出てきたのだ。しかも値段は相場より安めで、何かワケがありそう。とはいえ即座に連絡を取ると先方は北海道の夕張から。福田さんは埼玉県に住んでいるため、気軽に見に行ける距離ではない。ところが「こんな売り物を逃したら2度と見つからない」とばかりに翌日、北海道まで単身飛んでしまうのだ!

ハチロクお約束のダッシュ割れすら見られない。
ドアライナーの状態も抜群なレベル。

埼玉から飛んできた福田さんに驚かれた先方は、その熱意にほだされ相場より安くした理由を語ってくれた。なんでも新車で購入してから雪の積もる時期はガレージで保管されてきたほど最初のオーナーはハチロクに愛情を注いできた。だから、できることなら業者には売りたくない。熱心な個人へバトンを渡し、大切に乗ってほしいと考えていた。だから、通常の問い合わせがあっても売る気にならなかった。そこへ福田さんは埼玉から駆けつけてくれた。本当なら提示した額より高く売るつもりだったそうだが、福田さんの熱意に負けて値段までまけてくれた。

サイドサポート部にヤツレはあるものの致命傷にはいたっていない。
直射日光を受け続けると上部がボロボロになるリヤシートは極上レベル。

北海道で雪がないのは1年のうち半分くらいだろうか。その間、ガレージで保管されてきたのだから内外装とも劣化は年式の半分と考えていいだろう。ただ、このハチロクは走行距離が11万キロでしかない。おそらく天気の良い休日くらいにしか乗らなかったものと考えられる。福田さんが手に入れてから修理されたのはルーフのサビ修理くらいで、それ以外はほとんど手がかかっていないとか。内外装の程度が良ければ走行距離も伸びていないのだから当たり前だが、こうした古いクルマでオーナーが変わるとトラブルは比較的出やすいもの。ところがトラブルらしいことを経験されていないそうなので、前オーナーの手入れの良さと福田さんの乗り方が良い証拠だろう。

吸排気系を含めノーマルのままの4A-GEUエンジン。

当初は雨の日でも気軽に乗ることができる足グルマを探していた福田さんだが「雨の日には乗りません」と、RX-7と同じくらいの愛情を傾けることになってしまったハチロク。けれど、この状態を見てしまうとそれも納得だし、いつまでも今の状態をキープしたまま乗り続けてほしいと思ってしまう。というわけで、足グルマには違う車種を買うことになってしまったのだとか。

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著者プロフィール

増田満 近影

増田満

小学生時代にスーパーカーブームが巻き起こり後楽園球場へ足を運んだ世代。大学卒業後は自動車雑誌編集部…